データが物語る日本ラグビーの未来像(6)ラグビーは本当に『ルールが難しい』から根付かないのか?

アジア初となるラグビーW杯開催、そして新たなプロリーグ構想の発表。日本ラグビー界に変革の追い風が吹いている。はたして日本ラグビーはいかなる可能性を秘め、何を目指していくべきなのか。長年、観戦者調査を実施してきた早稲田大学スポーツ科学学術院の松岡宏高教授に、日本スポーツマネジメント学会での調査報告に合わせて、未来への指針について聞いた。(聞き手は田邊雅之)

前回インタビュー:(5)東京にラグビーは定着するか?都市部における地域密着の難しさ

スポーツを「観る」文化をどう根付かせるか

ラグビーW杯2019日本大会では、新旧のラグビーファンが会場を埋め尽くす。Photo: Faiz Azizan / Shutterstock.com

――日本ラグビーが新たなファンをなかなか獲得できなかったという問題に関しては、カルチャーも度々指摘されます。外国では伝統的にラグビーの土壌があるのに対して、日本の場合は70年代や80年代は一時的に人気があったにしても、定着してこなかったと。この種の意見についてはいかがですか?

「確かにそういう議論があるのも分かりますが、じゃあサッカーはどうだったんだというと、Jリーグができる前の日本サッカーリーグ(JSL)時代は、数百人しか観客が入らないような試合もあったわけじゃないですか。

ところがJリーグが始まった途端に、試合には突然1万5,000人も入るようになった。しかも新たに試合に来た人たちは、サッカー経験者でもなければ、サッカーをよく知っている人たちでもなかった。むしろ実際には、何か面白いエンターテインメントがあるらしい、今までなかったスポーツができたらしいよ、ということで集まったわけですね」

――必ずしもサッカーを広く愛する土壌があったわけではないと。

「先程も述べたように、Jリーグが発足した後は苦しい時期も経験しているし、人気が定着するまでは時間は当然かかりました。でもサッカーは地域密着型に移行していくことによって、この苦しい時期を乗り越えた。

これはバスケットボールも同じなんです。もともと日本にはバスケットボールを観るという文化はなかったのに、現在のBリーグで成功を収めているチームは地域密着を図ることによって、数千人単位でお客さんを集めている。こういう事例を見れば、同じことをラグビーもできなくないと思うんですね。そもそもどのスポーツでも、そのスポーツを経験していない人が観客の大半を占めるわけですから」

――経験者が観客の多くを占める状態では、まだまだその競技が一般に定着していない。

「そう。そのスポーツをやったことがない人が見に来るという状態になって、初めてエンターテインメントとして成り立っていく。そういう状況を作るためには、競技以外の要素がポイントになる。例えば試合自体を楽しむというよりも、一緒に試合を見ることを通して知り合いと楽しい時間を過ごすとか、飲食を楽しむとか、ファン同士の一体感を感じられるようなコミュニティを作っていけるかどうかということです。

そういう経験ができるのであれば、コンテンツ自体はラグビーであろうがバスケットボールであろうが、サッカーであろうが、何でも構わないわけです。たとえば音楽のライブを見に行くのと同じような経験ができるわけですから。そういうファンをどれくらい増やせるかが、大事なんじゃないかなと思います」

競技特性が「観る」ことの障壁に?

Photo: Faiz Azizan / Shutterstock.com

――関連してお尋ねします。ラグビーに関してはルールが複雑だ、あるいは密集戦が多いために、見ていて分かりにくいといった声もよく聞かれます。サッカーやバスケットボールなどに比べて、高いリテラシー(競技理解のレベル)が求められることが、ネックになっていると指摘されることもあります。

「スポーツの試合では、もちろん競技そのものを楽しむファンも当然います。でも実際にはそうではない人々――ルールを知らなくてもイベントとして楽しもうとして来る人もたくさんいるんですね。

例えばアメリカの場合、アメリカンフットボールの人気カードにはカレッジ(大学)の試合でも10万人ぐらいのお客さんが常に集まる 。そういう人たちは、必ずしもルールに詳しいわけじゃないし、そんなに細かいところまでこだわらない。そもそも10万人も入るスタジアムで客席のスタンドの上の方から試合を見ていたら、何で今のプレーが止まったのか、選手がどんなファールをしたのかなんてあまり分からないし、気にならないじゃないですか。

にもかかわらず、多くの人たちが集まってくるのは、サードダウンになったらみんなで一緒に声を出すのが楽しいとか、大事なゲームの場をみんなと共有するというような経験に価値を見出しているからなんです」

――いわゆるコアなラグビーファンではない一般の人々、しかも男性ではなく女性や家族連れの方でも、スポーツが行われているシチュエーションそのものを楽しめるようにしていく工夫が必要になる。

「もしかすると以前のラグビー界には、一般のお客さんはあまり来て欲しくないと捉えるような風潮もあったのかもしれません。でも、そういう(一般の)人も含めて巻き込んでいって、楽しいイベントとして捉えてもらうようにしないと収益は上げられない。これはどの種目も一緒なんです。

今、女性というお話がありましたけど、日本のプロ野球でも『カープ女子』や『オリ姫(オリックスの女性ファン)』と呼ばれる人たちが、新しいファン層を形成している。新たにプロ野球のファンになった子どもたちにしても、このバッターにはインコースを攻めて、最後はアウトコースにスライダーで勝負するとか、そんな細かいことまで知っているわけではないんです。

かつてのラグビーはサッカーや野球と違って、新しいファンを獲得できていなかった。でも見方を変えれば、そういうファンを獲得することさえできれば、収益性があるスポーツイベントとして成り立つんじゃないかなと思うんです」

「ラグビーはルールが難しいから人気が出ない。」新たなファンの獲得は、この幻想を打破することから始まる。掉尾を飾る最終回では、ラグビーW杯がもたらすインパクトと未来への可能性について伺う。


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