【対談・Jリーグ30周年】BEAMS×バリュエンス「新たなコラボやビジネスがJリーグを盛り上げる」

株式会社ビームスは、2023年春、Jリーグ30周年を記念した全60クラブとのコラボTシャツを受注販売した。一方で、バリュエンスジャパンが運営するスポーツ関連アイテムのオークションサイト「HATTRICK(ハットトリック)」もサッカーファンの注目を集めている。サッカー×ファッション、サッカー×オークション。サッカーを軸に生まれる新たなコラボやビジネスの可能性について、BEAMS SPORTSの佐野氏とバリュエンスジャパンの井元氏に熱い想いを語っていただいた。(初出=NESTBOWL

佐野 明政さん
株式会社ビームス クリエイティブ ビジネスプロデュース部 プロデューサー(写真:左)
愛知県名古屋市出身。2000年BEAMSに入社。2010年に修士号取得。ショップスタッフを経験したのち、アウトレット事業、ライフスタイル業態であるビーミングライフストアの立ち上げを手掛ける。2016年よりBEAMS JAPANのプロジェクトリーダーを務め、立ち上げから現在まで、「日本の魅力的なモノ・コト・ヒト」を国内外に発信する数々の企画を主導。2022年からは、『BEAMS SPORTS』も担当。持ち前のユニークな企画力・発信力・コラボ力を活かし、ファッション×スポーツの可能性を追求している。サッカーをはじめ、大のスポーツファン。

井元 信樹さん
バリュエンスジャパン株式会社 執行役員 兼 事業戦略本部本部長(写真:右)

バーテンダーとして飲食店に約5年間勤務した後、2012年株式会社SOU(現:バリュエンスホールディングス株式会社)に入社。営業部、販売推進部、営業企画部を経て2020年3月、持株会社体制移行に伴いバリュエンスジャパン株式会社に出向、2021年より現職。アスリートが着用したアイテムなどをオークション形式で販売し、収益をチームやアスリートに還元するオークション事業「HATTRICK」責任者、スポーツ事業責任者、海外事業責任者を務める。スポーツ事業では、世界中のサッカーファンに愛される『キャプテン翼』のキャラクターを活用したIPビジネスも展開している。

Jリーグ発足 生観戦というプレミアムな体験 

――今年はJリーグ30周年ということで、まずはお二人それぞれのJリーグの思い出や忘れられないエピソードを教えてください。

佐野 明政さん(以下、敬称略)1993年のJリーグスタート時は、今では考えられないほどチケットが取りづらく、学生の私にとってはとても手に入らないプラチナチケットでした。でも試合は生で見たい。そこで、地元・名古屋のクラブ、名古屋グランパスの試合運営やボールボーイのアルバイトをしながら、熱狂の中に身を置いていました。

忘れられない試合といえば、1999年の元旦、国立競技場で開催された第78回天皇杯決勝、横浜フリューゲルス対清水エスパルスの対戦です。大晦日、名古屋で友人と集まり、熱田神宮で初詣をすませた後、チケットもないのに「今から決勝戦を観に東京行こう!」と、車で東京の国立競技場を目指しました。競技場前で「チケット譲ってください」のプラカードを掲げていたら、運よく4人並びのチケットを譲ってくれる方がいて、友人全員で歴史的瞬間を目に焼き付けました。当時、応援していた横浜フリューゲルスが優勝したものの、この試合を最後にクラブは解散したんです。

世界中のスタジアムで様々な試合を現地で観戦、チケットもコレクションしている佐野氏。

井元 信樹さん(以下、敬称略):私は大阪出身で、地元クラブ、ガンバ大阪を応援しています。私自身も小学生時代からサッカーを始めて、将来はプロになる!と、夢を持って頑張って練習に励んでいました。そんなある日、初めてJリーグの試合を観に行きました。当時から大人気の中村俊輔選手が出ていた試合だったのですが、プロの試合の迫力は想像していた以上にものすごかったですね。中村俊輔選手のコーナーキックの凄さを目の当たりにして衝撃を受け、もうプロを目指すのは諦めよう、サッカーは趣味にしよう、と決めました(笑)。

「ホームタウン」に感銘 ファッションアイテムを展開

――お二人ともサッカーに関わる仕事をされていますが、それぞれの事業内容を教えていただけますか。

佐野:Jリーグ発足当初から、Jリーグが推進する「ホームタウン活動」に感銘を受け、BEAMSの仕事でも地域を大切にし、地元のコミュニティを育むことを使命にしてきました。その活動の中、ご縁があって2019年から名古屋グランパス主催「鯱の大祭典」のユニフォームをBEAMSがデザインさせて頂いています。

また、日本の魅力を発信するBEAMS JAPAN(ビームス ジャパン)の取り組みのひとつとして、日本が世界に誇るフェアプレーの精神をテーマに、サッカー文化を盛り上げるプロジェクト「BEAMS SOCCER(ビームス サッカー)」を始動しました。第一弾は、日本にサッカー文化を根付かせたJリーグの30周年を記念して、全国のクラブとホームタウンに思いを馳せ、全60クラブそれぞれのエンブレムを胸に、そして各クラブのカラーを纏ったJリーグ公式マスコット「Jリーグキング」を背中にプリントしたTシャツと、各地の銘品とサッカーをかけ合わせた12の商品を企画しました。

ファンにとっての「お宝」 リユースから発想

井元:バリュエンスは、もともとブランド品の買取・販売といったリユースを行う会社として、元Jリーガーの嵜本晋輔が立ち上げました。リユース品のオークションサイトのシステム開発も行っていましたので、スポーツとのコラボもできるのではないかとスタートしたのがスポーツ関連品のオークションサイト「HATTRICK」の運営です。

2019年からのJリーグ・ガンバ大阪とのコラボオークションがHATTRICKの始まりで、現在は競技種別10種類以上、そして100以上のチームや団体とお取り引きさせていただき、年間350回以上のオークションを開催しています。出品されるものは、選手が着用したユニフォームに直筆サインが入ったものが中心ですが、試合球やイベントで使用されたタペストリーなどもあります。

佐野:サイン入りユニフォームやグッズなんて、ファンからすればものすごく魅力的なお宝ですよね。でも、本当にホンモノなのか気になるし、転売されたものではないか、との不安もありますよね。それにはどのような対策をされているのですか。

井元:おっしゃる通り、サービス開始当初のネックはまさにそこで、クラブや団体側の大きな悩みは、すでに市場に出回っていた「偽物」や「転売」でした。だからこそ、「偽物」と誤解されてしまうようなことや、営利目的の「転売」をしっかり防ぐ必要があったのです。

HATTRICKでは、クラブや団体、アスリート個人から正式に依頼を受けた完全なる正規品のみを出品し、より信頼できるものにするため、アメリカのベンチャー企業と連携して物体指紋認証技術を用いた鑑定データをデジタル化したオリジナルの鑑定書を発行し、正規品であるという立証と転売の抑制を行っています。いわゆる指紋認証のようなものを全商品につけているんです。これには「しっかりとファンの方に届けてほしい、届けなければいけない」というクラブやアスリート個人、そしてHATTRICKの想いと使命が込められています。

それでも最初は大変でした。実績も乏しくサービス名も知られていないので、アナログで営業活動を行うしかなくて。何度も何度も電話や訪問をし、門前払いも当然のようにありました。

ようやくクライアント様との信頼関係も構築できるようになり、今でこそHATTRICKもJリーグの各クラブとプロジェクトを進めていますが、BEAMSさんの全60クラブとのコラボはすごいことだと思います。今回の素晴らしいプロダクトが完成するまでの過程で、苦労されたことはありますか?

Jリーグ全60クラブとのコラボの裏側とは

佐野:実は、今だから言えることなのですが、大変でしたよ(苦笑)。今回のJリーグ様との取り組みは、日本全国で日本のサッカー文化を支えているJ1からJ3の全60クラブとのコラボが絶対に必要だと考えていました。Jリーグキングを各クラブのカラーで表現したコラボTシャツを作ることになったのですが、色のプリントが想像以上に困難を極め、プリント工場には何社もお断りをされました。

そんななか、「色の調合をすることが職人技!」という工場様が手を挙げてくださり、ようやく実現したのです。また、サンプルもJリーグ様と各クラブ全てに色の確認を出すのですが、出し戻しが複数回発生したケースもあり、全60クラブとの取り組みの大変さを痛感させられました。確かにクラブにとって、クラブを象徴するカラーはとても大切ですから、思い入れの深さはよくわかります。

ビームス ジャパン(新宿)5階「Jリーグ マニアの部屋」では撮影当時、J1からJ3まで全60クラブのTシャツが壁に展示されていた。

――バリュエンスさんは、コロナ禍だからこそHATTRICKの運営に力を入れた、とのことですが。

井元: 緊急事態宣言の発令や、外出規制があったなかで、試合の開催ができない状況が続きました。また、あらゆる業界がコロナの影響を受け、収益を担保するうえでスポンサーの継続を断念する企業もありました。多くのスポーツチームや団体にとっての収益源は、試合のチケットやグッズの販売、またスポンサー企業からのサポートですが、コロナ禍においてこれらの原資が大きな打撃を受けたのです。そうした打撃をフォローするひとつの手段として、HATTRICKの提案を強化していかなくてはと考えました。

HATTRICKで販売される商品は、もともとはクラブがお金をかけて作り、お金をかけて廃棄していたものです。1試合でしか掲示されないバナーや看板、選手が実際に着用したユニフォームなど、ファンにとっては、喉から手が出るほど欲しいものですよね。さらに購入した金額が応援しているクラブや選手に還元されるのであれば、新たな応援の形としてクラブにもファンにも嬉しいサービスのではないか、という観点から、「廃棄」ではなく、次に必要な方へとつなげる「販売」の提案を行うことが、HATTRICKの原点なのですが、コロナ禍によってその想いが一層強くなりました。

佐野:クラブ側の変化もありましたか?

井元:HATTRICKはスタート時から、クラブとの関係づくりを最優先に伴走型のスタイルで規模を拡大してきましたが、最近はクラブ側からご提案をいただいたり、我々から提案をしてもポジティブに受け取ってくださることが増えてきました。サッカークラブはホームタウンやファンとのつながりがとても濃く、密だと感じています。クラブと地域、クラブとファンがお互いのことを想い、活動や応援を行っていることが多いので、オークションを通じてそのお手伝いができることには大きなやりがいを感じています。

たとえば、清水エスパルスは、ホームタウンが2022年に台風被害を受けた際、選手会が主催でチャリティーオークションを行いました。また、2021年に湘南ベルマーレのオリベイラ選手が急逝したときは、クラブがオリベイラ選手のご家族を支援するためのチャリティーオークションを行い、いずれもHATTRICKのオークションサイトをご活用いただきました。

バリュエンスジャパンは『キャプテン翼』の原作者 高橋陽一氏が代表を務めるサッカークラブ「南葛SC」のメインパートナーでもある。

佐野:素晴らしいですね。まさに地域に根付いたJリーグだからこそできることだと思います。

BEAMSもJリーグのクラブと同様、41都道府県に約160店舗を展開しています。クラブを応援する一体感やホームタウンを誇りに思う気持ちをファッションで表現し、ポジティブなエネルギーの連鎖をつなぎたいという想いから、全国のショップスタッフ約450名がコラボレーションアイテムを自由にスタイリングしたファッションスナップをBEAMS公式サイトで公開しています。

サッカーを軸に生まれる「新たなビジネスと可能性」

――サッカーをはじめとしたスポーツとの、今後のコラボや事業展開があればぜひ教えてください。

井元:HATTRICKは多くのスポーツチームや団体、そしてこれらのファンの方に利用いただいておりますが、認知はまだまだされていないと思っています。環境、チーム、ファンにとって良いことづくめのサービスであるという自負はありますが、現状に満足せず、サービス改善や認知拡大、利用者数の増加につながる施策やアップデートを行っていければと考えています。

また、海外のスポーツチームやエンターテインメント業界への展開も強化していこうと考えています。アスリートはもちろんのこと、例えばアーティストやエンターテイナーなど、すべてのチャレンジャーとファン、サポーターをつなぐサービスとして、HATTRICKの存在を確立していきたいですね。

その一環として、2023年3月、「HATTRICK Members」というサービスをローンチしました。これは、スポーツ選手とファンの距離をもっと近くしたいというテーマから生まれた企画です。たとえばチームよりも選手個人を応援したいとき、その選手の個人スポンサーのような形で応援することができます。サイトを介してチケットやグッズを選手から直接購入できるだけでなく、その収益を選手にも還元できるんですよ。選手が企画した商品なども販売できますから、現役時代から選手自身の付加価値をアップさせることにもつながります。選手のビジネスやセカンドキャリアへの展望も応援できるサイトになれば、と思っています。

佐野:創業者であり、代表取締役の嵜本さんが元Jリーガーで、引退後に起業した会社だからこその斬新な発想ですね。おっしゃるように、選手が現役時代からビジネスやセカンドキャリアを考えることって、とても重要なことだと思います。

BEAMSも、今後もBEAMS SOCCERプロジェクトを続けていきます。サッカー文化を支えているJリーグ様との関係性も構築でき、なおかつ多くのお客様が喜んでくださっていることも追い風になっています。今後はサッカーファンはもちろん、今はサッカーにはあまり興味がないけれど、ファッションを入り口として、サッカーやスポーツに興味を持ってくれる方を増やしていきたいですね。

BEAMS SPORTSに関しては、スポーツとファッションの掛け合わせで、誰もが楽しめるスポーツカルチャーをプロデュースしていきたいと考えています。今後はスポーツブランドとスポーツチームの3者コラボレーションや、これもスポーツ?といわれるような競技ともコラボレーションを行い、活動の幅を広げていきたいと考えています。

というのも、少し前の話ですが、スポーツ誌であるNumberが、初の将棋特集を組んだところ、即日完売し、再増刷して15万部以上売れたそうなんですよ。将棋ってスポーツ?と思ってしまいましたが、新しい捉え方をすることで、スポーツの裾野が広がりますよね。スポーツの力や魅力を引き出せるように、これからもいろいろな企画やコラボに挑戦していきたいと思っています。

(文=伊藤郁世、撮影=角田大樹