ロイヤル・ファンからパートナー企業まで巻き込んでいく。北海道コンサドーレ札幌が、クラウドファンディングで学んだ「心得」

インターネットを通して多数の人から資金を募るクラウドファンディング。これまではクリエイターや起業家を中心に広がってきたが、この流れが今、スポーツ界にも及んできている。いち早く取り組みを始めた北海道コンサドーレ札幌のパートナー事業部 グループ長の伊藤浩士氏と、元選手で現在はC.R.C(コンサドーレ・リレーションズチーム・キャプテン)の河合竜二氏、そしてクラウドファンディングのプラットフォームを提供する株式会社CAMPFIREの三木悠輝氏に、スポーツコンテンツの活用方法と今後の展望までを伺った。

北海道コンサドーレ札幌のクラウドファンディング活用

Hokkaido Consadole Sapporo
Ryuji Kawai
Hiroshi Ito
北海道コンサドーレ札幌 C.R.C 河合竜二氏(左)とパートナー事業部 グループ長 伊藤浩士氏(右)

「当初クラブは、クラウドファンディングが何のことかさっぱり分かっていませんでした。認識としてはふるさと納税の変形みたいなものかなという程度で、疑心暗鬼。社内稟議をどう作成するかというところから始まりました。一回目を実施するときは、結構大変でしたよ(笑)」

株式会社コンサドーレ パートナー事業部のグループ長を務める伊藤浩士氏は、クラブにとって初となるクラウドファンディングは、手探りの中始めた取り組みだったことを明かした。

北海道コンサドーレ札幌が2015年3月に第1弾プロジェクトとして実施したのが、北海道から五輪代表・W杯日本代表など、世界へ羽ばたく選手を輩出するための育成・強化プロジェクトだった。もともとクラブは、日本を代表する選手である小野伸二選手が加入した後の2014年から、人気漫画『キャプテン翼』でふらの市(注:富良野市がモデル)出身のキャラクターとして登場する“松山光のような選手を北の大地で育成していく”という「松山光プロジェクト」を仕掛けていた。このプロジェクトへの支援を促すために活用したのが、クラウドファンディングだったのだ。

この背景には、北海道コンサドーレ札幌ならではの事情もあった。伊藤氏は、「私たちは地域密着の市民クラブです。どうしても強化資金が必要になる中、1つの施策としてクラウドファンディングを実施しました」と説明する。当時のトップチームでは約半数の選手が北海道出身であり、小学生年代からの一貫指導を行うコンサドーレのアカデミーを中心とする育成は、クラブが生き残っていくための生命線だった。

その後、さらなる取り組みの拡大を目指す中見つけたのが、CAMPFIREだった。「ファンとの共創」が可能なプラットフォームであるCAMPFIREに魅力を感じ、利用が始まった。

地元のファンは試合に行く、グッズを買うなど支援の方法はいくらでもある。だが札幌、ましてや北海道を離れてしまったファンは、クラブの応援方法がなくなってしまうケースもある。クラウドファンディングを通して応援するというのは、新たな応援の形に他ならない。

新しい取り組みを起こしていく

Ryuji Kawai
Crowdfunding
Crab
クラウドファンディングのためにカニを持ち撮影を行う河合氏(2017年)©2017 CONSADOLE

ただ、これまでに行ったことのない初の取り組み、ましてや他クラブでも実績のないことには、「社内での説明が難しかった」と伊藤氏は話す。

クラブとしても疑心暗鬼だった取り組みは、選手たちにとっても同様だった。当時北海道コンサドーレ札幌の選手としてプレーしていた河合竜二氏(現コンサドーレ・リレーションズチーム・キャプテン=C.R.C)も、「沖縄のキャンプ中にカニを持って写真撮影をしたことは、鮮明に覚えてますよ(笑)」と、クラウドファンディングに関わったきっかけを話す。

それでは、この新しい取り組みをどのように社内で説得していったのか?

「金銭的リスクなどがないというのを全面的に出しました。また、業界的にも珍しいので新しいことにチャレンジすると記憶に残りやすい。誰にも迷惑を掛けないのでやらせてくださいと、ゴリ押しました(笑)」(伊藤氏)

プロジェクトの支援を行ったサポーターには、リターンとして選手のサイン入りグッズだけでなく、北海道の名産である毛ガニや、地元の農場で取れた乳製品の詰め合わせセット、ジンギスカンセットなどを提供した。

さらには、クラブのパートナーである企業の品も取り入れる工夫も行った。伊藤氏は、「私たちのパートナーの商品がサポーターの手に届くのが、最終的には良かったのかなと思います」と話す。

これが、パートナー企業への新たな価値となった。クラウドファンディングの取り組みを経て、クラブパートナーが新たに数社決まるという循環も生み出し、クラブにさらなるメリットを生み出した。

ファン、サポーターの熱量を最大化させていく

Hokkaido Consadole Sapporo
Hiroshi Ito
Ryuji Kawai

クラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げる際、「クラブは公共性の高い存在である」という考えも気になった点だった。スポーツで稼ぐのが綺麗なことではないと受け止められる文化も一部では根強く、「お金をください」とインターネットで呼びかけるのは、ファンやサポーターから反発も起きる可能性もあるのではないか、という考えがあったという。

だが恐れていた反応とは裏腹に、北海道コンサドーレ札幌のクラウドファンディングは、自然に広がっていったという。告知を一切行わなかったが、地元新聞やサッカーメディアに取り上げられ、なによりサポーターの間でもどんどん広まっていった。

「コンサドーレのサポーターはロイヤリティーが非常に高い。パートナー企業に対する情熱も高く、トップパートナーの競合企業の商品を使用しないなど、忠誠心が高い分、(プロジェクトを)出しても大丈夫かなと思える部分も、実はありました」(伊藤氏)

クラウドファンディングには、実際にどのような層が共感したのだろうか?

クラウドファンディングという取り組みに興味を持ち、Webサービスに慣れ親しむ層が面白がって支援すると思われがちだが、蓋を開けてみると、ロイヤリティーの高いサポーター達が、クラウドファンディングは分からないけれども参加してくれたというのが実際だったようだ。

「様々な人達が面白がって買ってくれると思いましたが、サポーターが一早く反応してくれたのは、本当に有り難かったです」(伊藤氏)

スポーツとクラウドファンディングの相性は「非常に良い」

Yuki Miki
CAMPFIRE
株式会社CAMPFIRE CAMPFIRE事業部 三木悠輝氏

様々な業界のクラウドファンディングを支援しているCAMPFIREでは、プロスポーツクラブをはじめとするスポーツ業界を特別に対応していたわけではなかった。北海道コンサドーレ札幌からも、「一個人の方からも応募いただける仕組みですので、多くの問い合わせの中の1つでした」(株式会社CAMPFIRE三木氏)というから驚きだ。CAMPFIREには、個人・法人から1日100件以上の問い合わせがくるという。

ただし、CAMPFIREで幅広い業界を担当する三木氏としても、北海道コンサドーレ札幌の取り組みをはじめ、スポーツ業界のクラウドファンディングの活用については目を見張るものがあるという。

「これまで見えなかった課題が見えるようになり、コミュニケーションの活性化につながる点がスポーツ業界の良さだと思います。マイナー選手の遠征費が足りないという場合もありますし、今後は高校の部活動など育成年代にも広がっていくのではないかと思っています」(三木氏)

このように同氏は、スポーツとクラウドファンディングの相性は非常に良く、スポーツコンテンツを活用したクラウドファンディングを、さらに拡大させていきたいと意気込む。

北海道コンサドーレ札幌では、その後3回目のクラウドファンディングまでを見事すべて成功させ、パートナー企業と新たな関係を創り出すなど良い循環を生んできた。そして次なるアイデアに向けて、当時現役引退を表明した河合竜二氏からクラブに提案された企画が、北海道コンサドーレ札幌のクラウドファンディングのブレークスルーとなる――。

次回は、引き続き北海道コンサドーレ札幌のクラウドファンディングの実例を見ながら、スポーツコンテンツを活用したクラウドファンディングについて、今後の可能性を探っていく。


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