近年ドイツ・ブンデスリーガとJリーグのクラブ提携が相次いでいるが、その最も新しい例がボルシア・メンヘングラードバッハ(ボルシアMG)と鹿島アントラーズだ。
両チームはリーグでの名門という立ち位置と、育成にも定評があることに共通点を持つ。「戦略的アライアンス」の狙いについて、ボルシアMGのアジア責任者 兼 中国ゼネラルマネージャーのマルティン・ティース氏らが先月都内で開催されたブンデスリーガ主催のイベントで語った。
Jクラブとの提携は「メガクラブに対抗する戦略的同盟」
126年の歴史を持ち、ドイツリーグ王者に5回輝いた名門ボルシアMG。クラブと日本の接点は意外にも古く、1部昇格直後の1969年に早くも来日し、日本代表と親善試合を行っている。
同クラブを象徴するのが「Die Fohlen(フォレン=小馬)」というニックネームだ。クラブが獲得した国内外のタイトル全10個のうち9個を手にした1970年代の黄金期、若い選手たちがピッチ上を攻撃的に駆け回る姿から「青草を走る小馬のようだ」と称されたことに由来する。
この精神は「フォレン・フィロソフィー(小馬の哲学)」として受け継がれ、同クラブはドイツで最も多くプロ選手を輩出する育成の名門となった。
そして、近年世界的にクラブ経営の資金力が二極化する中、育成に特長を持つボルシアMGが打ち出した答えが、Jリーグクラブとの「等身大かつ持続可能な戦略的アライアンス」である。
同クラブが日本市場へ本格注力する大きな契機となったのが、4年前の板倉滉の加入だ。彼がチームにポジティブなインパクトをもたらしたことが、ボルシアMGが日本人選手にフォーカスする、大きな理由のひとつとなった。
「巨大な資金力を持つメガクラブに対し、自分たちのような伝統的で育成に強みを持つクラブが対抗するための答えが、Jリーグクラブとのパートナーシップでした。単なるビジネスではなく、伝統と優れた育成組織を持つクラブ同士が組むことが、グローバルなフットボール市場で勝ち残る新たな道になります」(ティース氏)
アントラーズと「欧州への持続可能なパスウェイ」を拓く
この戦略を象徴するのが、J1鹿島アントラーズとのクラブ・アライアンスだ。その軸は、「日本人選手が欧州へ挑戦するための持続可能な道筋の創出」にある。
提携の範囲はトップチームだけにとどまらない。アカデミー組織同士が密に連携し、鹿島のユースチームが年に2回ドイツへ遠征。2~4週間にわたってボルシアMGの施設「ボルシア・パーク」に滞在・練習参加するなど交流の仕組みを構築している。
「鹿島の選手が定期的にドイツの環境に溶け込み、欧州のレベルを体感できる。将来的に鹿島から直接ボルシアMGのトップチームへ移籍する選手を増やすための強固なルートを構築しています」(ティース氏)
同氏は日本を、強固なサッカー基盤を築き上げ、欧州トップレベルで競う選手を絶えず輩出する「非常に高いサッカーレベルをすでに擁する国」と認識している。だからこそ、一方的な指導ではなく持続可能な共創関係を望み、目指している。
クラブはトップレベルでの鹿島アントラーズとの協業を、「欧州への窓口」と位置付けた。また、アカデミーコーチによる全国での短期プログラムや高校・大学との提携といった草の根活動も展開しており、日本サッカーのピラミッド全体にアプローチしている。
商業面においては、ボルシアMGのホームであるボルシア・パーク周辺(デュッセルドルフ近郊)に、約1万人の日本人が居住し、600社以上の日本企業が進出している環境を最大限に活用。日本企業向けのビジネスプラットフォームを構築して、スポーツとビジネスの両面で日独を結ぶネットワークを広げている。
JFAとブンデスが連携する、次世代育成プロジェクト
本イベントが行われた同日、日本サッカー協会とブンデスリーガが連携する次世代育成プロジェクト「ブンデスリーガ・ドリーム(Bundesliga Dream)」も発表された。
同プロジェクトは育成年代の選手たちにドイツが擁する世界有数の育成環境とトレーニング機会を提供するもので、その第一弾として今年12月に日本のU-15男子選抜がドイツに遠征し、約2週間のトレーニングキャンプに参加する。
ボルシアMGは、ドルトムントと共に同プロジェクトに参画するクラブのひとつで、日本チームを受け入れ、アカデミーチームとの試合だけでなく、スポーツ心理学や育成などをテーマとした講義や、クラブ施設の見学、ブンデスリーガ公式戦観戦などの機会も提供する。
ブンデスリーガで同プロジェクトを担当するマノ・ノバナサック氏は、「日本は巨大なポテンシャルを持つ市場。単なる短期キャンプではなく、現地のコーチ陣と協議した上で、技術・戦術面をカスタマイズしたフル体験プログラムを提供するつもりです」と説明。
選手たちが滞在する予定のボルシアMGの複合施設「ボルシア・パーク」は、スタジアム、本社、ホテル、医療センター、練習場、アカデミー、ミュージアム、レストランが1箇所に集約されており、その充実度をアピールした。
マノ氏は続けて、日本人選手の高いモチベーションにも言及。「日本人の『学びたい』という高い意欲とメンタリティに感銘を受けています。私たちの責任は単なるスカウトにとどまらず、プログラムを通じて日本全体の育成スキルを引き上げることにあります」と語った。
ボルシアMGのティース氏はそうした日本人選手の実例として、高校から直接ボルシアMGに加入し、ドイツ2部カールスルーエへ移籍して実戦経験を積む、福田師王の事例に触れた。
「18歳・プロ未経験で直接ドイツに渡り、トップで得点を挙げるなど果敢に挑戦した福田選手の歩みは、本当に素晴らしいケーススタディです。プロジェクトやアライアンスを通じて、将来Jリーグで揉まれた上で欧州へ渡るルートを整備して、最適なステップを共に描いていきたい」(ティース氏)
単なるタレントの囲い込みではなく、双方の強みを掛け合わせたJクラブとの対等なパートナーシップ。日本とドイツの名門クラブが手を取り合う挑戦は、グローバル化が進むフットボール界において、持続可能な育成型ビジネスの新たな模範を示している。