スポーツ業界で働くには競技歴や特別な知識が必要と思われがちだが、必ずしもそうではない。サッカーJリーグのFC東京でパートナー営業を務める山元ほるんさんは、音楽家として国内外で活動したのちIT業界へ転身し、さらにJクラブへと転職した異色の経歴だ。いかにしてHALF TIMEと出会い、スポーツ業界に転職を果たしたのか?本人に聞いた。
◇山元 ほるん(やまもと・ほるん)さん
東京フットボールクラブ株式会社(FC東京) パートナー事業本部 事業部
沖縄県出身。東京音楽大学卒業後イタリアに渡り、イタリア国立トリノ音楽院指揮専攻卒。現地で7年ほど指揮者・作曲家として活動した後、日本に帰国してIT業界へ。ITベンチャー数社で新規事業創出、マーケティングコンサルティングに従事した後、2025年より現職。
音楽を突き詰めるため、音大、そしてイタリアへ
山元さんが音楽を始めたのは2歳だという。姉と父の影響でピアノに触れ、その後日本の音大とイタリアの音楽院まで進むことになる。
「学生の頃から世界中を飛び回れる音楽家になりたいと思っていました。演奏者というより作曲家や指揮者として。イタリアに渡りって7年間修行しましたが、どちらかというと作曲家としての評価を高くいただけました」(山元さん)
日本国内ではなく海外でも活躍する――。挑戦的なキャリアを築くうえで大きな役割を担ったのが、山元さんの「行動力」だ。その一例は大学時代に表れている。
「当時、東日本大震災で被災した方々に寄付をしようとチャリティコンサートを企画したことがありました。集客のリーフレットを自作して、裏面に広告枠を作ってスポンサーを募ったんですが、会場代をまかなえるほどの協賛を得られたんです。15万円という小さな額でしたが、大学生が3人で取り組んだにしては、よくやったなと思います」(山元さん)
こうした事業家的な資質は、イタリア時代にも発揮されている。
「イタリアではシェフをしている友人が多くいて、彼らと一緒に若い音楽家をサポートするイベントを行っていました。ワインとビュッフェを用意して、音楽家たちに演奏をしてもらって、5〜10ユーロ、当時のレートで1000円〜1500円くらいで音楽と料理を楽しめるというものです(山元さん)
イベントを行っていたのは、トリノ王立劇場の裏にある広場。「若いイタリア人はパーティが大好きなので、気軽にクラシックに触れる機会になればいいなと。そして、『あと3ユーロ出したら、イタリアでも随一の演奏がこの裏(劇場)で聴けるんだよ』と、啓蒙活動も行なっていました」(山元さん)
キャリアを一度リセット。新たな挑戦に取り組む
音楽一筋の人生を送ってきた山元さんだが、29歳で日本に帰国することを決めた。結婚という自身のライフイベント、それに「音楽を楽しむ人たちの高齢化に課題感をもった」(山元さん)というのがその理由だ。
「音楽の世界のなかで何かを変えようとしてもなかなか難しい。そこで外からアプローチしてみようと思ったんです」(山元さん)。帰国後に就いたのはIT企業。音楽家としてのキャリアに未練はなかった。
「音楽を外からサポートするには、今の時代、ITの知識が欠かせない。そのうえで新規事業や新しいことへの挑戦意欲のある企業を就職の条件として探しました。『人生を振り返ってみれば、無駄になることはひとつもない』という音大時代の先生の教えも胸に、ITベンチャーに飛び込みました」(山元さん)
配属は希望通りの新規事業部。最初は3名の小さな部署だったが、会社の成長とともに20名まで増員された。山元さんも10数名のメンバーを抱え施策を執り行うマネージャーとなったが、転機が訪れる。尊敬する上司が仕事をやり遂げたと辞めることになり、自身も次の挑戦へと触発されたのだった。
スポーツビジネスではなく、「FC東京」が志望動機
IT企業での経験も買われ、転職活動はスムーズに進んでいた。そんな中、偶然出会ったのがFC東京だ。
「転職活動をして、お誘いいただいた会社がいくつかがありました。でも最後に、もう一度他社も見てみようと地元の企業を探してみたんです。私は調布市に住んでいるんですが、気づけば街中にFC東京のフラッグがあり、Tシャツを着ている人も珍しくない。
サッカークラブは(転職を)考えたこともなく、面白いと思いました。地域に根付いていて、身の回りにあふれている。子どもに『パパは何の仕事をしているの?』と聞かれても、『このクラブで働いているんだよ』と胸を張って言うことができます」(山元さん)
そこで見つけたのがHALF TIMEだった。当時FC東京が公に募集しているポジションはなく、探しても求人は出てこなかった。
「いろいろ調べてスポーツ業界に特化して転職支援を行っているHALF TIMEを見つけました。磯田さん(磯田裕介:HALF TIME代表)にキャリア相談という形で面談していただいたうえで、クラブに履歴書を送ってもらったんです」(山元さん)
募集要項は出していないが、信頼する採用エージェントからの推薦には耳を傾けるという企業は、実はスポーツ業界に限らず少なくない。
「ただ、磯田さんからは『この仕事は、サッカーチームへの情熱があって応募してくる人が多い。正直、難しいかもしれませんよ』と、伝えられました。それでも、『“なぜFC東京なのか”は明確に持っておいたほうがいい』とアドバイスいただいたのはとても参考になりました。
私にとっては、地元の街を歩いているときに、子どもに『これがパパの仕事だよ』と言えること。それがFC東京を志望する最大の理由だったので、面接ではその想いを伝えました」(山元さん)
面接の通過を聞いてから、あらためて味の素スタジアムに娘さんとFC東京の試合を観に行ったという。
「ここが自分の職場になるかもしれないんだと想像をふくらませると、こんなにもたくさんの人が集まって声を張り上げている様子は、本当に特別感があると感慨深く思いました」(山元さん)
自らが取り組む「パートナー営業」を知ってもらいたい
現在はパートナー営業を務める山元さん。今後、仕事を通して実現していきたいことがあるという。
「私たちが行っているパートナー営業とはどんなものなのか、裏方といわれる仕事の中身を知ってもらいたいと思っています」(山元さん)
スポーツチームにとって、スポンサーは極めて重要な存在だ。近年は、単に協賛を募って広告露出を図るだけではなく、チームと共にあらゆる面で価値をつくりだす「パートナーシップ」として位置づけられている。
例えば山元さんが担当して新たにオフィシャルパートナーとなった企業のなかに、「Plaud」という企業がある。AIを搭載したボイスレコーダーを提供している会社で、実際にFC東京も導入して日々使っているという。「クラブ自身がパートナー企業の導入事例にもなり、そのアナウンスが大きな反響を生むなどシナジー効果が出ています」(山元さん)。
ほかにも、「Sales Marker」も新しくオフィシャルパートナーになった企業のひとつだ。インテントデータを使った営業支援ツールを主軸のサービスとして開発・提供している会社で、BtoBの会社ならでは、スタジアムを通じた交流の場を大切にしている。「自社の大切なお客様を味の素スタジアムにご招待し、共に観戦体験を楽しむことで関係を深めたい。また、パートナー企業同士のネットワーキングやリレーション構築にもつなげたい、というニーズを聞いています」(山元さん)。
企業がスポーツチームのパートナーとなる目的も、多様化してきているといえる。
「企業とチームの取り組みをどんどん発信していきたいと思っています。ファン・サポーターの方々にFC東京のパートナー企業を知っていただいてより結びつきが強くなればと思いますし、パートナー営業という仕事自体を志望する人も増えるといいですね」(山元さん)
結婚を期に帰国した日本で、地元に根付くクラブで働き、子どもに胸を張れる仕事をする。充実したキャリアのなか、イタリアでの日々で思い出に残っていることがある。
「トリノの街にはユヴェントスFCやトリノFCといった地元を代表するチームがありました。試合の次の日は、ベランダ越しに隣のおばあちゃんと挨拶代わりにサッカーの話をする。サッカーは、日常に根付いた“文化”だったんですよね」(山元さん)
FC東京は今年8月、調布市と包括連携協定を結び、練習場の移転計画を発表した。地域のスポーツ振興だけでなく、子どもの教育や地域活性化、まちづくりもその内容に含まれている。
FC東京というクラブがますます地域に溶け込んでいくなか、山元さんのようなフロントスタッフの活躍が大いに期待されている。
担当コンサルタントの分析
HALF TIME株式会社
代表取締役 磯田裕介
転職支援を行う中で感じた山元さんの特徴は、これまでの経験からどんな仕事でも転用できる高いポータブルスキルを持たれていること。ITベンチャーへの転職の際もビジネスパーソンとしては同世代より遅れたスタートだったはずですが、圧倒的なバイタリティーで短期間で成長して成果を上げられました。
山元さんの人材としてのポテンシャルの高さ、そして志望動機の整理など緻密な準備によってその座を手に入れられたのだと思います。
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