元Jリーガーが小学生に語った「サッカーを長く楽しんでほしい」の真意。能登復興支援でツエーゲン金沢OBらがメッセージ

6月6日から7日に石川県羽咋市で開催された「能登復興支援サッカー大会」。県内12チーム・約150名の小学生が参加したこの大会において、ボルシア・ドルトムントのサッカークリニックと共にこのイベントを特別なものにしたのが、元Jリーガーによるトークショーだった。

元プロサッカー選手、世代別の日本代表は、小学生に何を語ったのか? 登壇者が口を揃えた「サッカーを長く楽しんでほしい」の真意とは?現地からお届けする。(前後編の後編/前編から読む)

元Jリーガーが語った「12歳の頃の自分」

トークショーのMCを務めたのは、サッカー大会の運営も担った株式会社Bloom Visionの代表で元Jリーガー、世代別の日本代表経験もある幸野志有人氏(元FC東京〜V・ファーレン長崎等)。ゲストは、やはり元Jリーガーでツエーゲン金沢でプレーした辻尾真二氏と、阿渡真也氏だ(現在はどちらもクラブスタッフとして勤務)。

「12歳の頃、自分が将来プロになると思っていましたか?」

トークセッションは、この問いかけからスタートした。意外にも、辻尾氏と阿渡氏の答えは「ノー」。辻尾氏は「特別強いチームでもなかったし、なれるとは思っていませんでした。それでも『なりたい』という夢だけは消えなかった」と証言。

阿渡氏は「横浜F・マリノスのジュニアチームに20対0で負けたこともあって、プロは無理だと思う瞬間は何度もありました」と振り返る。一方の幸野氏は「僕は逆に、自分が一番上手いと思っていました。まあ、世間を知らなかっただけなんですけど」と笑いを誘いながら、夢を諦めないことの大切さを説いていった。

辻尾真二氏。大阪府出身、小学生年代では青英学園サッカークラブ(堺市)でプレーし、初芝橋本高校(和歌山)〜中央大学へ進みU-19・U-22日本代表。清水エスパルスでプロデビューの後、ツエーゲン金沢には2014年〜16年に所属。18年にSC相模原でプロキャリアを終え、19年よりツエーゲン金沢でクラブアンバサダーと法人営業を兼務している。

次のテーマは「今日からできる習慣」。ここでも体験談は三者三様だった。

「今みたいにYouTubeがあったわけではないので、壁に向かってボールを蹴ったり、友達がやっているリフティングを真似したりとか、そんな感じでしたね(辻尾氏)」。「僕の場合も、雑誌に載っているテクニックを解説した写真とかを見たり、あとはビデオを何度も見たりしていました(幸野氏)」。

「僕が6年生のときに兄は高校1年で、1対1をやってもほぼ勝てない。それでも、どうやって勝つかを常に考えて挑んで負けての繰り返しでした。中学からは人にボールを蹴ってもらって、ひたすらヘディングする自主練も毎日やっていました(阿渡氏)」

阿渡真也氏。神奈川県出身、小学生年代では城北ファイターズ(横須賀市)でプレーし、鹿島学園高校(茨城県)〜明治大を経て2013年ツエーゲン金沢に入団。その後、藤枝MYFC、ラインメール青森FC、ヴェロスクロノス都農を経て24年現役引退。25年からツエーゲン金沢のフロントスタッフとして勤務している。

「サッカーノート」と、練習を続けることの大切さ

3つ目の話題は「サッカーノート」。辻尾氏は「自分の練習や試合を振り返って、ノートに書いたりするのはすごく大事だと思うので、やったほうがいいかなと思います。書くというのは大事で頭にも残るし、イメージも残る。1年後に振り返って『自分はこんなことで悩んでたんだな』と、また振り返れたりもする。僕は高校くらいから始めたんですけど、小学校からしっかり書くって結構大事なことだと思います」と語る。

阿渡氏も「賛成ですね。僕の場合は今、仕事でも日報を書いているんです。大人になってもやっていることだし、サッカーノートはすごく良い取り組みだと思います」と記録をつけることの大切さを解説。MCの幸野氏は「僕もやっておけばよかったなと思いますね。サッカーってがむしゃらに練習するのも大事なんだけど、考えることもすごく大事で。今日のことも、寝る前に友達同士で話し合ったりしてみてほしいと思います」と呼びかけた。

元Jリーガーの話に目を輝かせる子どもたち

トークショーは、子どもの頃に憧れた選手の話題(辻尾氏と阿渡氏は三浦知良選手、幸野氏はロナウジーニョとリケルメ)やさまざまな体験談を経て、質問コーナーに突入。特に盛り上がったのは「プロでも、キックを失敗することはありますか?」という質問が飛んだときだった。

辻尾氏曰く、「クロスもキックも何度練習してもしすぎることはない。いろんな蹴り方で、いろんなボールを蹴ってみる。それが武器になる」。幸野氏はFC東京時代の経験をもとに「名手と言われる選手こそ地道な練習を重ねている」と振り返った。

阿渡氏はユニークな練習法を明かした。「パスを受けてくれる相手を『ちょっと怖めの先輩』にするんです。仲の良い選手だと失敗しても『いいよ』で終わってしまいますが、先輩が相手だと試合と同じ緊張感で練習できますから(笑)」。

MCを務めた幸野志有人氏(左)。東京都出身、小学生年代ではFRIENDLYーSC(江戸川区)でプレーし、JFAアカデミー福島を経て16歳でFC東京とプロ契約。U-16/17からU-21まで各世代で日本代表。V・ファーレン長崎ほか国内クラブだけでなくドイツでのプレー経験もある。現在、株式会社Bloom Vision 代表取締役CEO。

子どもたちの将来の夢は「Jリーガー」大きな刺激に

和気あいあいとしたやり取りが続く中、約30分のトークショーはあっという間に終了。チームメイトと興奮した口調で話す子どももいれば、聞いた話を一生懸命ノートに書き留める子もいるなど、一様に大きな刺激を受けたことがうかがえる。

中能登FCの少年は「試合も楽しかったですし、プロで活躍していた選手にお話を聞けたのも、すごくいい機会になりました。今はチームで個人技を伸ばすことに取り組んでいるので、参考にさせてもらおうと思います」と抱負を語る。

セブン湖北ジュニアの少年は「将来は Jリーガーになるのが夢なので、もっと練習して、チームのために頑張りたいです。(ボルシア・ドルトムントによる)サッカークリニックでも指導してもらえましたし、いつもと違うチームメイトと一緒に練習できて楽しかったです」と振り返った。

「今日の話は自分のためになりました」と、セブン湖北ジュニアの少年たち。

子どもたちに伝えたかった「本当のこと」

さらにトークショーを終えたばかりの3氏に、今回のイベントの総括も兼ねて、改めて話を聞いた。

左から)幸野志有人氏、辻尾真二氏、阿渡真也氏

――まずはトークショーを終えられた感想はいかがですか?

幸野氏:今日は朝からずっと手伝わせていただいたのですが、純真無垢な子どもたちだなと感じました。トークショーでも本当に素直に反応してくれて内心ほっとしました。一つでも明日のプレーにつながるとか、心に残るような、学びになる時間にできればと思っていたので、その手応えがあったのも嬉しかったです。

辻尾氏:普段は練習場所を探すのも大変なだけに、こうして思い切りサッカーができて、仲間と泊まりがけで過ごせるのは、特別な思い出になるはずです。普段は別々のチームで戦う仲間と交流できるのも貴重な出来事ですし、子どもたちは何かのきっかけで急に上手くなったりすることもある。今回のイベントを、そんなきっかけにしてもらえたらと思います。

阿渡氏:子どもたちの笑顔が見られたのが一番でした。僕自身も元気をもらいました。自分が子どもの頃にはこんな経験はできなかった。子どもたちにとっては、もっと良いプレーができるようになる大きなチャンスになったと思います。こういう機会をつくってくれた幸野さんにも、感謝しています。

――今日のトークショーで、子どもたちに伝えようとされたことは?

幸野氏:サッカーを楽しむことの大切さですね。僕はプロになることが一番重要だとは思っていません。むしろ長くサッカーに親しんでほしいんです。そのためには、上手くなった方が絶対に楽しいですし、自分の頭を使って考えることが大事になる。そのことを今日のトークショーで、少しでも伝えられればと思っていました。

辻尾氏:プロになれたのは一つの結果にすぎません。僕は今もサッカー界にいますが、仕事の内容は直接サッカーに関わるものだけではありません。それでも、小さい頃からサッカーに一生懸命取り組む中で培ったものが、仕事で役立つことがたくさんある。だから子どもたちにも、サッカーを一生懸命やってほしい。その経験は、どんな道に進んでも必ず役立ちますから。

阿渡氏:サッカーで身についたものが、今の仕事でもすごく活かされているというのは同感です。たとえば仲間と一緒にチームを組んで目標を達成していくことは、そのまま仕事にも通じるんです。だからこそ、周りの仲間を大切にして楽しくサッカーを続けていってほしいですね。

能登の記憶を風化させないための取り組み

――今回のイベントは能登の復興支援としても意義深いものだったと思います。感想と今後の目標を改めて教えてください。

幸野氏:今回は、能登の復興支援が最大のテーマでした。その意味で、少しは貢献できたのではと思っています。ただし1回やって終わりでは意味がない。ずっと続いていくものにしたいですし、今回見えてきた課題を一つひとつ解決しながら、次につなげていきたいですね。

辻尾氏:震災から2年半が経ちましたが、能登にはまだ復興できていないところもあります。震災を風化させないという意味で、こうした大会が開かれるのはありがたい。石川県に住む人間の一人として、これからも皆さんと一体になって、復興を進めていければと考えています。

阿渡氏:以前、東京の方にお会いしたとき、『最近はニュースで能登のことが報じられる機会が少なくなった』と聞きました。求められているのは、やはり多くの方にもう一度、目を向けていただくことだと思います。ツエーゲン金沢はSCOグループさんとパートナーを組ませていただいていますので、復興の一環としてさまざまな活動に共に取り組んでいきたいと思っています。

「能登復興支援サッカー大会」は、株式会社SCOグループが冠スポンサーとして後援のもと、能登復興支援サッカー大会実行委員会が主催し、ツエーゲン金沢、プレミアリーグU-11が協力。今年初開催のイベントは、来年以降も引き続き能登での開催が目されている。

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