「自社だけでは解決できない」。企業スポーツの担当者がそう口を揃える背景には、共通する課題がある。経営層への説明責任、投資対効果の可視化、持続可能な運営モデルの構築――。こうしたテーマについて業界・業種、そして競技の枠を超えて知見を共有する「企業スポーツコミュニティ」も昨年発足した。その活動初年度を締めくくる関西でのイベントを訪ねた。(取材・文=佐伯由佳)
ミズノ、西尾レントオールの協力で関西初開催
各企業のスポーツ担当者が参加する「企業スポーツコミュニティ」。2025年から活動を開始し、その初年度を締めくくる第4回となったイベントが2月下旬に大阪で行われた。これまでは東京のみでの開催だったが、遠方の企業からも参加の希望が寄せられたためだ。
視察先としてまず選ばれたのは2026年4月1日に創業120周年を迎える日本を代表する総合スポーツ用品メーカー、ミズノ株式会社。コミュニティを主催するアビームコンサルティング株式会社の宮原直之氏はこう説明する。
「スポーツ市場の活性化・拡大は、ミズノ様にとって事業の継続性を担保するために必須なテーマ。『どうすれば企業がスポーツ市場の拡大に貢献できるのか』という課題に対する知見を豊富に持っている企業だと思います」(宮原氏)

もう一社、視察先として選定されたのは西尾レントオール株式会社。総合レンタル業のパイオニアとして業界トップクラスの売上高を誇り、スポーツにも深く関わっている。
「地域にどう貢献するか、地域住民との関係性をどれだけ深化させられるかも企業スポーツの重要なテーマです。西尾レントオール様は社内施設を開放して地域住民を呼び込み、自社を身近に感じてもらう取り組みを行うなど、地域との関係づくりに長けています。また、スポーツを通じたつながり創出にも積極的です」(宮原氏)
イノベーションセンターで体験する「最先端技術」
プログラム前半では、2022年に誕生したミズノ株式会社のイノベーションセンター「MIZUNO ENGINE(ミズノエンジン)」の視察が行われた。
まずはミズノ株式会社 総合企画室の串田啓介氏が同施設のビジョンやコンセプトを説明。「MIZUNO ENGINEはコアテクノロジーを活かし、スポーツの力で人を幸せにするというビジョンのもと建設されました。コンセプトは『「はかる」、「つくる」、「ためす」の高速回転』と『オープンで化学反応』です」と、串田氏。

MIZUNO ENGINEでは、従来は分散していた計測・試作・検証の機能を一箇所に集約し、開発スピードの劇的な向上を実現。社員の研究開発が可視化されることで、競技種目を越えた「化学反応」を生むことにも成功している。本社隣接という立地を活かし、研究開発と営業・企画部門が即座に連携できる体制も強みだ。
一行は施設内を見学し、モーションキャプチャーを活用した実証実験スペースや、テニスコート、野球のマウンドを模したエリアでのピッチングなどを体験。技術面に関する質問が多数挙がったほか、「自社の強化施設の参考にしたい」「イベントでの見学先として使いたい」といった意欲的な感想が寄せられた。



サプライを行う「協賛側」の取り組み事例も
プログラム後半では、西尾レントオール株式会社のR&D国際交流センター内にある、木造アリーナ「咲洲morena(モリーナ)」やシェアスペース「N-LOUNGE」などを視察。同社の建築・空間技術や、地域・社会貢献活動への理解を深めた。


視察に続く講演では、広報宣伝室担当者がスポーツ大会やチームへの協賛、現役アスリートの採用、社内の一体感醸成など、スポーツを活用した企業ブランディングについて紹介。施設営業部 東京施設課の木本明夫氏からは同社のスポーツ事業と協賛活動について説明された。
「私たちのスポーツ協賛は、お金を出す形だけではなく自社商品を無償または割引でレンタルする物品・サービス提供型の協賛です。割引であればレンタル料が発生しますので売上としても可視化され、費用対効果がわかりにくいという協賛の課題をクリアできます」(木本氏)
また、単なる物品の貸し出しに留まらず、スタジアムの芝生保護や仮設スタンド設置など、スポーツの現場で培った独自の技術やノウハウも提供する。まさにスポーツの価値向上にもつながる、共創型のスポンサーシップといえる。

学びと交流を経て「自社の課題解決」へ
イベントに参加した各企業のスポーツ担当者は企業スポーツコミュニティの活動をどう捉えているのか? コメントからは、視察や講演で得られた学びを自社の取り組みへとつなげたいという前向きな姿勢が見られた。
「単に資金を提供する支援だけでなく、自社の強みを活かしてスポーツ団体と共に価値を生むことの大切さを改めて感じました」と話すのは、参天製薬株式会社でCSV(社会と企業の共通価値創造)推進を担当する柳井亜由美さん。
株式会社エイチ・アイ・エスの中山真さんは、「西尾レントオール株式会社の『場所を自ら作る力』に触れ、自社単独では想像できなかった斬新なイベント構築の可能性を見出すことができました」と今後への意欲を口にした。

また、多くの担当者が直面する「経営層への説得」や「運営の持続可能性」という課題に対しても、コミュニティは具体的な解決の糸口となっている。
日本郵政株式会社でスポーツを統括する千葉岳志さんは、「実業団が抱えがちなコストという問題に対し、プロ化や事業化に踏み出した他社の取り組みや収支バランスは参考になる。(コミュニティは)自社にふさわしい持続可能なモデルを探ることに役立っています」と述べた。
富士通株式会社で企業スポーツを推進する常盤真也さんは、「各社が一緒になって共通の数値を追えるといいと思います。『他社もこのように証明している』というデファクトスタンダードを構築できれば、社内への説得力も増すでしょう」と指摘した。

何より、参加者が共通して強調するのは「社外に相談相手ができる」ということだ。
「コミュニティの最大の効用は仲間ができるということ。悩みを共有することで安心感が生まれ、お互いにいい部分を見つけ合うこともできます」(常盤さん)
「課題を明確にして積極的に参加すれば、解決の鍵となる人物を次々と紹介してもらえる。競技や部門ごとに縦割りになりがちな企業スポーツに横のつながりを生み、イノベーションを起こせる画期的な場だと思います」(千葉さん)
「社内に専門家や相談相手がいない中、企業スポーツに知見のある方と多く出会うことができ、学びも得られる。悩みを抱えている担当者の方には参加をおすすめします」(柳井さん)

日本のスポーツシーンを動かすコミュニティのこれから
宮原氏は、今回の開催を「実際の場所に触れられたことが非常に大きかった」と振り返る。これまでの概念的な議論に留まらず、最先端の施設を体感したことで、参加者が自社への活用をより具体的にイメージできるようになったという。
「初参加の方も増え、交流の輪がさらに広がりました。これまでは自社内だけで抱え込みがちだった情報や課題を、企業の垣根を越えて共有し合うことが、スポーツ界の活性化と参加企業の価値向上につながると思います」(宮原氏)

参加した企業同士が定例会を持つなどの自発的なコラボレーションも芽生え始めており、コミュニティは着実な進化を遂げている。
宮原氏がこの活動に注力する背景には、日本のスポーツ界への強い危機感がある。少子高齢化によるスポーツ人口の減少や、スポーツをする場所が失われつつある現状に対し、「一石を投じられるのは企業だ」と宮原氏は断言する。
「単なるボランティアではなく、社会的に有意義な活動としてステークスホルダーに示していくことが重要。アビームコンサルティングは企業の持続的な成長にスポーツを活用するモデルを確立することを目指しています」(宮原氏)

今後のビジョンについて、宮原氏はさらなる規模拡大を掲げる。将来的には100人規模が集まる全体会を開催し、日本のスポーツシーンを動かせるようなコミュニティにしたいという。
「日本のスポーツを支えてきた企業の『本気』を動かすエネルギーをここで蓄え、経営層にスポーツの有用性を説いていきたい。情報発信や研究会などのアウトプットを増やし、将来的には業界に提言発信できるような場所へと発展させていきたいと考えています」(宮原氏)
