横浜ゴム「チェルシーFC胸スポンサー契約」で見えた課題と可能性(後)求められる事業への貢献、認知度向上の先に見据えるもの

イングランド・プレミアリーグの名門クラブ・チェルシーFCと胸スポンサー契約を結んでから4年が経過した横浜ゴム株式会社。海外市場の重要度が高まる事業環境の中、グローバル・マーケティングの柱として据えるのがスポーツだ。その狙いと取り組み、そして効果や今後の可能性について、タイヤ海外営業本部 チェルシータスクリーダーの関口和義氏に話を伺った。

チェルシーFCとの胸スポンサー契約 実現の決め手はタイミング

関口和義:横浜ゴム株式会社タイヤ海外営業本部チェルシータスクリーダー

チェルシーFCとの契約についてはタイミングが重要だったと関口氏は繰り返すが、それを「結婚と同じようなもの」と例える。

具体的に胸スポンサーに投資するという話は昔からあったものではなかった。一方で、2年前に他クラブから持ちかけられていた同様のスポンサー機会は、社内では「時期尚早」と一蹴されていた。

「既にローカルベースで行っていた、“グローバルスポンサー”、“プレミアムスポンサー”などと呼ばれる、サッカースタジアムのLED・看板、インタビュー時のバックボードへのブランドロゴ掲示が可能となるベーシックなスポンサー契約の話はありましたが、“欧州リーグのビッグクラブの胸スポンサー”、という話はなかったです。たまたま(良いタイミングで)チェルシーFCから話が来て、それが弊社の100周年と絡めた中期計画に重なった、という流れでした」

当初目標の認知度向上 課題になる売上への貢献度

横浜ゴムのビジネスを成長させるために、特に海外市場で認知度を上げなくてはいけない--。これがスポンサー契約を結んだ当初に掲げた第一の目標だった。その契約締結から4年が経過し、最終年となる5年目に入った。

「認知度やメディアバリューという部分ではかなりの効果があったと見ています。ですが経営として一番興味があるのは、この認知度やメディアバリューがタイヤの販売につながっているのかという部分です」

タイヤの販売はチェルシーFCの胸スポンサーという1つの要因だけではなく、各国のマクロ経済や競合環境など、様々な要素に起因する。チェルシーFCへのスポンサードによる認知度向上が、どこまで売り上げにつながったかを証明することは課題として残る。

「販売の結果には経済環境、価格、競合他社のキャンペーンなど、様々な理由・背景があるのですが、全てがチェルシー(との活動の効果)に結びつけられてしまう傾向があります。これだけのお金をつぎ込んでいるのだから、販売面で効果が表れるはずだ、と。例えば、ある市場で販売が伸びていないと、その市場ではチェルシー効果はないというような見方もされてしまいます。

チェルシー(のスポンサード)で上がった認知度が、実際にどのくらい販売に寄与しているか?将来的にどのくらい販売が伸びる可能性があるのか?などを、数値で分かりやすく証明出来たら良いなとは常に思っています」(関口氏)

2019/2020シーズンから、チェルシーFCのレジェンドであるフランク・ランパード氏が監督に就任。グローバルでも著名なアイコンがクラブに戻ってきた。写真提供=横浜ゴム

ここまで、チェルシーFCとの取り組みを冷静に振り返った上で、パートナーシップの効果をより最大化させる改善策として関口氏が言及したのは、アクティベーションの概念だ。スポンサー契約をした後、実際にその権利を活用して広告宣伝やPRなどに活用するもので、権利を買うのとは別の枠組みとして考えられることが多い。

「一般的にスポーツマーケティングで効果を出すためには、スポンサーフィーの何倍ものアクティベーション予算を取る必要があると言われています。ただし弊社のケースですと、各国のマーケティング予算をチェルシーFCとの契約金に寄せた経緯がある為、正直なところ、この多額のスポンサーフィーの何倍ものアクティベーション予算を取るのは、非常に難しい」

だが胸スポンサーとして、ユニフォームやスタジアムをはじめ、様々な場面でブランドを露出していくことには、計り知れない価値も多く存在すると関口氏はいう。

「胸スポンサーは独特で、これだけ大きくロゴが出ます。テレビでの試合中継もそうですが、画像や映像としてSNSでも発信されます。クラブや選手のオフィシャルSNSアカウントだけでなく、他のスポンサーのアカウントでも広告ビジュアルやプロモーションビデオとしてユニフォームの胸の『YOKOHAMA』のロゴが露出します。ある程度のアクティベーションはこの胸スポンサーにも含まれているとも考えられます」

消費者マーケティング以外の活用方法も

一方で、胸スポンサーとなったことで、消費者向けのマーケティングやプロモーションだけでなく、BtoBビジネスに活用して取引先とのビジネスを広げることもできる。

例えばチェルシーFCのお膝元であるイギリスでは、ロンドン近郊で10店舗のタイヤショップを経営するオーナーが、チェルシーFCの熱狂的なサポーターであったことから、元々扱っていた他社のブランドから『ヨコハマタイヤ』に乗り換えたというケースもある。また、胸スポンサーにしか与えられないスタジアムやイベントでのVIP待遇のホスピタリティプログラムを、顧客との商談や接待に使うことで、取引先に“一生に一度の経験”を提供して、関係構築やビジネス創出をするなどもしてきた。

さらに副次的には、従業員や社員の満足度(Employee Satisfaction:ES)や人材採用・リクルーティングにも効果をもたらしている。

例えば海外の販売子会社では名刺にチェルシーFCのロゴが記載されていたり、タイの工場ではスポンサー契約以降の離職率が低減したというデータもある。世界中で人気を得ている欧州トップクラブのスポンサー企業であることが、従業員のモチベーションに深く関与しているのだ。

国内でも、学生向けのインターンシップのプログラムで、チェルシーFCを題材としてグループワークなどに活用することがあるという。新卒市場や転職市場が売り手環境となる中、優秀人材を獲得するのにもスポンサーシップは一役買っている。

今後の課題は、効果を分かりやすく指標化すること 

スポーツに直接関係のない商品や事業を本業とする企業にとっては、スポーツマーケティングに対する費用対効果を可視化しにくいのが事実だ。関口氏は、効果を分かりやすい指標で捉えていくことを今後の課題として挙げる。

「(サッカークラブへのスポンサードに関して)反対派と賛成派があるとすれば、反対派からはサッカーがタイヤや自動車から遠いという話が出ます。そしてタイヤにより近いモータースポーツに力を入れた方が良いという意見や、弊社のゴルフ用品ブランド「PRGR」とは別の形でゴルフにスポンサードする方が富裕層に届くのではないかという声もあります。

スポーツマーケティングに対する(企業としての)考えはあまり変わっていない気はします。社内では、ここまで金額を掛けた割には効果が出ていないという声もありますので、そこはやり方を変えていかないといけない部分はあります」

選手やレジェンドなどの活用にしても、より商品の販売につながるような販売促進の施策を増やしていくなど、ただ権利を保有するだけでなく、それを直接タイヤの売り上げにどうつなげていけるかが今後の挑戦となる。

チェルシーFCとの現在の契約期間は残りあと1年。関口氏は、この4年間パートナーシップで培ってきた知見を活かして、またサッカーで勝負していきたいという気持ちも明かしつつ、今後のスポンサー活動については冷静に判断していく必要性があると語った。

「タイヤという商品の特性は、飲料やスナック、デオドラントなど日用品ほど気軽に買えるものではなく、必要にならないと買わないものです。車を持っていない人には関係ありませんし、車を持っている人でもタイヤがパンクしたり、減らないと買う必要はありません。その辺りが、サッカークラブへのスポンサーが合っているのかは、冷静に判断しなければなりません」

一方でスポーツが持つ他にはない魅力は、マーケティング活動にとって重要であることに変わりがないことも強調する。

「スポーツは、一般の消費者の方々が一番感情移入しやすい。そこでうまくブランドのロゴを露出したり、選手に使ってもらうというのは、かなり効果があると思っています。SNSでもエンゲージメントの指標を測っていますが、(試合で)活躍した選手を活用した掲載をすると、かなりの人がコメントしてくれます。

(スポーツは)私たちが通常行っている活動では得られないような共感が得られやすいのです。共感や感情移入というところに、今後ブランドの価値や質を上げていくことが付いてくると思うのですが、それはサッカーが一番効果的だと思いますね」


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