Jリーグ入場者数が昨年比35%増。「満員のスタジアム」に挑むマーケティング戦略とは?

サッカー・Jリーグの2023シーズンは、スタジアムの入場制限と声出し応援の制限が撤廃。リーグではコロナ禍で離れた層をどう取り戻すか、そしてどのように新規ファンを増やすかについて取り組んでいる。「満員のスタジアム」を目指すJリーグのマーケティング戦略について、マーケティング担当チーフオフィサーの鈴木章吾氏がHALF TIMEとヤプリ共催のセミナーで語った。

Jリーグが旗を振る、ポストコロナのマーケティング

コロナ前の2019年はJリーグにとって「過去最高」のシーズンだった。リーグ戦の平均入場者数は20,751人で、年間来場者数は1,100万人超。どちらもJリーグ史上最多記録を打ち立てた。その後、コロナ禍ではリーグ戦の中断から無観客、そして入場制限で入場者数は大きく落ち込んだものの、直近ではスタジアム入場者数は前年比で135%、2019年比でも92%程度まで回復するなど好調さを見せている。

一方、リーグの調査によれば2021年頃まで、Jリーグへの「関心度」については低下〜横ばいの傾向を辿ってきていた。コロナ禍でJリーグとの接触が減り、知ってはいても関心が下がってしまった格好だ。「コロナ禍以降に観戦していない“離反層”と、Jリーグを知っていても観戦経験のない“認知未利用層”、この2つをあわせると750万人規模になると見積もっています」と、鈴木氏。そこで、これらの重点セグメントに対して様々な施策を打ってきた。

今年、Jリーグが注力するのは「関心度の向上」だ。テレビCMは地域ごとに映像を変えて31パターンを用意し各地で放映。東京では国立競技場でのリーグ戦や海外クラブを招聘した親善試合を開催した。また、VTuber/バーチャルライバーグループ「にじさんじ」やサッカーアニメ「ブルーロック」などとのコラボレーションも進め、新規層にJリーグへの関心を持ってもらうことを試みている

「“旗振り”はリーグの役割。世の中の空気感や雰囲気を作るように、意識的に取り組んでいます」と、鈴木氏は説明する。

公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) 事業マーケティング本部 マーケティング部 マーケティング担当チーフオフィサー 鈴木章吾氏

クラブも活用する、Jリーグの「マーケティングプラットフォーム」

Jリーグには、リーグやクラブが実施するマーケティング活動を支えるプラットフォームがある。Jリーグの会員IDサービス「JリーグID」は登録総数が359万を超え、チケットの購入履歴やスタジアム来場履歴、グッズの購入履歴などのデータが全て蓄積されている。

このデータベースは各クラブも利用でき、マーケティングプラットフォームとして機能している。例えばファンをセグメンテーションして、メールやプッシュ通知を送ることができる。ヤプリ マーケティング本部の神田氏も「こういうCRMの仕組みがあると、チームも集客の予測が立てやすくなるでしょうね」と頷く。

また、リーグが提供する公式アプリも現在122万ダウンロードまで伸びた。スタジアム来場者はチェックイン機能でメダルを獲得できるゲーミング的な要素もあり、試合のある週末ではデイリーアクティブユーザーが約23万人と高い利用率を誇っている。

では、何回試合に訪れれば、ファンやサポーターとして定着したと言えるのか? Jリーグではこんな分析もしている。

「年に3回来場していただくことで、その後の定着率が高まることが分かっています。そのためには、まずは新規のファンに一度来場してもらい、2回目・3回目のリピート来場を促していくことが何よりも重要なんです」(鈴木氏)

左から)株式会社ヤプリ マーケティング本部 神田静麻氏、Jリーグ鈴木章吾氏

無料招待は「バラマキ」ではない。その狙いとは?

新規ファンに「はじめて来場するきっかけ」をつくる施策のひとつが、昨年から取り組んでいる国立競技場での試合開催だ。

「国立競技場での試合は“ショーケース”だと捉えています。ファンベースの拡大とライトファンの育成ができて、関心想起もできる。さらにはクラブスポンサーとの取り組みも活性化され、BtoBのビジネスにも貢献できます」と、鈴木氏。言わずもがな首都圏はマーケット規模が大きく、国立競技場はアクセスも良い。凝った演出でスタジアムを盛り上げられ、充実したVIPルームなどはクラブスポンサーにとって魅力的だ。

今年は首都圏クラブだけでなく、地方クラブのホームゲームとしても開催し、1試合あたり1万名規模の無料招待を実施してきた。リーグが会場使用料と演出費用の一部を助成する代わりに、クラブが1万席をリーグに提供する仕組みだ。その席数を無料招待に利用することで、新たなファン層を取り込む形になる。

では、無料で来場したファンが、本当に2回目、3回目と試合に訪れるのだろうか?

「昨シーズンのデータでは、無料招待で初来場したユーザーのうち、2回以上の来場率が29.6%、3回以上が13%と一定の成果につながっています。無料招待でも来場にはJリーグIDが必要となり、データが蓄積され、CRM施策によりリピート来場に繋げていくことができる。“無料招待”というとバラマキだというご指摘をいただくことも多いのですが、新規層開拓とリピート促進に大きく貢献しています」(鈴木氏)

クラブと歩む「カスタマーサクセス」担当者も

現在、41都道府県の60クラブが所属しているJリーグ。1993年の開幕時は8都道府県、10クラブでスタートしたリーグは、開幕30周年を迎えた今日まで大きな成長を果たした。

Jリーグが掲げる成長戦略のひとつは「60クラブがそれぞれの地域で輝く」。各地で人気や関心を高め、露出を増やして入場者や視聴者を増やし、ステークホルダーから見たリーグの価値を高めるなど好循環を生み出していくことが必要になる。

リーグでは、各人が1〜3クラブを担当する「カスタマーサクセス」的なスタッフも置いていると鈴木氏は明かす。J1からJ3まで、クラブと伴走しながら露出や集客を実現していくために、リーグが手厚くサポートしている。

ファン・サポーターと最後の接点を作るのはクラブの役割だ。一方、リーグが新規ファン獲得やライト層育成に向けての旗振りを積極的に行うことで、役割分担をしながら一緒に「満員のスタジアム」をつくり上げていく。

「ファンの関心度をあげていかないと、『獲得型』『コンバージョン型』の施策一辺倒になり、それだけが続くと枯れきってしまいます。ラストワンマイルはクラブの役割。リーグはその下支えになるプラットフォームの提供と、旗振り役をしているんです」(鈴木氏)

※アーカイブ動画の提供は終了しました [2024/3/25]