デジタル化、そしてコロナ禍など様々な時代の変化を受けて、スポーツチームが提供できる価値は多様化してきている。Jリーグのアビスパ福岡 代表取締役会長 川森敬史氏と、ベルギーリーグのシント=トロイデンVVを運営する合同会社DMM.comの柴田コーリー氏が、先日都内で開催されたスポーツビジネスカンファレンス、「HALF TIMEカンファレンス2024 Vol.2 supported byアビームコンサルティング」で意見を交わした。
スポーツクラブの収益の最適化に向けて
現在アビスパ福岡で代表取締役会長を務める川森敬史氏が、社外取締役としてクラブに関わり始めたのが2014年。2期連続の赤字を計上し、Jリーグ加盟ライセンスの剥奪まで瀬戸際を迎えていたタイミングだった。
「翌年に代表取締役社長を拝命して、まず取り組んだのが売上・利益の底上げでした。クラブの仕組みを見直して、社内規定から経営会議などを作り直したんです。強化部長やアカデミーダイレクターにまで会議に参加してもらって、まずは会社の財布をみんなが理解し、その中でどのように創意工夫していけるかを考えたのです」(川森氏)
一方でシント=トロイデンVVは、ビジネスとして当たり前のことを少しずつ積み上げてきたという。
シント=トロイデンVVは、ベルギー1部リーグに所属するチーム。2017年にDMMグループがクラブの経営権を取得。実質的に外国人枠がなく、日本人サッカー選手のステップアップリーグとして最適だと目されている。過去に冨安健洋選手などが在籍していて、現時点でも6名の日本人選手が所属している。
「(シント=トロイデンVVは)DMMグループが展開する様々なビジネスのひとつとして見ていて、経済的に成り立つ事業であることが重要。そのためにチームとしての収益構造を変化させてきました。チームには”日本サッカーの強化”というビジョンがあり、特定のホームタウンに縛られないため全国からスポンサーを集ることができます。現在では、全体の収益の約4割が日本からのものとなっています」(柴田氏)
変化し続けるスポーツビジネス環境
スポーツを取り巻く環境は時代とともに大きく変わってきている。なかでも、コロナ禍が大きなターニングポイントとなっているようだ。
「新型コロナウイルスの流行がきっかけで、DMMオンラインサロンを利用した『アビスパTV』をファンとのコミュニケーションツールとして導入しました。当時はファンのみなさんが家から出られない中、チームの状況や選手の近況を知る術がなかったので、練習風景を動画で流したりしましたね。普段は見られない選手の素顔を見ることができ、ファンの方々にはチームを身近に感じていただけたと思います」(川森氏)
コロナ禍が収まってからもDMMオンラインサロンをコミュニケーションのプラットフォームにしているのは、選手を露出することによって、今の時代に合った「推し」を作ってもらうことを狙っているからだという。選手個人のファンになることを入り口にして、ゆくゆくはチームそのものを応援してもらおうという意図だ。
川森氏はスポーツクラブが提供できる価値について、さらに先を見据えている。アメリカでトランプ氏が次期大統領になることで、暗号資産などのフィンテックがより加速するという予測を立てている。
「先日もある都市銀行の担当者と打ち合わせしてきたんですが、今アビスパが発行してるトークンはあくまでポイントであって、金融商品ではないんです。今後はデジタルマーケットに対してアプローチして、新たなビジネスの柱を作っていきたいと考えています」(川森氏)
社会連携のハブになるアビスパ福岡
かつて単なる娯楽の一分野に過ぎなかったスポーツは、その社会的意義が大きくなってきている。余暇活動ではなく、社会のハブ(中核)となりつつある。
アビスパ福岡でも社会と連携する取り組みが進められている。
「SDGsへの貢献というのは、Jリーグ全体でも呼びかけられています。ホームタウン活動を通して、クラブが中心となって地域との社会連携を推進するというものです(=シャレン!)。実は、スポンサーからの評価が非常に高くて、『シャレンパートナー』という新しい枠組みで協賛を募ったところ、初年度で20社ほど、合わせて約2,500万円が集まりました。これを原資に、ビーチクリーン活動やAEDの使い方講座、子どものためのプログラミングワークショップなど、社会活動をさらに展開していきます」(川森氏)
アビスパ福岡のシャレンパートナーは45社ほどにまで増え、パートナー企業同士のネットワークも広がってきているという。川森氏は、「一業種一企業という形にしてませんので、同業種同業態のライバル企業であっても、アビスパのパートナーであることから協業のチャンスにつながる可能性もあります」と説明する。
シント=トロイデンが取り組む「パートナー企業ネットワーク」
シント=トロイデンVVは、このパートナー企業同士のネットワークを、さらに一歩進めている。ビジネス交流会やゴルフコンペなどのイベントを定期的に開催するなど、試合以外のシーンでもクラブの価値を提供しているという。
「ある企業は、一度の交流会で25社とのアポを獲得し、うち2社とはすでに数百万円規模の商談が成立しています。こういったスポンサー間の交流をより密接なものにしていきたいと考え、DMMオンラインサロンで『シント=トロイデンVV ビジネスサロン』を今年9月に開設しました」(柴田氏)
すでに、サッカー好きという共通点があることで交流のきっかけを作りやすいなどの好意的な意見があるだけでなく、「シント=トロイデンVVのスポンサーには質の高い企業が集まっている」という評判も得ているそうだ。
サッカーを取り巻く環境や、ファンやスポンサー企業のニーズは変化し続けている。これらに応えられるクラブが、ビジネスとしても成功を続けられるのだろう。
カンファレンス・アーカイブ動画
カンファレンスのセッション「スポーツチームが新たに挑戦する、スポンサーとファンへのオンラインによる価値提供」のアーカイブ動画(全編ノーカット版)をご覧いただけます。以下のフォームからアクセスください(無料)。