スポーツ業界で働く方々に、これまでのキャリアと現職について伺う連載企画。今回はバスケットボールBリーグ2部西地区で昨シーズン初優勝を飾った香川ファイブアローズで、マーケティング担当として働く藤井直樹(ふじい・なおき)さん。一般企業へ就職後、第二新卒でプロスポーツクラブのフロントスタッフに転職したキャリアについて伺いました。(聞き手はHALF TIME編集部の横井良昭)
プロスポーツクラブは「最前線」
――2006年から高松ファイブアローズとしてbjリーグに参戦し、2016年には香川ファイブアローズにチーム名を変更、そして2021-22シーズンにはB2西地区で初優勝。県内外で多くの期待を背負うクラブですが、藤井さんのお仕事についてまず教えてください。
香川ファイブアローズのマーケティング部所属で、メインの業務はチケットセールスです。それ以外にもグッズ販売やファンクラブ、チケットセールスに関わるSNS・メルマガ運用などに携わっています。
入団した2019年は営業部でスポンサー営業を担当して、翌年からチケットセールスに関わるようになりました。3年目の現在はマーケティング部は自分を含めて2人。クラブ全体でもフロントスタッフは十数名と少ないチームなので、試合当日はチケット売り場に立って来場者の方の対応をしています。人数が少ないというのはスピーディーに連携がとれるという意味では利点ですが、イベントの開催前や団体が来場する試合前は業務量も多くなりますね。
――最初に藤井さんのことを知ったのはTwitterでした。フロントスタッフの立場から、積極的に情報発信されていますね。
ありがたいことにTwitterで反応をいただくこともありますし、前職の金沢武士団(Bリーグ3部)の時には、試合に来ていただいたファンの方から「初めてフロントスタッフの名前を覚えたのが藤井さんでした」と声をかけていただいたこともありました。ファンの方から良い意見も要望も伝えていただける距離感を作れたという意味では、非常に良かったと思います。
クラブで働く魅力は「最前線」にいること。自分たちがその現場で感じたことに加えて、このようにファンの方々と交流する中で思いついたアイデアを仕事の中で形にできるんです。
「自分が本当にやりたいこと」とは?
――それでは、これまでのキャリアについてお伺いしたいと思います。現職に至るまでの歩みを教えてください。
もともとスポーツが好きだったのですが、立命館大学 スポーツ健康科学部のスポーツマネジメントコースで学んだことでプロスポーツビジネスに興味を持ちました。当時、「将来はプロクラブで働きたい」と思っていましたが、新卒での就職活動ではクラブへの就職が叶わず一般企業に営業職として就職しました。
しかし、仕事をしている中で、ふと、「自分が本当にやりたいことって何だろう」と思う瞬間があったんです。やはり、プロスポーツビジネスの世界を諦め切れなかった。そこで、求人の有無に関わらずBリーグやプロ野球独立リーグ、卓球のTリーグなど様々なクラブに連絡をして、ご縁があって金沢武士団に入団することになりました。
金沢では一年間、スポンサー営業として働きました。そこで「地元を盛り上げるためにチームを大きくしていきたい」とう想いが強くなり、翌年に香川ファイブアローズに転職しました。実は知り合いが先にファイブアローズに転職することを聞いて、クラブに自分の熱意を伝えてもらったんです。すると、クラブから声をかけてもらって。
これまでを振り返ると、とにかく泥臭くキャリアを歩んできたなと思いますね。「社会人としての実績が無いから、チームに入ってすぐ活躍できる保証はない」「他の業界で力をつけてから入る方がいいのでは」とアドバイスをいただくこともありましたが、自分としては「業界に入って力を付けることがむしろ必要なのでは」と思います。
――転職にあたって「3年は我慢するべき」という声も多くあります。社会人一年目で転職を決意した決め手は。
前述のプロスポーツビジネスへの想いに加えて、転職を考えた2018年ごろは、まさにBリーグの草創期。一般企業で3年過ごしている間に、バスケットボール業界の状況は変わってしまいます。なので、自分の将来のキャリアを見据えた上でも、「今」のBリーグクラブで働くことが今後につながると思ったので、思い切って転職しました。
「評論家でなく実務家でありたい」
――スポーツマネジメント専攻の大学生活から、Bリーグクラブでの勤務。これまで経験した中で、現在に活きていることは何でしょうか?
とにかく「現場に立つ」ということですね。大学の夏休み、四国アイランドリーグplus(※プロ野球独立リーグ)のチームが近くで試合をする機会があり、運営のインターンとして参加しました。現場で試合を作り上げるだけでなく球団の代表のお話を聞くことができ、これをきっかけにスポーツクラブで働きたいという熱が一気に高まりました。
また、一社目で経験した営業職も今振り返るととても良い経験でした。正直に言うとなかなかハードな仕事でしたが(笑)、目標に対する執着心や、営業部として団結して仕事に取り組む大切さを学びました。あとは初対面の方に対しても積極的に話しかけること、相手が気持ちよく話してくれるためにはどうすれば良いかというコミュニケーションスキルを学びましたね。
こういった経験から、私は「評論家ではなく実務家であること」を大切にしています。現場の外から口を出すことは簡単ですが、現場に立つとうまく行かないことの方が多い。それでも、こうしたらもっと良くなるんじゃないかというアイデアを形にできる現場にいたいと思いますね。
「受け身でチャンスを待っているだけではいけない」
――スポーツ業界で働くことに興味があっても、なかなか機会がないという声も聞きます。どのようにチャンスを得ていけばいいのでしょうか?
TwitterなどSNSを駆使するのもひとつだと思います。現在ではえとみほさん(※江藤美帆氏/J2の栃木SCから地域リーグの南葛SCへの「移籍」も話題に)などフロントスタッフの方が情報発信をする機会が増えていますよね。日々追いかけるだけでも業界のことを知れますし、例えばDMを送ってみるなど自分から情報を手にしていく姿勢も大切だと思います。
自分もスポーツ業界への転職を考えていたときは、みんな「人のつながりで入っていく」というのを聞いていました。もしつながりがないなら無いなりのアプローチをしなければいけません。受け身でチャンスを待っているだけでは、状況は良くはなりませんから。
――今後スポーツ業界に入っていきたいと思う方々に、なにかメッセージはありますか。
いろいろな世界を見てほしいと思います。さまざまな競技や現場で感じたことは何かに取り組むときのヒントになりますし、自分の原点を振り返るきっかけにもなります。自分が心から楽しいと思ったり、心が動くものを突き詰めていく。好きなことに全力で取り組むということが、仕事にも活きてくるのではないかと思いますね。