IMG渡邉和史氏インタビュー:全方位のスポーツマーケティング経験「ユニーク」な新天地で活かす

博報堂からFIFAマーケティング、コカ・コーラと約25年に渡って国内外のメガ・スポーツイベントに関わってきた渡邉和史氏。日本のスポーツビジネスの現状や、自身の新天地であるIMGの展望について、ブランドコンサルティング企業 H-7 HOUSE(エイチセブンハウス)代表の堀弘人氏が聞いた。(初出=NESTBOWL

渡邉 和史さん
IMG 東京支社
 Vice President
1974年生まれ。高校までアメリカ、日本を行き来したのち帰国。上智大学卒業後、博報堂に入社。南米サッカー大会のスポーツマーケティングに関わり、2000年にはFIFA マーケティング(旧ISL)に転職し、2002FIFAワールドカップ日韓大会を担当。2011年から2021年までは日本コカ・コーラに在籍し、スポンサー側からFIFAやオリンピックに携わる。2022年9月よりVice PresidentとしてIMG 東京支社に入社。
公式HP:https://imgjapan.com/

堀 弘人さん
H-7HOUSE CEO・ブランドコンサルタント

1979年 埼玉県生まれ。米系広告代理店でキャリアをスタートし、アディダス、リーバイス、ナイキ、LVMHなど数々の外資系ブランドにてマーケティングディレクターを含む要職を歴任したのち、楽天の国際部門にて戦略プロジェクトリーダーとして活躍。20年以上に及ぶ自身のブランドビジネス経験を国内外企業の活性に役立てたいとブランドコンサルティング会社H-7HOUSEを設立。NESTBOWLをはじめとして様々な企業、政府系機関、ベンチャーなどのブランド戦略構築に幅広く参画している。

「東京2020は不完全燃焼だった」

――渡邉さんは、かれこれ25年も巨大なスポーツイベントに関わってこられたのですね。

博報堂に入社して担当したのがトヨタ自動車株式会社。トヨタ自動車様が南米サッカー大会のスポンサーとなったことから、代理店として大会に関わることになりました。これがスポーツマーケティングとの出会いですが、それから25年間ずっとスポーツに関わり、オリンピックは4回、ワールドカップは3回体験しました。博報堂では代理店の立場として、その後は連盟やスポンサーとしての立場からもスポーツイベントに関わってきました。

――直近ですと、東京オリンピック2020ですよね。このときは日本コカ・コーラに在籍されていましたが、終わった今、振り返っていかがですか。

マーケティング担当統括部長の役割を担い、聖火リレーを担当していました。一言で表現すると「不完全燃焼」です。厳しい制限下のなか、結局、やりたかったことの30%もできませんでした。コカ・コーラに限らず、参加していた81社すべてのスポンサーが同じような想いだったと思います。正直言って、スポンサーという立場も難しい大会でした。

聖火ランナーとして参加してくれた方々や、沿道に来てくださった人たちはとても喜んでくれました。ただ、聖火リレーは世論的にも良しとせずという風潮だったじゃないですか。そうした報道ばかりが前面に出てしまったのは残念でしたね。

――東京オリパラ後、日本のスポーツビジネスの流れはどんな感じですか。

オリンピック・パラリンピックが終わって1年以上たちますが、この間ずっとオリンピック・ハングオーバー(二日酔い)状態のような感じです。イベントも戻ってはきていますが、何となくやる気が出なくてまだまだ守りに入っています。五輪後、スポンサーはスポーツではなくサスティナビリティにお金を使っているという感じですね。

でもワールドカップのカタール大会や、海外スポーツを見ていると、以前と同じように盛り上がっています。本当は日本でだってあんな風にやりたい、やれたらいいなと誰しも思っているのだけど、先陣を切ると叩かれる。スポンサーも動きがとれません。

左から)渡邉和史さん、堀弘人さん

IMGに移り、新たな挑戦が始まる

――そんななか、2022年9月から、IMGに入社されました。IMGとはどのような企業なのでしょう

もともとは、ゴルファーのレジェンドである、アーノルド・パーマーのビジネスまわりを手伝うために設立された会社です。今でこそ当たり前になったスポーツマネジメントを初めて手掛けたパイオニアで、現在世界20カ国以上に拠点があります。

日本では錦織圭、坂本香織、張本智和選手など、名だたるスポーツ選手のマネジメントを行っています。スポーツマネジメントをメインに、イベント運営やテレビなどのメディアビジネス、ファッションアイコンなどのマネジメント、ライセンス管理など、幅広い事業を行っています。

錦織圭などは若いうちからアメリカに拠点を移して活動していますよね。彼が在籍していたフロリダのIMGアカデミーもIMGグループのひとつです。IMGアカデミーは、将来を担うプロスポーツ選手の養成を行うスポーツだけの学校というよりも、世界に出ていくために欠かせない国際感覚も養う総合的な育成施設。こうした「人を育てる」事業などにも力を入れています。

IMGは2014年、巨大なエンターテインメントカンパニーであるエンデバーグループの傘下に入ることで、より主要な立場で幅広いビジネスができるようになりました。

IMGアカデミーは米国フロリダ州にあるボーディングスクールで、テニスの錦織圭選手の母校、またバスケの田中力選手も在籍していたいうことで日本で最も知られるエリートスポーツアカデミー。ⒸIMG Academy

――世界のスポーツビジネスを知る渡邉さんは、海外と日本のスポーツビジネスの違いをどのように捉えていますか。

そもそもアメリカと日本では、ダイナミズムもファンベースも違います。アメリカのカレッジフットボールですら観客が12~14万人入りますから、そもそもキャパが大きい。スポンサーフィーも比べものにならないほど高いですしね。そんななか日本企業は、今はあまり海外に投資していないのが現状です。地に足がついたやり方をしているとも言えますが…。

――それにジレンマは感じませんか?

ジレンマというより、IMGに入ったことでできることが広がったと思います。たとえばこれからは日本のスタートアップ会社などとどんどん組んで、そうした会社が外に出ていく手伝いもしたいですね。IMGにはたくさんの選手やタレントが所属しています。みんなの力を掛け合わせることで、ユニークかつ新たなビジネスを作っていけたらいいなと思っています。

――扱うスポーツの領域も変わってきましたか?

大きく変わりました。そもそも最初はゴルファーの選手のマネジメントからスタートして、その後テニスに広がっていきましたが、フィギアスケート、最近はスケートボードやサーフィンなどいわゆる横乗り系の選手のマネジメントが増えています。

――横乗り系は東京2020でも注目されましたし、若い選手も多い。10年前には考えられない分野に広がってきましたよね。

そうなんです。ですからIMGの巨大なネットワークを軸に、所属選手の個性や知名度も活かしながら新しいことができたらと思っています。IMGは代理店の機能もあるし、プロパティオーナーでもあります。ユニークな立ち位置の企業なんですね。

私はIMGに入ったばかりですが、おもしろい会社ですよ。今メンバーは45人ほどとはいえ、少数精鋭で一人ひとりがプロフェッショナル。日本に限らず、IMGのマネジメントは自分が担当する選手を愛し、誇りを持っています。

「謙虚さ」と「仕事を楽しむ」ことが渡邉流

――キャリアビジョンとしては、どのような想いを描いていますか。

ここに落ち着きたいという想いでIMGに入りました。コカ・コーラの東京五輪チームが解散してコカ・コーラを退職したあと、どこで仕事をするのが一番よいのか時間をかけて考えたのですが、これまでの経験がもっとも活かせるのがIMGだと思いました。私はコカ・コーラでスポンサーの立場も経験しているので、スポンサーと話す時も相手の気持ちがよくわかるため、相手を説得しやすいんですよ。

――渡邉さんの仕事の流儀って何でしょう。私から見ると、渡邊さんはどんな逆境のなかでもポジティブで、日本人には珍しい発信力を持っているというイメージなのですが。

いつも謙虚でいることは心がけています。日本って「出る杭は打たれる」文化でしょう。海外は逆で、積極的にアピールしますよね。やり方が両極端なんです。アピールも大事だけど、アピールしすぎると叩かれますから、謙虚さを常に意識して、バランスを取るようにしています。

――仕事へのこだわりはいかがでしょう。

まず自分が楽しむことですね。仕事で自分が楽しめることを考えるとワクワクしませんか?そんなワクワク感が、気持ちのこもったプレゼンにもつながるのではないかと思っています。

IMGでの僕の役割はセールス1本。コロナ禍の捉え方も変わってきて、ようやく人にも会えるようになってきたので、スポンサーをはじめとしていろいろな人に直接会って話をすることが今はとても楽しいです。セールスは人と会う仕事ですし、僕はもともと人が好きだから、人と会って話したい。いろいろな人の話を聞くと、必ず吸収できることがあるし、それがヒントにもなって提案につながっていきますから。

360°の方向からスポーツのスポンサーシップを見てきたので、関わる人や企業、全員の気持ちが理解できることが僕の強み。そこを活かして互いにWin-Winになれるアイディアをどんどん出していきたい。スポーツを通して日本を元気にしていきたいですね。

(文=伊藤郁世、撮影=加藤千雅)