スポーツテックと「食」の融合が新たな可能性を生む

テックとは、ITやインターネットやデジタル技術などの総称であり、テックには、ビジネスを根本から変える力があります。

スポーツ界でもテクノロジーの導入が進められています。

食はアスリートたちにとってすべてのベースであり、食をスポーツテックで進化させる取り組みは、アスリートの能力を高める手法として期待されるもの。

この記事では、スポーツテック分野における「食」に注目して紹介します。

食でアスリートをサポートするという考え方

「食とスポーツテック」を考察する前に「食とスポーツ」について解説します。

従来の「食とスポーツ」の関係が「食とスポーツテック」の関係に進化したと考えることができるからです。

よい食は健康を支えるので「当然に」に必要

スポーツには、普段の生活で必要になる基礎的な身体能力よりもはるかに高い身体能力が必要になります。

一方、スポーツに必要な高度な身体能力は、普段の生活に必要な基礎的な身体能力がベースになっています。

アスリート:より高い身体能力
ベース:普段の生活に必要な基礎的な身体能力

普段の生活に必要な身体能力は、普通の健康によってつくられます。

つまり、アスリートも、当然に普通の健康を持っていなければなりません。そしてアスリートは高い身体能力を発揮するために、より高度な健康を持っていなければなりません。

アスリート:より高度な健康
ベース:普通の健康

例えば、普通のビジネスパーソンであれば、多少体調が悪いくらいなら、仕事に行くでしょう。そして多少体調が悪くても、ほとんどいつもと変わらないパフォーマンスをあげることができるはずです。普通のビジネスパーソンには、普通の健康があればよく、より高度な健康まで必要としないからです。

しかし、アスリートには、高い身体能力を発揮するために、常に高度な健康が必要になります。

例えば、普通のビジネスパーソンには影響がないような体調不良であっても、走行系のスポーツ選手であれば走行タイムが如実に下がったり、ボール系のスポーツ選手であれば、コントロールが乱れたりすることが考えられます。

食は健康に深く関わるので、アスリートは普通のビジネスパーソンよりも食に気を付けなければなりません。

食のコーチという存在

有能なアスリートほど食に関して敏感になり、なかには食事を指導してくれる管理栄養士を雇っている人もいます。

アスリートのパフォーマンスを最大化する食を提案するアスリートフードマイスターという仕事や、アスリートフードサポート制度という仕組みがあるくらいです(*1、2)。

*1:株式会社アスリートフードマイスター
*2:アスリートフードマイスターとは(株式会社アスリートフードマイスター)

食事はスポーツに必要な栄養を摂るための手段

アスリートが食に注意しなければならないのは、スポーツと栄養が深い関係にあるからです。例えば次のとおりです。

  • 炭水化物と脂質、タンパク質:スポーツに必要な大量のエネルギーを生み出す
  • タンパク質:筋肉を合成する材料になる
  • ビタミン:運動時のエネルギーの産生に不可欠で、コンディショニングの調整と疲労回復に重要な働きをする
  • ナトリウム、鉄、カリウム、マグネシウム、カルシウム:これら重要なミネラルはスポーツによる大量の汗によって急激に減る

このように並べると、食がスポーツのベースになっていることがわかります。

スポーツを究めるアスリートも、趣味でスポーツをする人も、スキルを高めたり力を蓄えたりするために、食生活を整えることが重要になってきます。

食によるスポーツテックの事例

写真提供 = tong patong / Shutterstock.com

それでは、食に着目したスポーツテックを紹介します。

完全主食「ベースフード」

ベースフード株式会社(本社・東京都目黒区)は、「からだに必要なもの、全部入り」というコンセプトの、ベースフードという食を開発しました。

ベースフードには、パンの形状をしたベースブレッドと、スパゲティの形状をしたベースパスタがあります。

ベースフードには、次の栄養素が含まれています。

●タンパク質●n-3系脂肪酸●n-6系脂肪酸●炭水化物●食物繊維●ナトリウム●亜鉛●カリウム●カルシウム●クロム●セレン●鉄●銅●マグネシウム●マンガン●モリブデン●ヨウ素●リン●ナイアシン●バントテン酸●ビオチン●ビタミンA、B1、B2、B6、B12、C、D、E、K●葉酸

ベースフードにこれらの栄養素を盛り込んだのは、次の目的を達成するためです。

  • 体脂肪を効率よく燃焼させる
  • 筋肉をつける
  • 疲れにくい体をつくる

ベースフードのポイントは、パンとパスタである点です。これらはいずれも主食です。

同社は、主食だけで栄養バランスを整えられないか、と考えました。主食だけで必要な栄養をすべて採ることができれば、スピーディーに食事を終えることができ、サプリの助けも要りません。

ベースフード株式会社は「ベース・スポーツ・プロジェクト」という企画を行いました。これはプロ・アスリートにベースフードを試してもらい、食の課題を解決していく取り組みです。同社がこの企画の参加者にベースフードを1年間無料で提供し、モニタリングします。さらに、同社の管理栄養士が定期的に参加者にアドバイスをします。

食事コンディショニングサポート

AuB株式会社(本社・東京都中央区)は、サッカー元日本代表の鈴木啓太氏が創業した、アスリートの腸内細菌を改善するベンチャー企業です。

同社は2015年の設立時から2020年までに、サッカーやラグビー、陸上などの28競技の約700人から「便」の提供を受け、腸内細菌を研究してきました。

この知見を使って2020年5月に、コロナ禍で栄養管理に問題を抱えたアスリートを無償で支援する取り組み「食事コンディショニングサポート」を始めました。

プロチームによっては、所属する選手たちに健康食を提供しています。しかしなかには、コロナ禍でそれができなくなったところがあります。そうなるとアスリートたちは慣れない自炊に取り組まなければなりません。それでは食生活が乱れたり、栄養摂取に過不足が生じたりします。

食事コンディショニングサポートでは、AuBの管理栄養士や公認スポーツ栄養士などが、インターネット会議システムを使ってアスリートに食事のアドバイスをします。

食事トレーニング・アプリ「フードコーチ」

「フードコーチ」は、至学館大学のスポーツ栄養サポートチームが開発した、AIを活用したアスリート向け食事トレーニング・アプリです。

このアプリは、スマホにダウンロードして使います。

利用者がアプリに必要な情報を入力すると、栄養素の過不足を知らせたり、必要なサプリメントを提案したり、試合日の数日前のメニューをアドバイスしたりします。

至学館大学スポーツ栄養サポートチームはこれまで、500人以上のアスリートに食と栄養のアドバイスをしてきました。そのノウハウをAIに学ばせて、アプリにしたわけです。

まとめ

食は体のベースになります。スポーツの優劣は、体の能力によって決まるといっても過言ではありませんが、からだのベースを作るものの1つが「食」です。

つまり、アスリートやスポーツを趣味にしている人は、食に気を使うことが求められます。

本記事で紹介した3つの事例は、食テックとスポーツテックを融合したもの。

金融がフィンテックによって格段に進化したように、食テックとスポーツテックは、運動パフォーマンスを格段に進化させるでしょう。

(TOP写真提供 = Milan Ilic Photographer / Shutterstock.com)


《参考記事一覧》

アスリートフードマイスター

スポーツ選手の食生活(京都府医師会)

ベースフード

BASE SPORTS PROJECT応募フォーム(ベースフード)

新型コロナウイルスの影響で、自炊の選手増 栄養管理に悩むアスリートを無償で支援(AuB)

food coach - アスリートのための食トレアプリ

ベストパフォーマンスへ向けた体づくり。食トレAIアプリ「food coach」(Makuake)