博報堂から、FIFA、そしてコカ・コーラへ。渡邉和史氏に聞く「キャリアメイクの極意」

東京2020オリンピックの開幕まで200日を切り、日本中で機運が高まる中、ひときわ大きな注目を集めているのが日本コカ・コーラだ。同社がオリンピックのスポンサードを開始したのは、アムステルダム1928大会。以降、今日に至るまでスポーツマーケティングの分野においても先導的な役割を担ってきた。日本で半世紀ぶりに開催される夏季五輪大会で、同社が目指すものとは何か。そしてその先に広がるビジョンとは。東京2020オリンピック アセット&エクスペリエンシャルマーケティング統括部長ディレクターとして、スポーツマーケティングの鍵を握る渡邉和史氏が、語り尽くした。(聞き手は田邊雅之)

澤穂希氏の起用がもたらしたマーケティングの成功

――御社はスポーツを巧みに活用されながらマーケティングを展開されてきましたが、中でもコカ・コーラ・ゼロの成功事例はよく知られています。Jリーグでは30代から40代男性のオーディエンスが多いことに注目され、そのターゲットを見事に獲得されたわけですが、特定の競技とマーケティングがうまく噛み合った例としては、他にどのようなケースがあるでしょうか。

「少し前の話ですが、2011年になでしこジャパンがサッカーの女子W杯で優勝した直後に、澤穂希選手と契約したんですね。当時はアクエリアスのマーケティングで、10代の女性がうまく獲得できていなかったのですが、澤さんを筆頭に女子サッカーのコミュニケーションを実施したことによって、飛躍的に女性のカスタマーを獲得することができました。

具体的な実例としては、FIFAクラブワールドカップを挙げることができます。2011年に日本で大会が開催された際には、ボール『ボーイ』が公募されました。そこで我々は、2012年の日本大会では、澤さんにうまく呼びかけていただきながら、ボール『ガール』を募集しました。

この企画によっても、やはり全国の女子サッカーファンがアクエリアスの方を向いて下さった。これらの企画は大きな成功を収めましたし、特定のスポーツと直結する形で製品のマーケティングが展開できた事例になったと思います」

コカ・コーラブランドが持つ、アスリートへの訴求力

――御社はマーケティングにおいて、「ストーリー・テリング(物語性/ドラマの演出)」も巧みに展開されてきましたが、澤さんをはじめとするスポーツ界のアスリートは、常にその一翼を担ってきました。

「我々としては、やはり消費者の方々に共感していただきたいと思っていますし、アスリートの皆さんには、消費者に共感を伝えるためのストーリーテラーとしての役割を担っていただいています。

そこでアスリートの皆さんに、どんなメッセージをどう伝えてもらえるのかを考えるのが我々の仕事ですが、うまく伝わってきたからこそ、こういう結果が出ているのだと思います。ただし、それは自分がどうこうではなく、あくまでも会社全体としての強みに他なりません。チーム一丸となって、常にとことん分析していますから」

――アスリートを起用したマーケティングやプロモーションは、他社も展開しています。にもかかわらず御社がこれだけ成功を収められている理由を、どう分析されますか?

「やはり、オリンピックやFIFAのパートナーだという事実によって、メッセージのダイナミズムが変わってくる部分はあると思います。他社さんと比較した場合、そこが一番のアドバンテージなのかなという気がしますね」

――その場合の「ダイナミズム」とは、消費者に対するリーチの強さでしょうか、それとも他の部分に関するものでしょうか。

「一種のステータスも関係してくると思います。例えばアスリートの皆さんにしてみれば、いわゆるIOCやFIFAのパートナーであるコカ・コーラと契約する方が、セルフエスティーム(自尊心)が高まるじゃないですか。コカ・コーラが持つこういう強みは、例えば新規のアスリートと契約する際にも、有利に働いてきたと思います。それで交渉がスムーズになったりするケースはありますから」

スポーツビジネスのキャリアを成功に導いた問題意識

――なるほど。ここからは少し渡邉さんご自身のストーリーについて伺わせて下さい。渡邉さんは博報堂に入社された後にFIFAに転職され、再び博報堂に転職。現在は、日本コカ・コーラでマーケティングを主導されています。ある意味、立場を変えながらスポーツマーケティング畑を歩いてこられたわけですが、それぞれの立場の違いを実感されますか?

「やはり一番大きいのは、お金の流れですね。まず代理店は(クライアントやスポーツの統括団体の間で)、お金の受け渡しをする位置になります。一方、FIFAのような連盟側は、企業からお金を受ける立場になりますし、私が所属している日本コカ・コーラは、川上の立場でお金を支払う側になります。これら3つの立場ではやるべきことも当然変わってきますし、動き方も変わってきますね」

――渡邉さんは、すべてのフローをカバーされてきた。

「ええ。お金をキーワードにしながら、全体的な流れを最も把握できているというのは、自分の一番の強みかもしれません」

――川上から川下まで、すべて経験された渡邉さんだからこそわかるスポーツビジネスのおもしろさ、醍醐味とはいかなるものでしょう。

「おもしろさというよりも、自分としてはこのサイクル全体を強くしていきたいという思いの方が強いですね。そうすればスポーツビジネスのマーケットや、スポーツに対する意識そのものが変わってくると思いますから。個人的に言えば、私は日本のスポーツ界を盛り上げるために仕事をしているわけではなくて。むしろ海外への展開なども見ながら、どうすればより有効な投資につなげていくことができるのかを追求していきたいと思っています。例えば代理店の側に立てば、どういう企画の売り方をすればいいのか、連盟側はどうすればより効果的に収益が得られるか、そしてスポンサー側は、いかに投資の効率を上げていくか。こういう部分はもっと突き詰めていけると思います」

――最近はスポーツビジネスに携わりたいと望む人たちが増えてきました。このような人たちに対して、なにか助言をされるとすれば?

「一見、華やかな世界に映るでしょうし、選手にも会えるかもしれないということで、この業界に来られる方は多いと思いますが、スポーツはあくまでも手段です。まずは、自分はこれがしたいというはっきりした目的があり、結果的にその手段がスポーツなんだと捉えるようなスタンスが求められている気がしますね」

日本のすばらしさを伝えていく使命感と喜び

――渡邉さんはかつて、ご自身スポーツビジネスに携わられるようになったのは、スポーツを通じて、日本そのもののプレゼンス(存在感)をダイレクトに高めたいという思いがあったからだと語られたことがあります。それは日本が持つ文化を知らしめるという目的も含まれているのでしょうか?

「直接的に文化を伝えるよりは、むしろ日本に対して興味を持ってもらえればいいかなと思っています。例えば自動車会社を例に取れば、トヨタさんは日本の会社で、様々な形で社会に貢献しようとしている。そういう部分を、マーケティングを通じて一人でも多くの消費者に紹介し、じゃあトヨタを生み出した日本というのは、どんな国なのだろうと興味を持っていただけるようにする。

実際、一口に文化と言っても内容は多岐にわたりますから、一個人としてすべてを伝えることはできない。だからむしろ、日本の文化に触れるための何らかしらのきっかけを提供できるのが、自分にできる最大限のことなのかなと思っています」

――そのようなメッセージを発信するために、最もわかりやすくて有用な舞台装置の一つがスポーツになってきたと。

「そうですね。スポーツという筋書きのないドラマをうまく活用しながら、うまくそこに入っていて、皆さんの記憶にとどめてもらう。そして日本という国のポジティブなイメージを刷り込ませるというのが、自分がやってきたことだと思います」

――東京2020オリンピックで、特に訴求されたいイメージなどは想定していらっしゃいますか?

「まず先ほどもお話ししたように、日本コカ・コーラの様々な製品やサービスを通して、日本という国が持つ、非常にイノベーティブな側面に触れて欲しいですね。個人的な理想で言えば、東京2020オリンピックの後、将来的にもう一度日本にオリンピックが戻ってきてもらえたらと思っています。

現時点では東京2020オリンピックが終わった後は、主立ったスポーツイベントは日本で予定されていません。もしかすると2023年にサッカーの女子W杯が開催されたり、2030年に札幌で冬季オリンピックが開催されたりするかもしれませんが、まだ具体的な計画は立っていない。だからこそ、日本で再びオリンピックが開催できるようになり、そこでまた日本が世界に誇る文化を発信する仕事に携わることができたなら、一人の人間として、これほど幸せなことはないだろうなと思っています」

スポーツビジネスに携わること自体を目指すのではなく、そこでいかなる自分の夢やビジョンを実現していこうとするかが、キャリアメイクのカギを握る。渡邉氏はこう喝破した。最終回となる次回は、東京2020を成功させるために、日本のスポーツビジネス界に求められている要素、そして未来を見据えた新たな挑戦について伺う。


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