横浜ゴム「チェルシーFC胸スポンサー契約」で見えた課題と可能性(前)グローバル・マーケティングをサッカーに集約、チェルシータスクチームの奮闘

イングランド・プレミアリーグの名門クラブ・チェルシーFCと胸スポンサー契約を結んでから4年が経過した横浜ゴム株式会社。海外市場の重要度が高まる事業環境の中、グローバル・マーケティングの柱として据えるのがスポーツだ。その狙いと取り組み、そして効果や今後の可能性について、タイヤ海外営業本部 チェルシータスクリーダーの関口和義氏に話を伺った。

グローバル・マーケティング戦略に適していたサッカーというスポーツ

横浜ゴムにとってスポーツマーケティングといえば、これまではモータースポーツが中心だった。サプライヤーとして主力製品のタイヤをチームに供給するなど、レースイベントでの活動が主で、その他には金属や複合材の技術を生かしたゴルフ用品ブランドであるプロギア(PRGR)で、高知県で開催されているプロギアレディスのトーメントスポンサーも務めてきた。

一方海外では、モータースポーツとゴルフ以外にも、スポーツマーケティングの幅は広がる。米国のタイヤ販売子会社であるヨコハマタイヤコーポレーションは、米国メジャーリーグのロサンゼルス・エンゼルスとパートナーシップ契約を締結し、エンゼルスの本拠地ではスタジアムにYOKOHAMAのロゴを掲出。さらにはNBA、NFLなど米国ローカルでのスポンサー活動は多岐に渡っていた。

その横浜ゴムは2015年に、イングランド・プレミアリーグ所属の名門サッカークラブ・チェルシーFCとの5年間にわたる胸スポンサー契約を締結した。長らく存在しなかった日本企業による欧州トップクラブの胸スポンサーとして、大きな注目を集めることとなる。

その背景について、同社チェルシータスクのリーダーを務める関口氏はこう説明する。

「当時、スポーツマーケティングを各国バラバラでやっていたため効率が悪く、ひとつに集約しようという試みになりました。2017年に横浜ゴムは100周年を迎えましたが、それまで国内寄りだった私たちのビジネスをよりグローバルに広げていこうという戦略がありました」

様々な調査をした中で、世界中で人気のあるスポーツとして白羽の矢を立てられたのが、サッカーだった。

「サッカーが世界で一番多くの人に効くコンテンツであることを認識していました。バスケットボールだとアメリカや中国、そして野球だと日本、韓国、台湾、アメリカに限られてしまいます。当時BRICSとして騒がれていた中国やロシアという国でも、(サッカーは)いずれ人気が高まるスポーツだと言われていましたので、サッカーの可能性自体も高まっていくと考えていました。そういうところもあってサッカーを第一候補として挙げていきました」

チェルシーとの契約はいかに結ばれたか

関口和義:横浜ゴム株式会社タイヤ海外営業本部チェルシータスクリーダー

海外クラブが日本企業にスポンサーセールスのアプローチを行うことは、何も珍しいことではない。横浜ゴムも、チェルシーFCと契約する前から他クラブからも問い合わせを受けており、そういったアプローチは「現在でも続いている」と関口氏は言う。

企業のブランド名を前面に、社長の名前を背面に特別にプリントしたレプリカユニフォームを企業に贈呈するような、ユニークな営業方法も目にすることが少なくないという。特別ユニフォームはひとつの例だが、スポンサー候補の企業に向けてスポンサーシップセールスなどを行うスポーツマーケティング専門の代理店の存在も指摘する。

チェルシーFCからの直接のアプローチが胸スポンサーの契約という形で結実したのは、声掛けのタイミングが大きかったと関口氏はいう。前述の通り横浜ゴムは当時、スポーツマーケティングをグローバルで集約する機会を探していたのだった。

だが、チェルシーFCとの契約に際して、スポンサーフィーの額も大きかったことから、社内の反応は全てが前向きというわけではなかったとも振り返る。

「横浜ゴムはタイヤメーカーということもあり、工場や販売子会社の為にこの規模の投資を行ったことはありますが、マーケティングへの投資でこれだけの金額を使うのは初めてのことでした。まず、どこからお金を捻出するのかというところから始まり、果たして効果はあるのかという話になります。重要市場であるアメリカでは5番目ぐらいに(人気度が)来るサッカーというスポーツは効くのかという議論にもなりました」

写真提供=横浜ゴム

チェルシーFCも丁寧な説明を続け、米国でもサッカー人気は若い世代を中心に広がっているなど社内の説得材料も見つかった。ただ、それでも莫大なマーケティング費用の捻出という課題は残る中、横浜ゴムが取ったのは意外な方法だった。

「今やっていること(スポンサー活動)を一旦諦めて、それぞれ契約がありましたが、満期になったら更新をしないことにしました。そのお金を全て、チェルシーFCとの契約に回すことにしたんです。各国の理解を得るのは大変でしたが、最終的にはこれが横浜ゴムのグローバルなマーケティング活動として最も効率的かつ効果的な方法、ということで同意を得ました」

2017年10月に横浜ゴムが創立100周年を迎えるタイミングと、日本で少子高齢化が進む中で海外戦略に注力する経営方針であったことが、最終的にはスポンサー契約の後押しをした。

当時ヨコハマタイヤのブランドは、日本ではある程度のマーケットシェアを誇っていたが、海外では限られたマーケットシェアにとどまっていた。グローバル市場で勝ち残っていくためには、認知度を高めて、マーケットシェアを獲得していくことが必要で、そのドライバーのひとつがスポーツマーケティングであったということだ。

チェルシーと直接交渉 チェルシータスクメンバーの役割

このビッグクラブとのパートナーシップを現場で率いてきたのが、タイヤ海外営業本部 チェルシータスクリーダーの関口和義氏だ。同氏はもともと、大学と大学院時代を米国で過ごした後、横浜ゴムに入社。タイヤ海外本部に配属後にドイツに5年間駐在し、その時にル・マン24時間レースやWTTC(世界ツーリングカー選手権)でのスポンサー活動を担当してきた。その後日本に帰国し、タイヤ製品企画部を経てモータースポーツ部門に配属されると、再びドイツに渡った。

豊かな国際経験と、モータースポーツを通してマーケティング経験を培ってきたことから、チェルシーFCとの新たなパートナーシップの現場責任者に抜擢されたのだった。

関口氏率いるチェルシータスクは、現在2人の専任者と、その他の部署で兼務する20名ほどのメンバーから成るプロジェクトだ。マーケティング、営業、物流など様々な部署から集まるメンバーが月に一度の定例会で情報共有を行い、そこでのアイディアや決定事項を各部署に展開していくのが大きな役目となる。

関口氏と共に現在チェルシータスクを専任とするメンバーも、ベトナム駐在から戻ってきた海外経験組。二人は国際経験と英語力、そしてホスピタリティーや心配りという強みが共通するという。横浜ゴムは代理店を通さずに、チェルシーFCと直接交渉や調整を行っているため、英語力は必須であり、同時に相手の意図を汲むホスピタリティー能力も大切だと関口氏は言う。

さらには、相手との調整能力・交渉力も求められる能力だとして、一例をあげた。

それは、選手の肖像を使用する際の独自ルールの存在だ。スリー・プレイヤーズ・ルールといって、ポスターやパネルなどで選手の顔写真や全身の写真を使用する場合、特定の選手単体ではなく最低3選手をセットで使用しなければならない基本規則があった。しかし、各国のタイヤの小売店や町の小さなタイヤ販売店などで、ヨコハマタイヤに使用できるスペースは限られる。等身大パネルを3選手分も置くことはできない。このような現場の意見を後ろ盾にチェルシーFCと交渉し、「同じ空間に3選手が入っていれば良い」と権利利用の条件を変え、卓上の小さなパネルやポスターと等身大パネルを組み合わせて3選手を配置するという解決策を見出した。

こうした細やかだがタフな交渉も、直接コミュニケーションをとっているからこその苦労に違いない。無論、こうしたスポンサーシップの権利活用が、実際のマーケティング、プロモーション活動にゆくゆくは大きな影響を与え、認知度向上や売上への貢献など、重要指標の達成にもつながってくる。

後編では、これまで4年にわたるチェルシーFCとのパートナーシップで見えてきた課題、そして今後の可能性についてさらに伺っていく。


▶︎横浜ゴム「チェルシーFC胸スポンサー契約」で見えた課題と可能性、の連載一覧はこちら

 
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