元Jリーガーや日本代表などが続々参入し、近年注目が集まる社会人サッカー。「次のJクラブ」を目指す中には、岡崎慎司氏が関わるFC BASARA HYOGOのほか、播戸竜二氏が社長を務めるIKOMA FC 奈良という新顔も加わった。
上記クラブらが所属するのが全国に9つある地域リーグのひとつ、関西サッカーリーグ。その運営委員長である八木勉氏と、1年目のシーズンを戦うIKOMA FC 奈良 播戸竜二社長が、リーグ開幕を前に「JFL昇格」「地域リーグのあり方」「スタジアム構想」などについて語った。
JFL昇格は90チームのうち「2」。過酷なロードマップ
2026シーズン開幕を控えた1月、IKOMA FC 奈良 播戸竜二社長の姿は生駒市内にあった。午前中に生駒市 小紫雅史市長の定例記者会見に出席し「サッカーチームは街の人の希望。生駒市民の方々と夢を見ながら歩みたい」と宣言すると、午後にはクラブが所属する関西リーグの運営委員長、八木勉氏と対談。4月第2週に初戦を控える中、まず見えてきたのは、過酷な昇格レースの現実だ。
――IKOMA FC 奈良は今期のJFL昇格を目標としています。新チームにとっては、まず選手・スタッフがひとつになるのが大切ですよね。
播戸竜二氏(以下、播戸):今日、選手たちの前で最初の挨拶をしてきました。「1年目はJFL昇格、これしか見ていない。そのために24時間すべてを注いでくれ」と話しました。ただ、正直なところ、関西リーグのシステムの過酷さまでは、まだ完全に理解しきれていない部分もあります。
八木勉氏(以下、八木):相当厳しいですよ(笑)。まず、関西リーグDivision1に在籍しているのが8チーム。全国には9つ地域リーグがあり、それぞれ10チーム程度と考えると、全部でおよそ90チーム。その各地域チャンピオンらが、12チームで戦う「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(地域CL)」に出てきます。最終的にJFLに上がれるのはその中の上位2チーム。単純計算で「90分の2」の狭き門を争うわけです。
播戸:(JFL昇格は)関西リーグで優勝すればいいだけじゃないんですよね。
八木:そうです。しかも同じ関西リーグには、Jリーグ入りを目指す強豪もひしめいている。8月に開催される全国社会人サッカー選手権(全社)関西大会で5チームが全国社会人サッカー選手権大会の出場権を得るのですが、全社関西大会は関西リーグの前期の成績でシード順が確定します。そして全社の上位3チームが地域CLに出場できる。つまり本気でJFL昇格を狙うのであれば、リーグと全社、両方を獲りにいかなければなりません。
播戸:気が引き締まりますね。だからこそ、選手には「一丸」を求めたいと思っています。
――IKOMA FC 奈良が地域で愛されるチームになるために、何が重要でしょうか。
八木:各方向への「リスペクト」が大事になるでしょうね。JFLを目指すには(シーズン途中で)選手を失ってはいけません。怪我は仕方なくてもレッドカードや警告で主力を欠くのは最大の損失。リーグ戦は14試合ですが、最近は懲罰基準も厳しく、審判への異議が侮辱と見なされたら4試合出場停止もあるうる。そうするとリーグ戦の約3分の1に出られないことになります。
播戸:それは本当に大事ですね。僕も川淵三郎さん(元Jリーグチェアマン)に相談した時、「(サッカークラブは)何よりフェアプレーが大事」と言われました。IKOMA FC 奈良はクリーンだしフェアプレーをする。それでも強い。そんなチームを作らないと応援してくれる人も離れてしまいますよね。
八木:関西リーグはベンチと観客席の距離が近いので、汚い言葉は全部聞こえてしまいますからね(笑)。サッカーに対する姿勢も、ファン・サポーターの評価につながると思います。
「地域密着」のその先へ。社会人リーグの存在意義
地元ファンとの結びつきが強いほどクラブは強くなる。そのために地域リーグでも各クラブは様々な集客施策を展開している。具体的にどんな活動をしているのか。それは関西リーグ自体の存在意義にもつながっていく。
――各クラブの取り組みを見てきた八木さんからしても、地域の皆さんとどうつながりを作っていくかは大事だと感じますか?
八木:地域密着の観点でも、関西リーグの他チームの事例は参考になると思いますね。例えば、アルテリーヴォ和歌山(関西1部、過去5年で優勝3回の強豪)は選手総動員で「3000人プロジェクト」という集客キャンペーンを展開して1試合でおよそ3500人を集めました。Cento Cuore HARIMA(チェント・クオーレ・ハリマ、同じく関西1部)は「朝市」とコラボし、ピッチの周りにブースを並べて“買い物ついでに見に来る”ような仕組みを展開しています。
播戸:へえ!それはすごいですね。聞いていてすごく勉強になります。
八木:岡崎慎司君(元日本代表、現ドイツ6部FCバサラ・マインツ監督)は帰国した時、FC BASARA HYOGOさんのホームゲームに顔を出すんです。それだけでも、地元のファンを獲得する上では非常に大きい。だから、播戸さんの知名度の高さも強みになると思います。試合前にサッカー教室を開くとか、そんなことでリーグ盛り上げてもらえたら、リーグとしても非常に嬉しいです。
播戸:ぜひぜひ!僕が先陣を切って駅前に立ったり、選手が地域イベントに参加したり、“泥臭い活動”は重要だと思います。(親会社の)SCOグループ所属の卓球日本代表、吉村真晴選手に来てもらって子どもたちに教えるとか、サッカー以外のスポーツとの連携も考えていきたいですね。「サッカークラブがあることで、町が元気になった」と言ってもらえるように。
――そういった地域貢献が、社会人サッカーリーグのひとつの意義と言えそうですね。
八木:生駒市は県外への就業流出率が高いと聞きます。IKOMA FC 奈良が盛り上がることで、地元に愛着を持つ人が増えたり、雇用が生まれたりすればリーグとしても鼻が高い。ぜひ「関西から世界へ」の気概でやっていただきたいです。
播戸:はい。もし1年で昇格できず足踏みしたとしても、“地域に根ざすチャンス”と捉えれば意味があると思っています。もちろん1年で上がるつもりで戦力も揃えましたが、10年・50年・100年続くクラブのために、関西リーグでの経験のすべてを糧にしたいと思っています。
関西の課題は「グラウンド不足」。IKOMA FC 奈良への期待
――関西サッカー界が抱える地域課題などはありますか?
八木:やはり「グラウンド不足」ですね。関西にはJクラブが複数あり、JFL、学生リーグ、そして我々地域リーグとクラブ数がけっこう多い。その一方、試合や練習ができる施設数は限られていますし、特に「見る環境」が整えられたグラウンドが圧倒的に少ない。だから取り合いになっているのが現状ですね。これはどの地域もそうだと思います。
播戸:関東よりも土地はあるはずなのに、サッカーができる・見られる場所が少ない印象はありますね。J-GREEN堺のような素晴らしい施設はあってもそこに集中してしまう。
八木:だからこそ、IKOMA FC 奈良さんのような新しいクラブが、行政やオーナー企業と連携してグラウンドや新スタジアムの構想を持っているのは重要です。実現すれば関西サッカー界やリーグにとっても、良いムーブメントになると思っています。
播戸:スタジアムに関しては、今日も市長ともお話ししました。ハードルは高いですが、カテゴリーが上がれば必ず直面する問題なので、自分たちだけでなく関西サッカー全体のために何ができるか、SCOグループの力も借りながら動きたいです。今、クラブは3月中旬に、1500機のドローンを生駒山麓公園で飛ばして生駒のエンブレムを空中で描く新しいエンタメ企画も考えているので、市民の皆さんが喜ぶものを考えていきたいと思います。
――最後に、関西リーグからIKOMA FC 奈良や播戸社長に期待することがあれば教えてください。
八木:関西リーグはスローガンとして『一番近くの熱狂』を掲げています。ビジョンは『世界一のアマチュアリーグを作ろう』。それに向けてリーグとしても冠スポンサーをつけたり、映像配信を充実させたりと価値向上に努めています。そこに播戸社長のような発信力のある方が来て、新しい風を吹かせてくれるのは本当にありがたいと思っているので、ぜひ頑張ってもらいたいです。
播戸:僕も社長としては1年目ですから、地べたを這いつくばって、泥臭くリーグを盛り上げていきたいと思います!
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八木委員長が見守り続けてきた、「関西サッカーの風土」。そこに播戸社長が注ぐ「情熱」。様々なピースが組み合わさって生駒に熱狂が生まれたとき、関西から日本サッカー界は変わっていくのかもしれない。
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