Jリーグが最先端AIでファンエンゲージメント強化!記録的な観客動員を牽引するtoC戦略の全容

今やAIは、私たちの社会に急速に浸透している。スポーツ界においても今後、いかにAIを活用できるかが生き残りを懸けた命題となるだろう。

Jリーグでは現在、最先端のAIを駆使した自動コンテンツ作成・配信サービス「WSC Sports」を活用している。Jリーグ 事業マーケティング本部 兼 クラブサポート本部の高田佑平氏、WSC Sportsの日本責任者である中川ベン氏が、ファンエンゲージメントを強化するJリーグのtoC戦略について、都内で開催されたスポーツビジネスカンファレンス「HALF TIMEカンファレンス2024」で語った。

好調な観客動員の裏側にある、Jリーグの緻密なtoC戦略

2024シーズン、Jリーグは最高のスタートを切った。J1・J2・J3開幕期(第1~2節)の入場者数は歴代最多の68万3,587人を記録。続けて5月3日には38万1,296人で同一試合日における合計入場者数の歴代1位、5月6日は歴代3位を記録し、ゴールデンウィーク期間中には実に100万を超える人々がスタジアムを訪れた。

好調な観客動員の裏側には、緻密なtoC戦略がある。Jリーグでデジタルマーケティング全般に携わり、HPやSNSの運用責任者を務める高田氏は、「Jリーグでは観戦回数と観戦意向の有無によって分類した9つの顧客セグメントに対してそれぞれさまざまな施策を打っている」と話す。

例えば、⑧低関心・認知未利用層には、ローカルやキー局での露出強化やIPコラボなどを行うことで、Jリーグに関心を持ってもらうことを目指す。このセグメントは全体の65%以上を占めており、「Jリーグファンの裾野の拡大」(高田氏)に重要なセグメントといえる。

また、高関心でありながら来場していない層(⑤高関心・離反層、⑦高関心・認知未利用層)に対しては、「開幕・ゴールデンウイーク・夏休みに大規模な招待キャンペーンを展開する」(高田氏)ことで来場を後押しし、キャンペーンで登録されたJリーグID(Jリーグの各種サービスを利用できる共通会員サービス)を通じてリピート来場を促している。

ファン・サポーターのエンゲージメントを強化するコンテンツ施策

公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) 事業マーケティング本部 兼 クラブサポート本部 高田佑平氏(左)

JリーグではこうしたtoC施策の一つとして、さまざまな動画コンテンツの発信を行っている。

メインの目的は「関心度の高いコア層・ライト層のファン・サポーターのエンゲージメント強化」(高田氏)で、X(旧Twitter)、Facebook、Instagram、YouTube、TikTokで展開。コンテンツを通じてファン・サポーターとの接点を持ち続けることで、プラスもう1回、スタジアムに来場してもらうことを目指している。また同時に、「低関心層の関心度を高めることもサブの目的」(高田氏)としている。

では具体的にどんなコンテンツを発信しているのか。一つは「即時投稿」型コンテンツだ。

分かりやすいところでは、各試合ハイライト、全試合ハイライト、全ゴールイッキ見(ゴール集)が、試合終了後、もしくは各節全試合終了後すぐに公開されている。

その他に、印象的なシーンを切り抜いた動画もある。例えば、3月3日に行われたJ1第2節の浦和レッズ対東京ヴェルディ戦、5万人を超える大観衆が集まった試合前、両チームのキャプテンが言葉を交わしたシーンだ。

酒井宏樹(浦和)が森田晃樹(東京V)に「熱くなると思うから、俺らだけは冷静でいよう」と声を掛けており、Jリーグの目指すフェアプレーの精神を象徴するような一幕だといえるだろう。「こうしたハイライトには入らないけれど素晴らしいシーン・面白いシーンというのは新規ファンの方にも届きやすい」と高田氏が言うように、77万もの視聴数を記録している。

もう一つは「アーカイブ」型コンテンツだ。

具体的には、旬の選手、話題になった選手のプレーのまとめ動画がある。例えば、今オフに日本代表の伊藤洋輝がドイツ・ブンデスリーガで最多33度の優勝を誇るバイエルン・ミュンヘンへの移籍が決まったが、その後すぐJリーグ時代のプレー集を公開している。

さらには、今年5月13日~15日、Jリーグ開幕31周年を記念して、過去の試合映像を56時間連続で配信する「31試合フルマッチライブ配信」を行った。

「低関心層の方はどんなコンテンツがあれば関心度が向上するのかを調査したところ、ショートやまとめ動画だけでなく、フルマッチを見ることも重要だと分かった」(高田氏)ことから、今後もフルマッチのアーカイブ配信の施策は重点的に実施していく予定だという。

AIを活用して動画コンテンツを作成するメリットと成果

WSC Sports 日本責任者 中川ベン氏(右)

Jリーグがこうしたコンテンツ作成・配信に活用しているのが、「WSC Sports」だ。

WSC Sportsの日本責任者を務める中川氏は、「ライブまたはアーカイブのフルマッチ映像をAIが分析して、自動的に全てのプレーを短いクリップに切り取り、選手の名前やプレーの種類などの情報を付けてインデックスします。さらに、どんなコンテンツを作成したいかシステム内で設定すれば、自動的にコンテンツが作成されます」と話す。

ラ・リーガ(スペイン)でも2022/23シーズンから導入され、1シーズンのYouTube視聴数は26億回を突破。前シーズンから6倍以上の伸びを示した。「ラ・リーガのように世界的に成功しているリーグであっても、まだまだ視聴数を増やし、ファンエンゲージメントの強化や収益の増加へとつなげることができた」(中川氏)という。

高田氏も、WSC Sportsを活用するメリットをこう説明する。

「タイムリーなコンテンツ投稿が可能になりました。試合終了後のクリップの投稿だったり、話題になったタイミングですぐに動画を投稿することが可能になりましたし、まとめ動画やフルマッチ配信などアーカイブ機能でコンテンツを量産できるようにもなりました。にもかかわらず、コンテンツ作成にかかるコストはかなり削減できています」(高田氏)

実際、WSC Sportsの活用を始めた2019年から、JリーグのX、Instagramのフォロワー数は2倍に、YouTubeの登録者数は1.5倍へと増加した。ファンエンゲージメントの強化という目的に向け、着実に結果を出している証左といえる。

今年2月に開催されたJリーグ開幕PRイベントで、野々村芳和チェアマンは「究極の目標は、Jリーグが世界1位のリーグになること」と語った。その土台として、ファン・サポーターの裾野を拡大し、その結びつきをさらに強固にすることが必要だ。

壮大な夢に向かって、JリーグとWSC Sportsの挑戦は始まったばかりだ。

カンファレンス・アーカイブ動画

二社によるセッション「AIによるスポーツファンエンゲージメントの再構築 - Jリーグの事例」のアーカイブ動画(全編ノーカット版)をご覧いただけます。以下のフォームからアクセスください(無料)。

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