日本各地でアリーナ建設の動きが活発化している。2026-27シーズンに開幕するバスケットボール・Bリーグの最上位カテゴリー「Bプレミア」が、収容客数5000人以上のアリーナを参入基準に定めている。そうした中で、民設民営のアリーナとして注目を集めているのが「ららアリーナ 東京ベイ」と「トヨタアリーナ東京」だ。
これからのアリーナがもたらす「体験価値」とは――。株式会社MIXIでライブエクスペリエンス事業本部 本部長を務める柳本修平氏、トヨタアルバルク東京株式会社でアリーナプランニング部 部長を務める林洋輔氏が、都内で開催されたスポーツビジネスカンファレンス「HALF TIMEカンファレンス2024 Vol.2 supported by アビームコンサルティング」で語った。
ららアリーナはコミュニケーションを創造する場に
「ららアリーナ 東京ベイが新規開業してから、これまでにない新しいお客さまが増えていますし、ラウンジができたことで楽しみ方が多様になったのは間違いないと感じますね」
そう語るのは、株式会社MIXIでスポーツ領域の観戦事業を担当する柳本修平氏だ。
MIXIは「mixi」などのSNSや「モンスターストライク」などのゲームで大きく成長を果たしてきたが、新たな事業の柱として、2019年に千葉ジェッツ、2022年にFC東京の経営権を取得するなどスポーツビジネスに取り組んでいる。
三井不動産との共同運営で千葉県船橋市に今春開業した「ららアリーナ 東京ベイ」は、今シーズンから千葉ジェッツのホームアリーナとして使用されており、MIXIが大切にしている“人々のコミュニケーションを創造”する場を体現する施設として設計されている。
アリーナの特徴に挙げられるのが、VIPエリアだ。
例えば、千葉ジェッツの試合時、「VIP LOUNGE」はプレミアムシート購入者だけが入場できるラウンジで、バーが併設されており、食事をしたり、試合後には選手と交流することもできる。「VIP ROOM」は主に法人利用で高級感のある個室からアリーナを一望でき、「VIP BOX」は個人利用で仲間同士でワイワイ食事をしながら観戦できる。
また原寸大のバスケットコートがペイントされたカジュアルなラウンジ「BOOSTER SQUARE」は、ファン同士の交流を生み出す空間として設計されている。
「試合を見るだけでなく、一日をどう楽しんでもらうか」
今シーズン、千葉ジェッツのホームゲームには平均約1万人以上が来場している。前シーズンまで使用していた船橋アリーナから2倍以上の収容客数にもかかわらず、ほぼ毎試合チケットが完売となる盛況ぶりだ。
だが柳本氏は「一度来たお客さまにもう一度来たいと思ってもらえるかどうか、これから試されていく」と決して楽観視していない。「試合を見るだけでなく、その日一日をどう楽しんでもらうか」(柳本氏)と話すように、アリーナの設備面における魅力だけではなく、来場者の観戦体験をいかに充実させていくかが重要だと話す。
そのためにMIXIでは現在さまざまな施策をテストしている。例えば、観客がスマホのインカメラで自身を撮影したライブ動画が、クラウドを通じてコート上のセンタービジョンに映し出される「BOOSTER'S CAM」は、これまでにない体験価値として好評を博している。
「千葉ジェッツの興行はもちろん、コンサートの興行も音響を含めて好評をいただいています。さまざまなお客さまに選ばれ、365日使っていただくアリーナになるために、これからもチャレンジしていきたい」(柳本氏)
トヨタアリーナが目指す「試合を見なくても楽しい空間」
「トヨタアリーナ東京では、ハードとソフトが融合した“一体経営”に取り組んでいます。クラブ運営とアリーナ運営の両方をひとつの会社の中でやっているので、クラブ、スポーツの思想がアリーナの設計に取り入れられています」
トヨタアルバルク東京株式会社でアリーナ運営の責任者を務める林洋輔氏は、2025-26シーズンからアルバルク東京の本拠地※となる新アリーナの特徴をそう語る。(※2026-27シーズンからサンロッカーズ渋谷と共同使用)
かつて東京・お台場に存在した大観覧車やトヨタのショールーム施設「メガウェブ」の跡地に建設中で、2025年秋に開業予定だ。メインアリーナ、サブアリーナの他、選手が使う練習場、スタッフが働くフロントオフィスも集約される計画だ。
メインアリーナには、2万人規模のNBAアリーナにも匹敵する大迫力のセンタービジョン、国内初となる2層のリボンビジョンが設置される予定で、「迫力を感じ取ってほしい」(林氏)と口にする。
特に自信を持つのが、ホスピタリティ空間の充実度だ。
例えば「プレーヤーズラウンジ」では飲食を楽しめるだけでなく、選手がロッカールームからコートへ向かう通路に隣接しており、「2m近くある選手の表情や迫力を間近で感じられる」(林氏)。試合後にはサインや写真撮影など選手との交流も行われる予定だ。
最上級の「プレミアムラウンジ」では、目の前でコックが調理するライブキッチンが併設され、高級ホテルのような食事と雰囲気が楽しめる。
「NBAの観客を見ていると、ほとんど試合は見ていないんですよね(笑)。第4クオーターの残り3分ぐらいで、あとはほとんど隣の人としゃべっていたり、お酒を飲んでいる。それでもいいと考えています。であれば、私たちもそういう楽しみ方ができる場所を用意しようと。ファミリーでも、スポーツに興味のない人でも、誰もが楽しめる空間をつくり込んでいます」(林氏)
将来的にはブランド力のある自主興行イベントの開催を
トヨタアリーナ東京を通じて、新しい観戦体験、新しい観戦文化をつくっていくと同時に、将来的には自主興行の開催を目指したいと林氏は語る。
「すでに多くの利用申込をいただいているのは本当にありがたいこと。ただ当然、自分たちでコントロールできるわけではないので、貸館だけでは事業として限界があります。自分たちだけで一から興行をつくるのは簡単ではないので、パートナー企業と一緒に始めることになると思いますが、『毎年トヨタアリーナ東京のこのイベントが盛り上がっているよね』といったブランド力のある興行をつくることができればいいですね」(林氏)
ららアリーナ 東京ベイ、トヨタアリーナ東京、両者に共通するのは、体験価値を極限まで高めて、「稼ぐ」ことができる設計思想が随所に盛り込まれていることだ。
スポーツビジネスにおいて、「稼ぐ」ことは極めて重要だ。収益をチームや施設に再投資することでその魅力は高まり、さらに多くの人々を惹き付けることができる。そうした好循環を生み出す第一歩こそ、これからの“夢のアリーナ”に求められている姿なのかもしれない。
カンファレンス・アーカイブ動画
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