WEリーグ開幕を経て、女子サッカーはどう変わるのか?現役WEリーガーとJリーガーが語る、「プロとして」のこれから

女子サッカー「WEリーグ」が2021年9月12日に開幕した。ついに女子サッカー史上初のプロリーグが誕生したということで注目を集めているが、今後の発展に向けてはどのような取り組みが必要なのか? 現役のWEリーガーと元日本代表のJリーガーに、女子サッカーの現状と未来、これからのサッカー界について語り合っていただいた。(取材・文=小林謙一)

◇塩越 柚歩選手

三菱重工浦和レッズレディース所属。ポジションはMF。埼玉県川越市出身。幼稚園のとき兄の影響でサッカーを始める。なでしこジャパンに選ばれ、東京2020オリンピックでもプレーした。WEリーグ開幕戦の対日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦では、決勝点を挙げる活躍も。

◇遠藤 優選手

三菱重工浦和レッズレディース所属。ポジションはMF。埼玉県さいたま市出身。双子の兄と幼稚園からサッカーを始める。WEリーグ第4節の「さいたまダービー」大宮アルディージャVENTUS戦では、後半にゴールを挙げる活躍を見せた。

◇宇賀神 友弥選手

浦和レッズ所属。ポジションはMF、DF。埼玉県戸田市出身。現役選手として活躍しながら、地元の戸田市にサッカースクール&フットサルコート「エスフォルソ」をオープン。2019年10月には、台風19号によって被害を受けた県内サッカー場の復興支援のため、現役Jリーガーたちと「きみのて」プロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディングで1000万円以上の支援を集めた。

リーグ開幕 「プロは結果がすべて」

――WEリーグが始まりましたが、これまでのリーグとプロ選手として迎える開幕では、心構えなどに違いがありましたか?

塩越 柚歩選手(以下、塩越):やはり、プロとして結果がすべてという覚悟が必要だと感じながらの開幕でした。東京オリンピックに出場して知ってもらえたのもあって、多くの方からコメントもいただきました。「期待していただいている」という肌感もあったので、それ以上のプレーをしなくてはという責任感を背負いながらでしたね。

遠藤 優選手(以下、遠藤):プロ選手になりサッカーに集中できる環境が整ったことで、いい準備をして臨めたと思います。これまでは午前中は仕事をして午後から練習という生活でしたが、プロとしては午前中に練習をして午後からは自主練やリフレッシュに使えるようになりました。今年はリーグが9月スタートという変則的なものでしたが、開幕3連勝できたので、チームメンバーのみんながきっちりとモチベーションを上げてきていたと思います。

塩越:そうですね。モチベーションの維持が難しいかなと思ったけど、始まってみたら「やっと試合ができる!」って楽しめましたね。

遠藤:昨年に続いて今年も優勝して、連覇を成し遂げたいと思っています。プロとしては結果こそが重要ですから。

――宇賀神選手は、ご自身が現役選手でありながら、「aim - Top Athlete Factory」という女子サッカー選手のサポートをされていますね。塩越選手も遠藤選手も所属されていますが、どのように開幕をご覧になりましたか?

宇賀神 友弥選手(以下、宇賀神):それはもう、娘を見るような気持ちで…(笑)。

2年ほど前から女子アスリートの競技環境を改善したいと活動してきたので、万感の思いがありました。ただし、WEリーグの開幕は女子サッカーにとって歴史的な一歩だとは思いますが、このリーグを継続していかなくてはならないので、そこにはまだまだ課題もあると感じています。

女子サッカーならではの魅力

「多くの期待を背負ってWEリーグ開幕を迎えた」という塩越柚歩選手(三菱重工浦和レッズレディース)

――WEリーグがどれだけ成功するか、多くの女子スポーツ関係者から注目されています。リーグが盛り上がるためには、どのような課題をクリアしていかなくてはならないのでしょうか?

宇賀神:まずは観客数を増やすことですね。昨年のなでしこリーグ全体の観客数の平均が1試合1300人程度だったそうですが、これでは興業的に成立しません。私の個人的な意見ですが、日本には「サッカーは女子がやるスポーツではない」という意識が、まだまだ残っている気がするんです。一度観てもらえれば、女子サッカーがいかに面白いスポーツというのがわかってもらえると思うんだけどなぁ……。

――現役の選手として、女子サッカーの魅力はどのあたりにあると考えていますか?

塩越:技術の高さと細やかさを観てもらいたいです。それに、男子に比べてラフプレーが少ないと思います。男子は勝負に熱くなるので……(笑)。それが面白さでもあるんですが、それに対して女子は相手への気遣いが見せられていると思います。フェアプレー精神を持ちながら競い合うことができているというか、競技性の高さで勝負しているということでしょうか。

遠藤:男子選手は脚力もあって、1本のロングボールで逆サイドまで展開できたり、一発で裏を取れたりしますよね。女子にもできる選手もいますが、パワーに頼るよりは細かくパスをつないでパスワークで突破したりというプレーが見せどころですね。

宇賀神:僕自身は女子選手とプレーしてみて、そのレベルの高さを体験しているんです。確かにスピードやパワーの男女差は埋めがたいですが、流れの中での技術に関しては、ひょっとすると女子が上回っているんじゃないかと思うこともあります。

特にレッズレディースは選手の戦術理解度も高いし、コンビネーションも素晴らしい。スピード感というのは、コンビネーションの上手さで演出されるところもありますよね。女子サッカーの魅力をひと言でいうなら、「洗練さ」じゃないでしょうか。

選手を知ることでスタジアムに足を運んでもらう

リーグ初年、目指すは「連覇」という遠藤優選手(三菱重工浦和レッズレディース)

――では、スタジアムに来てくれる観客を増やすには、どのようなことをしていけばいいと考えていますか?

宇賀神:スタジアムで試合を観る面白さは、なんといってもグラウンド全体の選手の動きがわかることなんですね。1人の選手のプレーに合わせてチームみんなが連動して動くというのは、観ていてとっても面白いんです。「ボールのないところでも選手ってあんなに走っているんだな」とか、「攻めているときはディフェンスの選手ってあんなに前に上がっているんだ」とか、テレビでは観ることができない発見があります。

一度観てもらえば面白さが伝わると思っているんですけど、まずはどうやって「初めてのスタジアム」につなげるかですよね。それにはやはり、選手を知ってもらうということじゃないかと思います。

遠藤:来てくれた人が「また来たいね」と思ってもらえるような、魅力的なプレーをするというのは大前提なんですけど、それだけだと新しいお客さんは増えていかないですよね。なので、自分たちを知ってもらうためにも、自分たちからどんどん前に出ていこうと思っています。宇賀神さんからは、社会貢献や地域貢献も大事だといわれているので、自分たちからそこに関わりが持てるように行動していこうと。ただ、コロナ禍ではなかなか人に会えなかったので、SNSも重要ですね。

塩越:プロになって、自分で自分の価値を高めることの重要性を感じています。オリンピックに出たことで、ありがたいことにサッカー以外の雑誌の取材も増えてきました。SNSも積極的にアップしているんですけど、おかげさまでフォロワーが3万人にもなりました。私のプレーを見たことなくても、フォローしてくれる人もいるんですよね。

宇賀神:aimでは社会貢献や地域貢献活動にも力を入れているんです。そうした活動を通して選手と触れ合ってもらえれば、「応援に行ってみようか!」となってもらえるかもしれません。そして、これは僕自身にもいつも言い聞かせているんですが、「サッカー選手である前に、人として一人前であれ」と思うんです。競技を長く続けるには、そしてより上のレベルに行くには、まずは人としてちゃんとしていなければダメですよね。

――直接触れ合うことと、SNSを使って広く知ってもらうことの両面で活動されているわけですね。コロナ禍で直接会うことが難しい時期が続いたので、SNSの重要性はさらに増しました。

遠藤:2021年2月からInstagramとTwitterを始めたんですが、最初は「自分なんかが…」なんて思ってしまっていたんですけど、投稿したことがネットニュースに取り上げていただいたりしたんです。

宇賀神:それこそが、セルフプロデュースの努力の賜物だと思うんです。どういう形であれ、キャラが立っていくことで試合も観に来てもらえる可能性が高まったりしますからね。プロというのは、そういうこともおろそかにしてはいけないわけです。

でも、もっと大事なのは注目してもらった後のプレーです。そこでは結果を残さなきゃいけません。いいプレーをすれば「あの選手最近いいね」となるし、ダメなら「あいつSNSばっかりやってて…」って揶揄されたりしますから(苦笑)。

男女チームのレッズならではのシナジー

元日本代表の宇賀神友弥選手(浦和レッズ)。「aim」を立ち上げ女性アスリートの支援も行う。

――浦和レッズには、男女それぞれのチームがあります。これをうまく活かしていく施策もありそうですが……。

塩越:たとえば、男女の試合をセットにしてチケット販売するのはいいかもしれないです。埼玉スタジアムと駒場スタジアムはそんなに遠くないですし、土曜日は男子、日曜日は女子の試合を観戦できるチケットがあってもいいですよね。毎週というわけではなく、試しに1回やってみてもいいんじゃないでしょうか。

男子の試合にはたくさんの観客が来てくれるから、そのうちの何割かでも女子の試合を観てくれたら盛り上がると思います。一度観てくれたら、次回からも応援に行こうってなってくれるかもしれないですしね。

宇賀神:とはいえ、お互いに活かし合おうという意識はまだまだ少ないですね。せっかく同じチームとして活動しているわけだから、協力してリーグを盛り上げていくというのはレッズならではのメリットにもなると思います。選手同士もお互いに意識しあえるでしょうし、それぞれのファンも興味を持ってくれるかもしれませんから。

WEリーグは初年度ということで、課題についてはこれから対策していくという段階だ。選手個人もプロとして自分のスキルを磨くのと同時に、セルフプロデュースに取り組み始めている。クラブやリーグも「女子」や「サッカー」の枠にとどまらず積極的にファンを増やす施策が期待されるが、ぜひとも成功につなげてほしい。