広がるスポーツオークション#2 名古屋グランパスが取り組む「プレミアム体験」と、クラブ30周年に向けた価値向上

コロナ禍は日常生活だけでなく、非日常を楽しむスポーツの現場にも暗い影を落とした。Jリーグでは試合が中止されたり、観客数が制限されるなど、チームのチケット収益にもコロナの影響は大きい。そんな中、Jリーグクラブの名古屋グランパスはオークションという形で選手のユニフォームや特別なイベントへ参加できる体験を販売してきた。2022年はクラブ30周年を迎え、プレミアムなアイテムと体験をより多くの人に届けたいと意気込む。

利用するのは、アスリートやチームのグッズをオークションで販売するスポーツチーム公認オークション「HATTRICK」。選手のユニフォームや会場で使われたチームフラッグ、その他グッズなどの公式アイテムを、オークション形式でファンのもとに届けるプラットフォームだ。取り組みについて、名古屋グランパス 経営サポート部の光持稜さんと営業部の中野卓磨さん、そしてHATTRICK ファンクリエイターの福重瑛貴さんに話を伺った。

手探り状態から取り組みは始まった

特定の試合にだけ着用するユニフォームやバナー(旗、横断幕、のぼりなどのこと)は、使用後にクラブの倉庫に保管され、最終的には処分されることも少なくない。ファン、サポーターにとってはレアなアイテムだが、手に入れることはできないものだとされてきた。また、クラブもファンへ届けたいと思うものの、手段を模索していた。そこに風穴をあけたのが、HATTRICKだ。

本来は価値があるにも関わらず処分されてきたものをオークションで販売することで、クラブには実利である収益をもたらし、ファンに対しては憧れのアイテムを手にする喜びを提供する。

HATTRICKを手掛けるのは、バリュエンスジャパン。元ガンバ大阪でプレーした嵜本晋輔氏が率いるバリュエンスは、HATTRICKを通して、スポーツ界やアスリートの価値を守り、新たな価値やファンとのつながりを生み出すことを目指している。

とはいえ当初、オークション形式で販売してどれほどの収益になるのか、クラブ側は半信半疑だったようだ。

名古屋グランパス 営業部 中野卓磨さん

――名古屋グランパスがHATTRICKを利用してみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

HATTRICK 福重瑛貴さん(以下、福重):実は、名古屋グランパスの役員の方と、私どもバリュエンスグループCEOの嵜本が古くからの知り合いだったのがきっかけで、こちらから声をかけさせていただきました。

名古屋グランパス 中野卓磨さん(以下、中野):HATTRICKを利用する以前は、チャリティイベントとしてオークションを開催したことがあったんですが、そのときのお客さまは多くて300人ほど。落札額も20万円くらいが最高でした。

名古屋グランパス 光持稜さん(以下、光持):最初は、オークションでどれほどの値段がつくか、確信はありませんでした。「本当に価値がでるのか?」と、正直不安に思っていましたね(笑)。

中野:ユニフォームをオークションに掛けることがクラブの収益となるとは考えていませんでしたが、HATTRICKを活用させていただいてからは、非常に多くの方に参加していただきましたし、なんと海外からも入札があったんです。コロナ禍でファンサービスができていなかったので、オークションを通して新しい楽しみを提供できてよかったと思っています。

光持:2021年は、ホームゲームでチームが勝ったとき、鯱の大祭典、そしてルヴァンカップ優勝のときにオークションを行いました。特に、ルヴァンカップ優勝後のオークションで高額落札となったのを見て、スポーツというものの価値を実感しました。

ルヴァンカップ優勝記念のオークションは大いに盛り上がった。画像提供=バリュエンスジャパン

光持:HATTRICKさんには無茶振りになってしまったものもありましたが(笑)、みなさん全力で対応していただき、とても感謝しています。おかげさまで、2021年のオークションは2000万円超の売上となりました。コロナ禍でクラブの経営的にも厳しい状況が続く中、オークションにご参加いただいた皆さまのおかげで、クラブの貴重な収益源となりました。

福重:私たちとしても、新しいチャレンジをしたという感覚ですね(笑)。HATTRICKもまだまだこれからのサービスなので、いろんなことに挑戦して、よりよいサービスに成長させていかなくてはなりません。年間を通してHATTRICKを活用いただいている名古屋グランパス様から、サービスをもっと使いやすく、魅力的なものにするための気付きを与えていただいたと思っています。

体験型オークションでプレミアムな価値を提供

名古屋グランパス 経営サポート部 光持稜さん

オークションで販売されるのは物品だけに留まらない。名古屋グランパスでは、「体験型」のオークションに取り組んで好評を得ている。サポーターにとっては、非日常的な体験ができて、満足度も高いようだ。

――体験型のオークションを行ったそうですが、どのような評価でしたでしょうか?

光持:体験型のオークションでは、チームマスコットのグランパスくんファミリーとグリーティング(記念撮影や触れ合うこと)できる権利を落札していただきました。実は、グランパスくんファミリーのファンの方はけっこう多くて、権利を獲得された方にもとても喜んでいただけました。その他にも、来賓席(VIP席)での観戦ツアーなども、スタジアムでの特別な体験として思い出に残るものになったようです。

福重:体験型のオークションは、非日常の体験をするというのはもちろんなんですが、スタジアムの雰囲気をもっと知っていただきたいという側面もあります。たとえば「試合前の選手の気持ちってこんな感じなのかな」なんてイメージしてもらえるような体験は、それがすでにひとつのコンテンツとして成り立つと思うんです。

「グランパスくんファミリーのファンは多い」と光持さん。画像提供=バリュエンスジャパン

中野:これはまだ私たちのジャストアイデアなんですが、「1日選手になりきり体験」みたいなものも面白いのではないかと思いますね。もちろん、コロナ禍が収まってからの話ですが、選手と同じようにクラブハウスに集まってロッカーで着替え、ウォーミングアップ、グラウンドで練習、最後にはシャワーを浴びて終了。まさに、選手の気分を味わえるレアな体験です。

光持:特別な体験をしたファミリーの方は、それをSNSなどで拡散してくださいます。それが、グランパスというチームのブランディングにもつながっていきますから、とても大切なことです。私たち自身の宣伝、広報だけではリーチできないところにも届かせてくださるのは、本当にありがたいですね。

中野:口コミの力というのはスゴイですからね。

オークションをより多くの人に楽しんでもらうために

バリュエンスジャパン 事業戦略本部 スポーツマネジメント室 ファンクリエイター 福重瑛貴さん

オークションはある意味ゲーム的な楽しみの要素も持ち合わせている。一方で、資金力のある利用者が落札を独占してしまうという側面もある。多くの人にオークションの楽しんでもらえるようにするには、提供する側の施策が問われる。

――落札した方からは何か反応がありましたか?

光持:ファミリーの方から直接お話を聞くことはなかなかできないのですが、SNSを通して、オークションの関心は高まっていると感じます。特にホームゲームでチームが勝利した後には、みなさん待ち構えているそうですよ。コメントでは「高いんだよなぁ」なんて書き込みもありますが、それはアイテムの価値が上がっている証拠でもあるので、一定の評価はできるのではないかと思っています。

中野:あるパートナー企業の社長がグランパスくんのファンで、その着用ユニフォームを落札したそうなんですね。そして、それを事務所に飾ってあるそうなんですよ。とても大きなユニフォームですから、どうやって飾ってるんでしょうね(笑)。

――実際にオークションは、激しい競り合いとなることが多いのでしょうか。

福重:HATTRICKはオンラインオークションなのですが、「自動延長システム」というものがあって、終了時間直前に新しい入札があると、オークション時間が自動で延長されるんです。多くのオークションが22時に終了予定なんですが、競り合いが続くと日をまたぐこともありましたね。

中野:入札が競り合うと、見ているこちらもドキドキしますよね。

光持:特にルヴァンカップで優勝した後のオークションは熱かったですね。

福重:アイテムが高騰しすぎてしまうと、なかなか手が届かないという人が多くなってしまいます。そこで、グランパスさんと相談しながら、高額になりすぎないアイテムも出品していこうと計画しています。より多くの人にオークションを楽しんでもらえるように、施策を考えていきたいですね。

光持:リピーターの方がいらっしゃることもうれしいですが、より多くのファミリーの方にオークションを楽しんでもらうことも、クラブが提供できる価値だと思っています。

オークションはクラブの価値も高めるきっかけに

画像提供=名古屋グランパス

オークションは金銭的な売上をチームにもたらすとともに、選手のプロ意識の醸成、クラブの価値創造という副産物も生み出した。これはスポーツにまだまだ開拓すべき価値が眠っているということでもある。

――オークションにアイテムを提供する選手たちの反応は、いかがですか?

中野:現役時代から、選手自身が自分の価値を認識できるいい機会になっています。プレーだけでない価値を理解していただくことで、自ずとプロ意識も芽生え、さらにはクラブの価値を作り上げるための言動にもつながっていくのではないかと思います。

光持:私たちクラブの事業サイドと、選手たち現場サイドが直接つながる貴重な機会にもなっていますね。実は、アカデミーの支援という目的でのオークションも開催したんです。これはアカデミーの施設の改修や、育成組織の強化のためのオークションでした。

――他のオークションとは違って、収益の使い途を明らかにしたということですね。

光持:そうです。オークション開催の意義に共感して入札してくださった方もいたのではないかと思います。グランパスOBの吉田麻也選手などにもご賛同をいただいて、商品を提供してもらいました。今後は、こうした取り組みがチームを強くし、クラブの価値を高めていく原動力の1つとなるかもしれません。

福重:私たちファンクリエイターも、クラブの課題解決につながる提案ができればと、一緒に考えています。オークションだけに固執することなく、価値の創造・向上に貢献できるような施策を練っていきたいと思います。

光持:2022年はクラブ創立30周年となるので、今はその記念のオークションを準備しています。今シーズン予定されている周年記念のイベントの中でも、目玉となるはずです。ただし、新型コロナウイルス感染拡大については、まだまだ先が見通せないので、今後もオークションの収益はクラブの新しい軸となっていくと思います。

名古屋グランパスは、サッカーを通して見えざる価値を可視化することに取り組んでいる。HATTRICKには、「スポーツの持続可能な未来を作る」という事業の理念がある。両者のコラボレーションで、スポーツが持つ力を活用して、現役アスリート、そして次代に続くアスリートを支援し、社会貢献を実現していく可能性が見えてくる。

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