Jリーグの変革期を支える人材戦略とは? 国際事業強化、初の新卒採用実施…人事のキーパーソンに聞く

1993年に10クラブでスタートした明治安田Jリーグは現在、41都道府県・60クラブにまで拡大した。2024シーズン公式試合の総入場者数は過去最多の約1254万人、全クラブの売上高合計は過去最高の約1725億円を記録し、33年の歩みで着実な成長を遂げている。

だが、激化する国際競争を勝ち抜くためには、さらなる組織の成長が必要になる。変革期のJリーグを支える人材戦略とは何か? 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)経営基盤本部 人事部 部長の神山良太氏に、HALF TIME代表の磯田裕介が聞いた。

開幕から33年目。Jリーグが置かれた現在の状況

磯田裕介(以下、磯田):Jリーグは多くの方にお馴染みですが、「組織」という観点から現在の状況を教えていただけますか?

神山良太氏(以下、神山):Jリーグは創設から33年目を迎えました。これまでずっと「地域密着」を掲げ、各クラブが地域に貢献し、地域の発展を担う存在となることを目指してきました。私たちリーグは全体を横断する組織として、あらゆる面から各クラブを支援し、リーグ全体の価値向上に努めています。

 こうしたJリーグの理念は今後も大事にしていきますが、一方で、国際社会においてJリーグやJクラブのプレゼンスを向上させるため、海外事業にも力を入れています。海外リーグとの競争の中でどういうポジションを築いていくのか、欧州5大リーグにどうやって追いつき追い越していくのか。国際的な競争力の強化が、現在の重大なアジェンダとなっています。

 それに関連する施策として、2026-27シーズンから(欧州と同じ8月開幕・翌年5月閉幕の)シーズン移行が実施されます。またこの移行に際して、2026年2月から特別大会が開催される予定です。おのずとリーグ内でも対応すべきアジェンダが増えている状況です。

磯田:HALF TIMEが昨年からJリーグのキャリア採用(中途採用)のお手伝いをする中で、世界に目を向けているというお話の通り、海外事業部にご紹介させていただくことが多くありました。今後強化しようとしているポジションはありますか?

神山:リーグ全体の収益規模のさらなる拡大を目指す中で、それに関わるポジションの採用は増えていくと考えています。具体的には、パートナー企業の新規開拓営業をしたり、Jリーグを活用してパートナー企業の価値を高めていったりするような取り組みを行うパートナー事業、クラブの収益の柱となる集客支援をしていくマーケティング部門、また我々人事も含めたコーポレート部門もクラブ支援という観点では、まだまだやれることがあると考えています。

公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)経営基盤本部 人事部 部長 神山良太氏

Jリーグが大事にしている「3つの採用基準」

磯田:採用に際して大事にしている選考基準はありますか?

神山:1つ目は「期待を正しく捉える力」です。Jリーグの仕事は、リーグ内の各組織や60あるクラブの担当者、パートナー企業、メディア関係者などと連携しながら進めることになります。どんなにこれまでの経験を生かして面白い企画を考えたとしても、入り口の課題設定を誤れば本質的なゴールとは違った方向に進行してしまう。そういった意味で関係者からの「期待を正しく捉える力」はすごく大事だと考えています。

 2つ目は「挑戦心」です。これまでの30年はどちらかというと国内にベクトルを向けて成長を重ねてきましたが、海外事業をはじめとして非連続のチャレンジをどんどん仕掛けていかないと、世界との差は開き、置いていかれることになります。失敗を恐れず「挑戦心」を持つ方の方が、今のJリーグにはフィットすると考えています。

 3つ目は「アジリティ」です。海外リーグはものすごいスピードで成長を続けています。またサッカー界だけでなく、テクノロジーなど外部環境も大きな変化をしている。時間をかけて100%の状態でスタートをするのではなく、6割・7割でもまず取り組みを仕掛けて、検証していく。どんどんサイクルを回していくという「アジリティ」が、今のJリーグにとっては必要だと考えています。

なぜJリーグは内定承諾率が高いのか?

磯田:Jリーグの採用の特徴の一つに、内定承諾率の高さがあると感じます。何か講じている策があるのでしょうか?

神山:キャリア採用・新卒採用を問わず、どれぐらいの熱量を持って志望しているかを見ています。単にサッカーに関わりたいというのではなく、「Jリーグにこんな課題感があり、だからこんなふうにしていきたい」というコミットメントの高い方に入社していただきたい。

 ですので、そうした観点を選考の基準の一つにしています。スポーツビジネスという産業の未来を一緒に創っていくんだというモチベーションを持つ方は、入社後も意欲を持って高いパフォーマンスを発揮してもらえていると感じます。

磯田:HALF TIMEで昨年ご紹介したキャリア採用の3名も、誰も内定を辞退せず入社しています。

神山:HALF TIMEからご紹介していただく方は、Jリーグの事業や実際に働くことに対する解像度が高い。面接では候補者との認識をそろえることに時間を費やすことも少なくないのですが、ほとんどその必要が無く、本質的なやりとりができるのは本当にありがたいですね。

磯田:採用において何か課題に感じていることはありますか?

神山:スポーツ業界は特殊性の高い業界であると認識しています。私たちJリーグであれば、サッカーが好きな人にとってはたまらない環境の中で仕事ができ、ものすごく働きがいがある。

 一方で、スポーツ業界全体にいえることですが、民間の一般企業と比べて報酬や待遇、人材育成といった側面で追いついていない部分がまだまだあります。欧米ではドリームジョブと言われることもありますが、日本でもスポーツ業界が働きたい産業になる、その中でJリーグが選ばれる組織になるためには、この課題に向き合っていく必要がある。民間企業の報酬体系をベンチマークした上で報酬額を見直すなど、競争力を上げていけるよう取り組みを進めているところです。

HALF TIME株式会社 代表取締役 磯田裕介

初めての新卒採用に2000名が正式応募

磯田:Jリーグは今年、初めての新卒採用を実施されました(※)。実際にどれほどの応募があったのですか?

(※2026年3月までの大卒見込み学生が対象。現在は2027年度新卒採用のエントリー受付中)

神山:6500名を超える学生にエントリーをいただきました。エントリーシートを提出して正式応募に至った学生が約2000名、面接でお会いできたのが約200名です。一緒に働く人を組織全体で決めていこうという方針のもと、野々村芳和チェアマンをはじめ、多くの役職員に選考に関わってもらいました。

磯田:これまで主にキャリア採用をされてきましたが、なぜこのタイミングで新卒採用を決めたのでしょうか。

神山:昨シーズン、Jリーグ公式試合のスタジアム入場者数は過去最多を記録しましたが、未来を見据えたとき、若い世代の方々にもっとスタジアムにお越しいただくことが大事になると考えています。しかし私たちJリーグ職員の平均年齢は43歳で、若い世代の職員が少ないという課題を抱えていました。

 過ごしてきた環境や時代背景、デジタルやAIに対するリテラシー、価値観や感性の違い…それらは想像だけでは及ばないところがあります。どうすれば若い世代の方々にJリーグの魅力を知ってもらえるのか、スタジアムに行きたいと思ってもらえるのかを考えるにあたり、やはり同じ若い世代の方に入社してもらって一緒に取り組んでいく必要があると考えたことが、新卒採用を始めたきっかけです。

若い世代にJリーグの魅力を伝えるには「同じ世代の方と一緒に取り組むことが必要」(神山氏)

「10年後にはJリーグの経営を担う人材に育ってほしい」

神山:学生と話していると、「いつかはスポーツビジネスの仕事をしたいが、キャリア形成を考えると、まずはどこか別の会社で力をつけたほうがいいのではないか、新卒で就職することに迷いがある」と考えている方が多くいることが分かりました。

 リーグ創設から30年以上が経ち、しっかり人材を育てられる組織にしていこうというのが私たちJリーグの総意です。ですので現在は新入社員を迎えるにあたり、人材育成のロードマップを整理しています。各部署の業務プロセスを見える化しながら、どういった仕事を任せていくのか、どんなトレーニングプログラムを整えていくのか、どんなキャリアパスを描いていってもらうのか。10年後には経営を担う人材に育ってほしいと考え、今まさに体系的に組織力の強化を図ろうとしているところです。

磯田:新入社員の方々に最大限に力を発揮してもらうためには、何が大事になるのでしょうか。

神山:対話とフィードバックだと思います。来春入社する新卒1期生は全員まったく個性が違います。一人一人の個性や強みに合わせて対話をしながら目標設定をしていくこと、また、都度上司や同僚からフィードバックしていくことで成長角度が変わっていくと思います。このあたりは組織として大事にしていきたいと考えています。

磯田:最後に、Jリーグで働く魅力を改めて教えていただけますか?

神山:Jリーグは今まさに、変革のフェーズにあります。自分が好きなスポーツやサッカービジネスに関わりながら、今あるものを守るのではなく、自分自身で新しいものを創ることができる。未踏の領域にチャレンジすることができる、というのが最大の魅力なのかなと思います。


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