2026年6月6日と7日の2日間、石川県羽咋市で「能登復興支援サッカー大会」が開催された。県内12クラブが参加する小学生年代の大会で、優勝チームにはU-11の全国大会への出場権や、ツエーゲン金沢vsガンバ大阪のスペシャルマッチへの招待が贈られるというもの。
さらには大会期間中、ドイツ名門クラブのボルシア・ドルトムントによるサッカークリニックや元Jリーガーによるトークショーも開催されるなど特別な内容に。前編となる本稿では大会の開催意義とドルトムントによるクリニックについて、現地からお届けする。(前後編の前編/後編を読む)
能登から宮城・女川へ。“復興の希望”をつなぐ大会
「子どもたちの笑顔を見るだけで、本当に実現できてよかったと感じています。ドルトムントとパートナーシップを結んで以来、さまざまな協働を重ねてきましたが、今回のイベントは一つ、大きな形が作れたという実績になると思います」
こう語るのは、大会の企画を進めてきた株式会社SCOグループ常務取締役の小出俊輔氏だ。
ドイツの名門クラブ、ボルシア・ドルトムントと戦略的パートナーシップを結ぶ同社は、早い段階から能登復興支援の計画を練り始めていたが、もっとも苦労したのは「地域との接点」を確保することだったという。「私たちにはビジョンと情熱がありますが、大会は現場を知る方々の協力なしには実現できません。地元の関係者の方々、幸野健一さん、そしてツエーゲン金沢さんには大変お世話になりました」(小出氏)。

2015年の創設以来、全国39都道府県・約1.1万人が参加する日本最大級の育成年代リーグ「プレミアリーグU-11」を運営してきた幸野健一氏は、SCOグループが同リーグの冠スポンサーに名を連ねた縁で、このイベントにも関わる形になった。
「今大会の優勝チームには、プレミアリーグU-11のチャンピオンシップ(全国大会)への出場権が与えられます。舞台となるのは宮城県の女川町。女川も東日本大震災から復興した街ですから、“復興の希望をつなぐ”という願いも込めています」(幸野氏)
さらにこの大会には、プレミアリーグU-11の特徴的なポリシーも反映されていた。1試合を3つのピリオドに分け、全員が必ず出場できるようにする仕組みだ。
「サッカーをやる以上、やはり誰もが試合に出てみたい。ましてやこの年代ではプレーする楽しさを味わうことが何より重要になります。そもそもサッカーはみんなで楽しむスポーツですから、本当の意味で全員が参加するという方針は、この大会でも踏襲させていただきました」(幸野氏)

ドルトムントのサッカークリニックを特別開催
初日、12チームによる試合は朝9時から午後3時すぎまで実施。その合間には、ドルトムントによるサッカークリニックが開催された。指導を行ったのは日本国内のみならず、タイ・香港・中国といったドルトムント・サッカーアカデミーのある海外拠点からそれぞれ駆けつけたコーチ4名である。
「おっきいなあ」「かっこいい」「本物だ!」。彼らが姿を見せた瞬間から、子どもたちは大はしゃぎで周りに駆け寄っていった。ふと気がつけば、記念写真を求める長い列ができていた場面もあった。

12時から1時間にわたって行われたクリニックでは、会場を3つのコートに分割して「ドリブル&パスチャレンジ」「ムービングパスゲーム」「5対5のトーナメントゲーム」のメニューが用意されていた。
約150人の子どもたちは、最初こそ新しい練習メニューに少々戸惑っていたものの、すぐに目を輝かせながら、夢中でボールを追うようになっていった。指導にあたったコーチの一人、ケイナン・ディズダレヴィッチ氏は、その思いを語ってくれた。
「まずボルシア・ドルトムントを代表して、ここに来させていただいたことに心から感謝します。私たちはこの地で2024年に起きた災害を決して忘れてはいけません。今日はたくさんの笑顔が見られましたし、クリニックの開催を通して復興をサポートできることを大変光栄に思います。
今回のクリニックは150人と大人数でしたし、言葉の壁もあったのでメニューを普段とは変えましたが、『FOOTBALL(サッカー)』『PHYSICAL LITERACY(体を動かす力)』『LIFE SKILLS(日々に役立つ力)』を学ぶというコンセプトは変わりません。できるだけ多くボールに触れるようにする方針も徹底しました」(ディズダレヴィッチ氏)

弾ける笑顔、そして保護者たちの実感
クリニック終了後、中能登FCの少女は「いつもの練習と違って楽しかった。『1、2、3、4』の掛け声で向きを変える練習はやったことがなかったけど、最後はできるようになって嬉しかった」と声を弾ませた。「上手くなれそうって感じました! 僕はプロになりたいんで、これからも練習頑張ります」と、白い歯をのぞかせたのは志賀町の少年である。

ピッチ脇で見守っていた保護者やコーチたちも晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
「最初に子どもから話を聞いたときは『嘘やろ』と思いました。こんな本格的なクリニックを受けられる機会なんてまずないし、今回の大会で優勝したチームが全国大会に行ける機会を与えてもらえることにも感動しました。このあたりも少し行けば、入口に赤いテープが貼られているような家(震災で入れなくなった家)が多い。こうして地域全体が元気になるイベントは、本当にありがたいです」(内灘FC・保護者)

「能登ではサッカーをするのが難しい状況が続いています。小学校の校庭や公園には仮設住宅が建ち、運動できる場所さえ限られています。また震災の影響もあり、全校児童が15人ほどに減ってしまったような学校もあります。そんな状況の中、子どもたちは久々にサッカーを思い切り楽しんだし、ほかのチームとまざって、ドルトムントのコーチから指導を受けることもできた。みんなの顔を見ていると、こちらまで嬉しくなります」(珠洲エスペランサFC・コーチ)
「ドルトムントは、あの香川選手がいたチームでしょ? 本物が来るなんて、と半信半疑でしたけど、子どももすごく喜んで。それにSCOさんが歯磨きを勧めてくれるのも嬉しいですね。普段は寝る前に、パパッと済ませて終わりですから(笑)。親としては、こういうきっかけを作ってもらえるのも助かります」(志賀町サッカースポーツ少年団・保護者)

「能登への関心を維持して、次につなげていく」
会場には株式会社SCOグループの会長兼社長である玉井雄介氏も顔をのぞかせていた。同社は、オーラルケア(口腔ケア)を入り口に、人々が自分の体と健康に目を向けるきっかけづくりを精力的に展開。ドルトムントとのパートナーシップ、「プレミアリーグU-11」への協賛、そして復興支援などの取り組みは、スポーツを通じた地域活性化や生きがいづくりという社会的意義も担っている。
「去年も遅ればせながら能登を訪れて、復興のために何かしたいと思っていましたので、やっと実現できて感無量です。私たちは実際に被災したわけではありませんので、地元の方に元気になっていただくなどというのは、おこがましい話かもしれません。それでもスポーツを通して、子どもたちや保護者の皆さんが明るい気持ちになれるのであれば素直に嬉しい。地元の方々、ドルトムントのアカデミー関係者、コーチの皆さんには、感謝しかありません」(玉井氏)

今回の復興支援イベント開催は、昨年12月に結ばれたSCOグループとドルトムントの戦略的パートナーシップにおいて、記念すべきマイルストーンとなった。地元の子どもたちや保護者、サッカークラブの関係者にとっても、「夢のような出来事」として記憶に残り続けるはずだ。
ただし玉井氏が強調したのは、サッカーのピッチを離れた地域コミュニティ、ひいては日本国内の他の地域へも、継続的な影響を及ぼしていくことの大切さだった。
「本当に大事なのはここから。小さな取り組みを続けて能登に対する世間の関心を維持し、次につなげていくことが重要だと思います。また私自身は、能登がサッカーを通して復興していくだけでなく、日本の他の地域にとってのロールモデルになってくれればとも思っています。
もともとドルトムントという地域にはサッカー文化が深く根付いていて、サッカーを軸に家族や地域がしっかり結びついている。現地の人からは『ドルトムントの子どもたちには反抗期がないんです』という説明も受けました。こういう世界観、家族や地域、街全体がスポーツを通して結びつく環境を、日本のさまざまな地域で育んでいければと考えています」(玉井氏)。

SCOグループが挑む「地域活性化」と「健康づくり」
今回のイベントで注目されたのは、サッカー大会やドルトムントによるクリニックだけではない。SCOグループは、本格的な歯科の検診や治療ができる車両「モバイルオーラルケアクリニック」まで手配した。
子どもたちは試合の合間を縫って説明を聞き、SCOグループとドルトムントが共同で制作したノベルティグッズ(クラブのロゴの付いた歯ブラシと、歯磨きの仕方がひと目で分かるイラストのセット)まで受け取っている。

スポーツを通した地域活性化と健康づくり。SCOグループの挑戦はさらに加速している。
「健康づくりも引き続きサポートしていくつもりです。体のケアは、まず口腔内から始まりますが、日本では歯医者や診療所の減少が深刻な問題になってきている。そのような地域では、モバイルオーラルケアクリニックのような、巡回型の車両がお役に立てる場面もあるはずです。
むろん鍵を握るのは人と人との交流、関係性をいかに育んでいくかです。だからこそ、こういう車両なども使いながら、地元の人々の健康づくりや地域活性化に微力ながらも貢献していきたい。今回のイベントを、今後さまざまな取り組みを加速させていく足がかりにしたいですね」(玉井氏)

〈後編〉では、2日間にわたる大会の中で初日夜に特別開催された、元Jリーガー・世代別日本代表によるトークショーの様子を紹介。「どうしたらプロサッカー選手になれるか」「小学生の時にしておくべきこと」など、金言が満載だ。
Sponsored:SCOグループ
