HIS、ラ・リーガとの提携で描く壮大な青写真(2)キーワードは「わかりやすさ」と「にわかファン」。HISが見据える、アウトバウンド需要

日本に着実に根を下ろした海外サッカー人気と、シーズンを重ねる毎に増えていく欧州組。この状況の中、ひときわ脚光を浴びているのが、スペインサッカーリーグのラ・リーガとパートナーシップ契約を結んだ、株式会社エイチ・アイ・エス(HIS)だ。衝撃的な価格設定と、斬新なパッケージツアーなどを武器に、日本の旅行業界そのものを革新し続けてきた同社は、これからスポーツビジネスで何を目指そうとしているのか。取締役上席執行役員の山野邉淳氏が語り尽くした。(聞き手は田邊雅之)

HISが仕掛けてきた、海外旅行ブーム

Atsushi Yamanobe
HIS
HIS 取締役上席執行役員 山野邉淳氏

――一人でも多くの方に気軽に海外に足を伸ばしていただき、日本ではできない素晴らしい体験をしていただく。これはまさに御社のスタンスを象徴していると思うのですが、山野さんご自身はどうして旅行業に携わられるようになったのですか?

「実は私の両親は旅行会社で働いていたんです。ですから小さい頃から、なんとなく自分も同じ業界に進むんだろうなと自然に思っていました。また大学時代には、ワーキングホリデーで半年ぐらい海外にいたんですが、すごく有意義な経験ができた。しかも、そこでたまたまHISに触れる機会があったので、入社するようになったという経緯です」

――今、山野さんご自身が日本の若者に提供されている体験を、かつて身をもって体験されたと(笑)

「ええ。そうかもしれません(笑)。その後、入社した後はパッケージツアーの商品造成などに10年から15年ぐらい関わりました。いわゆるHISが有名になった格安ツアーも、数多く手がけさせていただきましたね。当初は知名度が今ほどなく、お客様がなかなか来ていただけなかったんですが、徐々に気軽に海外旅行が楽しめるということで大きなブームになっていったのを覚えています」

――なるほど、あのブームに仕掛け人として携わられていたのが、山野さんだったのですね。かくいう私も学生時代、御社のサービスを利用させていただいた一人でした(笑)

「ありがとうございます(笑)。とにかく海外旅行をもっと身近にしたい、さらに多くの日本の方に素晴らしい体験をしてほしいという思いは、昔から強かったんです。海外旅行に関して言えば、日本は世界的に見てもきわめて異例な国になってしまっていますから。ビザなしで入国できる国の数が現在世界第1位のパスポートであるにも関わらず、1年間で海外旅行に出かける人の割合は、全人口の15%ぐらいしかいない。こんな国は他にはないんです」

――海の向こうにはワクワクできることがたくさんある、しかも旅行の費用も数十年前とは比較にならないほど下がったのに、ずっとこの島国の中に閉じこもってしまっている。

「そうなんです。たしかに現在ではインターネットが普及したので、日本国内にいながらして様々な情報を見聞きしたり、バーチャルでも体験できたりするようになった。でもリアルに何か新しいものに触れるという体験は、バーチャルな体験とは比較にならないほど素晴らしい。だからこそ、その醍醐味を体験していただくための『きっかけ』を、できるだけ多く作っていければと思っています」

「にわかファン」が市場を創っていく

HIS
HISは創業40周年を迎えた今年11月にコーポレートロゴを一新。挑戦者であるというアイデンティティをこの先もずっと持ち続けたいとの狙いだ。

――サッカーやラ・リーガは、わかりやすさという点でも訴求力の高さでも、若い人に海外に出かけてもらうための強烈なフックになりますね。

「ええ。『わかりやすさ』というのは、すごく大切なポイントだと思います。もともと日本は、何かがブーム的に盛り上がりやすい国じゃないですか?

もちろん私たちとしては、一過性のブームで終わらせたくはない。でも、まずは、きっかけを作ることが大切であって。だからいわゆる『にわかファン』と呼ばれる人たちでも、特定の選手やどこかのチームが好きだというミーハー的な気持ちでも、関心を持っていただけるのは大歓迎なんです。それがいろんな国や文化、新しいものに触れていく足がかりになるわけですから」

――とはいえ、海外旅行を身近で気軽なものにしていくというアプローチは、旅行会社にとって大きなリスクや矛盾も孕んでいるのではないでしょうか?ましてや今日では、インターネットで旅行会社を通さずに航空券を確保したり、ホテルの予約をしたりするのが当たり前になってきています。

「ええ、それはご指摘の通りだと思います。こういう流れは直接的にお客様を増やすことにはつながらない。むしろ旅行業界全体では、現在いらっしゃるお客様を、誰が取るかという状況になってきていると思います」

――根本的なジレンマを、いかにして乗り越えられていくつもりですか?

「まず私たちとしては、それでもやはり海外旅行をより身近で安全なものにしつつ、これまでは海外に行こうと思わなかった人に、海外に出かけていただけるようにしていきたい。それが旅行会社の役目だと思いますし、HISという会社がここまで大きくなった理由だと思いますから。

と同時に、弊社でしか提供できないような、おもしろそうなネタや素材、楽しみ方、様々なサービスをご用意してパイを拡大しつつ、より強くお客様に支持される存在になっていければと考えています」

――その一つの手段として実現したのが、今回のラ・リーガとのパートナーシップだったと。

「ええ。正直な話をすれば、ラ・リーガへのスポンサードには相応の費用がかかりますし、とまどうような声が社内であったのも事実です。でも、日本の多くのお客様に、これまでにない新たな体験を提供できるのであれば、それこそがHISが果たすべき使命ではないかということで決断しました」

国の文化や歴史、社会にまで触れさせていく使命

――御社はかつて海外旅行の門戸を、日本の若者に開いた会社でした。今は同じことを海外サッカーやラ・リーガ、そしてスペインという国に関しても実現されようとしている。

「そうです。先程も言いましたが、きっかけはなんでもいいんです。久保選手をテレビで知ってファンになったとか、スペインには興味がないけれどサッカーは好きだとか。様々な入り口を通して、スペインという国の文化や歴史、社会にまで触れていただけるようになったら望外の喜びというか。HISとはそういう仕掛けやネタ探しを生業としてきた会社ですから」

――あるいは本場のスペイン料理を食べてみたくて調べてみたら、たまたまサッカーが観戦できることに気がついたというパターンでもいいわけですし。

「仰る通りです。HISなら席も確保できるし、移動やホテルの手配もまとめて任せられるとなれば、これまでは気兼ねしていた人も本場のサッカーを楽しんでみようと思ってくださるようになり、裾野が広がっていく。そういう人たちこそ、我々にとってのターゲットなんです」

自分たちの使命は、国の文化や歴史、社会にまで触れさせていくことにこそある。取締役上席執行役員の山野邉淳氏は、HISの存在意義をこのように語った。次回は、ラ・リーガとのパートナー締結で目指す、チケット販売をはるかに超えた価値創出に関して話を伺う。

(TOP画像=Vlad1988 / Shutterstock.com)


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