【第1回】葦原一正が語る3年目のBリーグ「本当の勝負はここから」

「リーグ売上が10倍に」。2016年に開幕したプロバスケットボールリーグ、「Bリーグ」は、苦境に陥った日本バスケットボール界の救世主となっただけでなく、日本のスポーツビジネスに革命をもたらす存在としても大きな注目を集めている。著書、『稼ぐがすべて Bリーグこそ最強のビジネスモデルである』が話題の葦原一正氏は、Bリーグ常務理事・事務局長として、数々の施策を仕掛ける躍進の立役者だ。3年目のシーズンを終えたBリーグの現在地はどこにあるのか?葦原氏に話を聞いた。

全体的に「順調な滑り出し」 今後発展の鍵は「ライト層」

Kazumasa Ashihara
Japan Professional Basketball league
葦原 一正:公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ常務理事・事務局長。インタビューは2019年4月15日にBリーグの都内オフィスで行われた。

「目指すところはもっともっと高いところにあるので、ここからですね、本当の勝負は」 

バスケットボール界全体の苦境、“難産”を経ての船出で話題をさらった1年目、順調に売上を伸ばした2年目と、激動のシーズンを送ったBリーグ。3年目の今年は、リーグのスタート期の総括であると同時に、次のフェーズに向けての種蒔きの時期でもあった。 

「リーグとクラブを合わせた全体の売上はこの2年で約3倍に膨らみました。3年目の売上げは現在集計中ですが、単価も上がっているので、結果を楽しみに待ちたいと思います。入場者数、売上も『まずは順調な滑り出し』と評価しています」

「とはいえ、まだまだスタートしたにすぎません。今シーズンの入場者数は、B1で6ポイント程度の増加で、B2は昨シーズンとほぼ同水準でした。入場者数はこの3年で1.5倍強の増ですが、正直に言えば伸び率は落ちてきています。Jリーグの過去のデータを拝見すると、やはり3年目で大幅に入場者数は落ちています。男子の日本代表がワールドカップ、オリンピック出場権を獲得したという追い風もあるので、またエンジンをかけ直さないといけません」 

葦原氏は、リーグ誕生3年目までの総括を順調とした一方で、入場者数がある程度の「落ち着き」を見せていることに懸念を示しつつ、今後の施策をプランニングしていると言う。 

「ライト層を取り込まないといけませんよね。日本のプロスポーツは、これまで野球でもサッカーでも、比較的コアファンの回転率を上げるモデルで成り立ってきました。スタジアムはどうしても常連さんが多くなって、コアファンにしか分からないネーミングや専門用語が飛び交っています。運営スタッフも、ファンの人も、コアファンの目線でしか物事を見なくなってしまうんです」

「これは、コアファンのロイヤリティを高める上では有効な面もありますが、ライト層にとっては分かりにくいし、不親切ですよね。ファンを増やすという視点で見れば、どこかで行き詰まってしまいます。Bリーグでは、ライトな視点、従来とは全く違う視点を大切にしています。そうなると、リーグやクラブにそういう視点を持った人材がいないといけません」 

葦原氏自身、外資系コンサルティング会社やNPB球団幹部の経験はあるが、バスケットボールという競技に関しては門外漢だった。だからこそ見えてくるもの、競技にかかわらず共通する、スポーツビジネスの根幹につながる施策を打ち出せた。 

「これをやったら絶対ファンが増えるという施策は当然ありません。私もライトファンを獲得するために、この沿線に対象になりそうな人の人口が多いからここに中吊り広告を出してとか、データに基づくマーケティングを散々やってきましたけど、やっぱり来ないんですよ。そういうメカニズムで、人はスタジアムやアリーナに足を運んでくれないんです。正解がない中で、ただ一つ言っているのは、『誘い・誘われる』ということです」

鍵を握る共有体験:「誘い・誘われる」マーケティングの強化

Kazumasa Ashihara
Japan Professional Basketball league

ライト層を取り込む手段としてBリーグが実践する「誘い・誘われる」というキーワード。葦原氏は、誘い、誘われることで広がっていく拡散力は、口コミマーケティングとも違う、広がりがあると語る。 

「どんなに口コミが広がっても、情報量が増えるだけで実際に『行ってみよう』となるまでのハードルが高いんです。これは野球もサッカーも恐らく一緒ですが、そのクラブをなんとなく好きだなと思っているファンのコンバージョン率は、10%くらいなんですよ。ファンでも10人中9人は、アリーナに足を運んで生観戦するまでに至らないんです」

「その人たちに来てもらうためにどうするか? そもそもその人たちが、観戦デビューを果たした理由をデータから調べてみると、結局、会社の同僚、友達、家族に誘われてきたというのが一番多いんです。『選手がかっこいい』『フードが充実している』『応援の雰囲気を味わってみたかった』と、いろいろ理由は挙がるんですけど、『なぜ?』を突き詰めていくと、最後は誰かに『誘われたから』という答えが出てくる。興味を持ってもらえる土台を整え、『一緒に行こうよ』と誘う人をつくっていかないと、行動には繋がらないということなんです」

スタジアムに足を運んでもらうためにライト層へのアプローチが大切なのは言うまでもないが、「誘い・誘われ」マーケティングを成立させるためには、既にアリーナに足を運んでいるコアファンが、どうしたら「誘いたく」なるのかも重要。ライト層を増やすためにコアファンの分析をするというのが、葦原氏が注力する次のフェーズで入場者数を増やすための施策だ。

「KPIとして、1回当たりの購買枚数は大事だと思っています。リーグとしてできることの一つとしては、チケットを簡単に分配できる仕組みづくり。楽しさをシェアするという感覚と同時に、誘う友達のチケットを一緒に購入して、文字どおり簡単に“シェア”できる仕組みなど、そういった開発はどんどん進めていきたいと思います」 

3年目のレギュラーシーズンを終えたBリーグ。いい意味でも、悪い意味でも「定着」のフェーズに入ったリーグを、さらに成長させるために必要なものが葦原氏の目にはしっかり捉えられている。

Bリーグは最強のコミュニケーションツールである

Kazumasa Ashihara
Japan Professional Basketball league

「私は、スポーツの本質はコミュニケーションにあると思っているんです。『キャプテン翼』の主人公、大空翼は、ボール一つあればどんな国の誰とでも友達になってしまいますよね。結局、スポーツファンも熱くなれば、皆すごく仲良くなってしまうんです。スマホやネットで、世の中全体の会話が減っていると言われている中、それをきっかけにしてもいいんですが、最後はやはりリアルだと思うんです」 

きっかけや情報収集はネットでもいい。でもアリーナに来ればさらに広い世界が広がる。 

「最後はやっぱりリアルに来て欲しい。リアルコミュニケーションだよと。みんなで一つのゲームに一喜一憂して熱くなって、試合について語り合ったり。しかも言葉だけでなく、世界の人とも会話ができる。スポーツは、コミュニケーションツールとしてすごく優秀なんです」 

観戦からエンターテインメントへ。全面LEDコートやデジタルマーケティングの積極導入など、次々に斬新な施策を打ち出したBリーグは、エンターテインメントを人々のコミュニケーションに昇華すべく、さらなる発展を遂げようとしている。 

次回は、スポーツビジネスの次代を切り拓くBリーグが求める“人材”にスポットを当て、引き続き葦原氏に話を伺う。


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