新規ファンが急増する千葉ジェッツ、公式YouTube成功の秘訣とは?MIXI流の動画クリエイティブ術

今季Bリーグで圧倒的な観客動員を誇る千葉ジェッツ。その盛り上がりを支えるひとつが、「公式YouTubeチャンネル」の存在だ。チャンネル登録者にアンケートを取ったところ、なんと、動画をきっかけに現地で試合観戦したというブースター(※バスケットボールのファンを表す名称)が過半数を占めるという驚きの結果も出ている。公式チャンネルを手掛けるのは、グループ会社のMIXIデザイン本部のクリエイターたち。いかにしてチームと連携して、新たなブースターを増やしてきたのか?“MIXI流”のアプローチを伺った。(全2回の2回目/前編から読む)

元NBA渡邊雄太「大車輪てつぼうくん」動画が話題に

日本人2人目のNBAプレーヤーとして6年にわたり世界最高峰の舞台に挑み続け、日本代表では中心選手として人一倍強い思いを抱いてコートを駆け抜ける――。日本バスケットボール界をけん引する渡邊雄太が千葉ジェッツでプレーすると決めたのは昨夏のことだった。

新たなキャリアへの決意を語った記者会見から12日後。チームの公式YouTubeチャンネルで、不屈の精神をもって戦う男のおちゃめな姿が公開された。

「大車輪てつぼうくん」という体操の鉄棒種目をもとにした玩具にチャレンジし、「ああ違う!」「成功を見ないと帰れない」「遅かった!」と負けず嫌いを発動させる姿に、多くのブースターが歓喜。97万回以上も再生された。

「渡邊選手が移籍してきてすぐのタイミングで、『もう撮れたの?』と社内で話題になりました」と振り返るのは、千葉ジェッツ公式YouTubeチャンネルの運営責任者を務める、折原綾平氏。

折原氏と同じ部署で同チャンネルの総合演出を担う沖浦雅俊氏も、「多くの取材の予定が入っていて、公式チャンネルとはいえ『そう簡単に撮る時間はない』と社内でずっと言われていたんですけど……渡邊選手が練習から帰るとき『ちょっとやってみようかな』って」と笑う。

株式会社MIXI デザイン本部 動画クリエイティブ室 コンテンツディレクショングループ マネージャーの折原綾平氏(左)とチームリーダーの沖浦雅俊氏(右)

YouTubeチャンネルの登録者数が3.5倍に急成長

株式会社MIXIは、「mixi」などのSNSや「モンスターストライク(以下、モンスト)」などのスマホゲームで大きく成長を果たした。2019年に千葉ジェッツの経営権を取得したことを皮切りに、本格的にスポーツビジネスに参入している。

MIXI デザイン本部が千葉ジェッツ公式YouTubeチャンネルの運用を担い始めた2021年夏以降、チャンネル登録者数は3年半で約3.5倍となる17万人(2025年2月時点)にまで急成長。2024年の再生回数は、日本のスポーツチーム全体で6位(Sports Freak Japan調べ)で、国民的スポーツといえるプロ野球チームを除けばダントツの1位だ。

昨年6月、千葉ジェッツのYouTubeチャンネル登録者を対象に「YouTubeチャンネルをきっかけに行動したこと」というアンケートを実施したところ、回答者の53.1%が「現地で試合観戦した」という結果が出ている。

同10月からの今シーズンは、新ホームアリーナ「LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ 東京ベイ)」に本拠地を移すと、平均入場者数は1万人を突破しリーグトップ。公式YouTubeチャンネルが果たしてきた役割は大きい。

また、YouTubeをはじめ各種SNS運用において最も優秀な成長曲線を描いたクラブとして、千葉ジェッツは2023年、2024年と2年連続でBリーグの「ソーシャルメディア最優秀クラブ」も受賞している。

企画案が次々NGに。選手との信頼関係をゼロから築く

だがその船出は決して順風満帆ではなかった。

折原氏、沖浦氏をはじめとするクリエーターの多くはテレビ業界の出身で、MIXI入社後も絶大な人気を誇るモンスト公式YouTubeチャンネルなどで実績を積んできた。だが意外なことに、「スポーツではここまでノウハウが通用しないのかと感じた」(折原氏)。

自分たちが面白いだろうと思う企画を打診しても、そのほとんどがNG。その理由に、「はじめは信頼関係が構築できていなかった」と同氏は振り返る。

二人は共にテレビ業界の出身。地上波のバラエティ番組や旅番組などを手掛けてきた

テレビに出演するタレントやYouTubeが主戦場のユーチューバーと違い、選手の本業はバスケットボールで、試合に勝つことが一番の仕事。チームはどういう状況で、どういう温度感なのか。選手は何を考えているのか。「最初は想像力が足りずに見当違いな企画案もあった。それからは、担当ディレクターたちは毎日のように練習場に通っていました」(折原氏)。

撮影は二の次に、まずは顔を覚えてもらい、練習が終われば積極的に話し掛けた。何に興味があるのか、普段はどんなことをして過ごしているのか。「雑談できるだけの関係性を築く」(沖浦氏)ことで好循環が生まれていった。

選手が好きだというユーチューバーとコラボしたことをきっかけに、選手も自然と撮影を楽しめるように。動画の再生数が伸び、選手のSNSもフォロワー数が増えるなど結果が目に見え、YouTubeを運営する意味を理解してもらえたことにより、選手も協力的になってくる。今では選手から「こんなことできませんか?と提案してもらえる関係性にまでなった。

過密日程を逆手に取った「ショート動画戦略」

試行錯誤を繰り返しながらも手応えをつかみ始めた二人だったが、新たな試練が待ち受けていた。

2023-24シーズン、千葉ジェッツは東アジアスーパーリーグ(EASL)に出場することになった。これまでは企画案を千葉ジェッツのチーム広報に打診して、日程調整の末に撮影を行い、撮影時間も1時間程度かかっていた。だがEASL出場による試合数の増加や海外遠征の影響で、現実的にそうした撮影が不可能になってしまった。

そこで新たに取り組み始めたのが「ショート動画」だ。当時はBリーグでショート動画に取り組んでいるチームがほとんどなかったことも決断を後押しした。

撮影方法はジェッツの広報チームと協力して刷新。練習を終えた選手が通る動線にカメラを置いて、選手が通ったタイミングで声を掛けて2択の質問に答えてもらったり、設置した小道具や玩具に興味を持った選手に遊んでもらったりする様子を撮影する形に変えた。冒頭の渡邊雄太選手のショート動画がまさにこれだ。

撮影時間はものの数分。やりたくなければやらなくていい。「過密日程の中で選手の負担にならないように配慮を尽くした」(折原氏)。選手が撮影を忘れて楽しんでいる姿や、シャワーを浴びて私服で帰る姿など、コート上とのギャップやオフショット感がブースターから好評を得ている。

YouTubeのショート動画はレコメンドされた動画が自動再生される仕様で、チャンネル登録してないユーザーにも認知されやすいのが特徴だ。ショート動画への注力が、千葉ジェッツの認知拡大に寄与し、チャンネル登録者数を大幅に増やす要因となっている。

YouTube運営で大切にしている「3カ条」

こうした公式YouTubeチャンネルを運営する上で、大切にしていることがあるという。

1つ目は「ユーザーサプライズファースト」。MIXIの企業理念のひとつにも掲げられている言葉で、「驚き」が制作現場から経営まで意思決定の軸となっている。モンストの公式YouTubeチャンネルが絶大な人気を獲得したのも、このユーザーサプライズファーストが根底にある。

「その系譜はジェッツのYouTubeチャンネルにも受け継がれています。視聴者目線で『こんなことやっちゃうの!?』と驚かせられるような企画やコラボを常に考えています」(沖浦氏)

2つ目は「目線の切り替え」だ。バスケットボールに興味がない人、千葉ジェッツを知らない人に動画を見てもらうには、そうした人たちが気になるような目線を提供する必要があるという。

「例えばダンクの動画を出す場合、直接的に『ダンクがすごい!』と言っても伝わらない。でも『まるでスラムダンクのようだ!』と言い換えれば、『漫画みたいなシーンがあるの?』と目線が切り替わり、興味を持ってくれる人は増える」(折原氏)

3つ目は「数字を気にしない」こと。多い月は50本以上の動画を制作する中で、1本1本を振り返るよりも、次へ次へと作り続けることで担当者は成長すると折原氏は信じている。

「YouTubeの運営は本当に大変で、熱量や愛が無いと絶対に続かない。もちろん数字も大事ですが、それは最後の話。作り続ける積み重ねで、ふたを開けたらついてくるもの」(折原氏)

MIXIデザイン本部に集まるのは生粋のクリエイター。「動画を公開して数字が悪かったら一番悔しいのは担当ディレクター。本人が一番わかってます」(折原氏)

千葉ジェッツ公式YouTubeチャンネルの運営を通して得られた知見やノウハウは、MIXIの中で共有し、他のジャンルでも活用され、組織としてさらなる成長の糧にされるだろう。それは企業としてあるべき姿だ。

だが、そうした大事な知の資産を、なぜこうして社外にも公開するのだろうか。その答えにこそ、MIXIのデザイン本部に通底する哲学が表れているのかもしれない。

「僕らが活動しているのは、千葉ジェッツのことだけを考えているわけではありません。Bリーグ全体が盛り上がることが本当のゴールだと考えています。他のBリーグチームのYouTube担当者やバスケットボールの動画クリエイターとつながり、共有し合うことで、その夢が実現できると信じています」(折原氏)

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