国内最大級の総合人材サービス企業のパーソルホールディングスが、プロ野球パ・リーグのオフィシャルスポンサーになって3年目。1973年の設立(当時はテンプスタッフ)から一貫して人材領域を営む同社とパ・リーグという異色の組み合わせは、パートナーシップの開始以降、ブランド認知拡大だけでなく事業を絡めたアクティベーションなど大きな効果を生んでいる。withコロナ時代の新しいパートナーシップの形を模索する両社の取り組みを聞いた。
パーソルが重視する「事業との親和性」
「事業を絡めてパ・リーグさんとイベントを企画するのは、毎年トライができるので有意義ですね。試行錯誤を繰り返して、よくなっていくのを自分たちも実感しています。協賛のメニューに加えて、色々なものにトライさせていただけてありがたい」
こうスポンサーシップの手ごたえを話すのは、パーソルホールディングス株式会社グループ経営戦略本部本部長の木下学氏だ。
パシフィックリーグマーケティング(PLM)株式会社執行役員の白坂智司氏も、「自分たちPLM単体やパ・リーグ6球団が集まった場合、どうしても野球界の中に閉じこもった情報、企画になることがある。パーソルさんとは専門の人材領域のみならず、それ以外でもパ・リーグは面白いリーグだと言うことを、世の中に対して一緒に発信できています」と、両者の取り組みがお互いにとってプラスに働いていることを強調した。
パーソルグループがパ・リーグのオフィシャルスポンサーになって今年が3年目。クライマックスシリーズの冠協賛に始まり、各球団で開催するホームゲーム1試合が冠試合になっている。他にも「パーソル パ・リーグTV」と銘打たれたリーグ公式動画配信サービスはコンテンツも充実し、視聴者・PV数も増加。大手メディアに展開されるなど、企業ブランドの認知拡大に大きな影響を与えている。
さらには、パーソルの事業に直結するようなアクティベーションが数多く行われているのも特徴的だ。スポーツ業界ではたらくきっかけにと両社が取り組む「パ・リーグ キャリアフォーラム」には、2年連続で1,000人近くの人が集まり、実際に望みをかなえて夢の働き口を得た人も多い。
パーソルが提供するパ・リーグ特設ページ内では、選手だけでなく裏方の人にフォーカスしたインタビュー記事「お仕事名鑑」も掲載され、また6球団のマスコットという仕事にフォーカスしたムービーも制作。さらに春季キャンプでパ・リーグ各球団の主力選手たちのトレーニング相手となる「フリーRUNS(フリーランス)」や、「an超バイト」として日給5万円の始球式を実施するなど、スポーツ業界ではたらくことを肌で感じられる企画を次々と繰り出している。
パーソルキャリア株式会社執行役員dodaエージェント事業部事業部長の大浦征也氏は、「スポンサードが事業に組み込まれているのは本当に珍しいですし、実績も出ているのは稀なケースではないかと思っています。スポンサーメリットを露出等の広告換算の価値だけで判断する時代ではなくなってきています。事業との親和性、連携はとても大事です」と、その効果の意味や大きさを語った。
パートナーシップを通じて、『はたらいて、笑おう。』の浸透を図る
当初の想定を上回る効果を出しながら3年目を迎えたこの協賛。では、最初のきっかけや狙いは何だったのだろうか?大きな理由として、企業ブランディングの観点から話すのは木下氏だ。
元々パーソルグループは、1973年に創業したテンプスタッフが発祥。人材派遣という言葉もない時代から派遣事業を運営し、様々な事業会社を通して事業領域や規模を拡大してきた老舗である。その後、「人は仕事を通じて成長し世界の課題を解決する、だからこそはたらく人を支援して輝く未来を目指したい」と、パーソン+ソリューションの造語である「パーソル」に中核企業が社名を変更したのは2017年7月。わずか3年前のことだ。
「まず名称変更した時に、認知度を高めていきたいという思いがありました。そして、『はたらいて、笑おう』を掲げるパーソルグループにとって、各球団とファンが一体となって盛り上げているパ・リーグは非常にマッチすると思い、協賛することを決めました」と木下氏は話す。
以前からパ・リーグは「実力のパ」と言われ、2013年から6年連続して日本シリーズを制するなどしてきたが、同時に観客動員数も順調に伸ばし、昨年は約1,160万人が球場に足を運ぶまでに成長している。2007年にパシフィックリーグマーケティング株式会社が設立され、さらにリーグと各球団が協力してファンサービスや営業活動を行っている。
「ファンを大事にして成長していく姿というのは、我々の企業体も共感するところが非常に大きかった。また北は北海道から南は九州まで球団があり、(全国に)ファンがいらっしゃるのも、事業を全国規模で展開する我々にとってはプラス。頭文字が『パ』つながりで、当然アルファベットも『P』で一緒(笑)。色々なご縁がありました」と木下氏は笑顔を見せる。
プロ野球といえば表舞台で活躍する選手が思い浮かぶが、その後ろでは球団職員を始め、グラウンドや球場ではたらく人たちが数多くいる。さらに毎日声援を送っているファンまで含めると、非常に多くの人々が支え、関わっていることがわかる。
木下氏は、「そのような方たち全てをパーソルとして応援したいと考えました。様々な活動を通じて、グループビジョン『はたらいて、笑おう。』の実現を目指すパーソルの想いを伝えていけたらと思います。また、シーズンも3月から11月まであって、我々の社員や、我々を通してはたらいて下さる派遣スタッフや直接雇用の方たちに対しても、冠試合や始球式に招待でき、満足度向上にもつながります」と説明する。
パ・リーグは「新しい展開を」
実はパ・リーグも、パーソルこそ一緒に取り組みを進めるにふさわしい相手だと思っていた。白坂氏は、「人材サービス業界自体、目立った活動をされている企業が多く、色々動きがあるのは感じていました。その中でブランドをリニューアルされて、新しいチャレンジをしていくパーソルさんと、新しいことを展開できたらと」と話す。
まさに相思相愛。さらに、お互いのビジョンや基本戦略、考え方などが合致したことが、単なる協賛の形を超えた、一歩進んだ取り組みを実現させた。
両社が「人」を重要視していることも大きかった。人材領域で先頭を走るパーソルはもちろんだが、パ・リーグもプロ野球、そしてスポーツ業界の発展という大きな目線で、多様な人材の流入こそが必要だと考えていた。
「野球界、スポーツ界は門戸が開かれています。色々な業種の方が来て活躍されているケースもありますし、さらにこれからも来てもらいたい。スポーツ界、野球界の人材を強くしていくには、この領域でプロフェッショナルなパーソルさんに教えていただくことが多く、非常に有意義です」と白坂氏は力を込める。
一味変わった試みでは、パーソルが運営するエンジニア向けのサイト「TECH PLAY」で、プログラミングスキルを有する全国の学生たちがパ・リーグに向けてアプリを企画して提案するというコンテストも開催した。
これらのイベントについて白坂氏は、「パ・リーグ側の課題解決につながるヒントになる企画が結構あります。チームもデータを重視するようになっているので、優秀なエンジニアが野球界にもっといてもいいのでは、というパーソルさんとの話し合いの中で生まれたイベントでした」と明かす。
スポンサー側がスポーツ団体の問題解決に、自分たちの事業分野で乗り出すというのは、今後さらに加速していくかもしれない。大浦氏は、さらにもう一点強調した。
「認知と実際のアクティベーション以外に重要なのが、社員の盛り上がり。事業でこの件に関わったり、近くで見ていたメンバーは相当盛り上がっています。取り組みを増やしていけばいくほど、共感者、協力者がどんどん増えていくのは非常にいいサイクルだと思っています」
様々な取り組みを通じて、パーソル内で着実にパ・リーグファンが増えていくなど、副次的な効果が出るのも、この枠組みの魅力だろう。昨年全国6か所で行われた冠試合の際、パーソルホールディングスの水田正道社長が全拠点に赴き、社員と触れ合う姿が見受けられたという。「スポンサードしていただくのであれば、それ以上の価値観をお互い見出していくことが重要かと思っています」という白坂氏の言葉が、そのままの形で表れている。
新型コロナウイルスの影響をどう乗り越えるか
だが、今年はこれまでの常識が通用しない事態が進行している。言うまでもない、世界各地で広がる新型コロナウイルスの感染拡大だ。世界中に大きな被害を与え、プロスポーツ界も大きな影響を受けた。
プロ野球も開幕が延期になるなどしたが、このコロナ禍の5月30、31 日に、一つの意味あるプロジェクトが動いた。6球団対抗のオンラインゲーム大会「パーソル チャリティーマッチ パ」が開催されたのだ。この大会の選手報酬の一部とファンからの寄付金は、新型コロナウイルスの感染拡大防止・治療のために最前線ではたらく医療従事者へ寄付された。
「パーソル チャリティーマッチ パ」について、「コロナへの取り組みとして、本当にありがたい申し出で、短期間でしたが実現できて非常に良かったと思っています」と白坂氏。不測の事態の中、このような社会的意義がある取り組みを迅速にできたのも、お互いをパートナーとして進めてきた2社だからこそだろう。
現在は観客の上限数を設定した上でのシーズンが続いているが、木下氏は、「コロナ後のリモート試合に始まり、色々な関係性が過渡期です。人と企業とか、プロスポーツのあり方とか、ものすごく変化している」と激変した社会環境への見解を示す。
白坂氏も、「プロスポーツは成長が鈍化する、極端に言うと消滅するくらいの危機感は我々にもあります。そうならないように、観戦に来ていただける環境をしっかりと準備をするのはもちろん、それとは違った側面での、新しいプロスポーツとの接し方などは各球団も色々考えていかないといけない」と力を込めた。
大浦氏は、「こういう時だからこそ本当の意味の協賛のあり方が問われると思っています。お金だけの関係だと、露出が減るから減額するしかないということにもなりかねないですが、それはお互いのためになりません。非常事態に、スポンサードする側がコンテンツホルダー側とどうやっていけるのかは重要だと思います」と提言する。
パ・リーグは自分たちで試合の映像コンテンツの権利を持っている。それがあるからこそ、現地での観戦だけでなく他の手を打つことができる。「パーソル パ・リーグTV」はその最たる例で、コロナ禍でも両者の取り組みが進められる要因になっている。実際、パーソル側には色々な企業から、どのような枠組みでスポンサードを進めているのかという問い合わせも入っているという。
「他の競技では、映像コンテンツを権利の関係で持てないなどの問題もあるといいます。リアルに見に来てもらえないと価値がないという前提にしていないのが、今のパ・リーグさんの強み。だからこそ、一緒にやれることが多いですね」と大浦氏は続けた。
今後のパートナーシップ「一緒に開発」
通信、映像技術の進歩なども味方につけ、コロナに対応する手を日本スポーツ界は一丸となって考えていくだろう。スポンサーの事業に直結したアクティベーションや映像コンテンツを駆使した取り組みなど、パーソルとパ・リーグが進める形がさらに昇華し、一つの解決策として確立されれば、日本スポーツ復興の大きな力にもなるはずだ。
大浦氏は、「大げさに言えば今までの協賛のプログラムが無意味化している。こういうタイミングだからこそ、もともと持っている協賛の意味は何か、パートナシップの意味は何かを、スポンサーサイドもコンテンツホルダーサイドも考える、いい機会だと思います。新しい協賛のあり方をパ・リーグさんと一緒に開発していければいいなと思っています」と話す。
コロナにより人々の生活もはたらき方も大きく変わった。感染の恐怖とも隣り合わせで、まだまだ大変な時期は続く。だからこそ、「はたらいて、笑おう」というパーソルグループのメッセージは、大きな意味を持ってくるだろう。
白坂氏は、「PLMという会社自体のビジョンが、野球界スポーツ界の発展を通して、日本のスポーツ界を、社会を元気にしていくことを掲げている。そういう意味ではパーソルさんの『はたらいて、笑おう。』は、ものすごく共感するところがあります。それを一緒に、一つのブランドとして、メッセージとして、もっともっと確立するお手伝いを我々ができたら」と力を込める。
日本スポーツ界がコロナに打ち克つためにも、そして両社が手を組みさらに発展していくためにも、このパートナーシップの進化に期待がかかる。
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