北海道の人と企業をつなぐプラットフォームを通し、地域全体での価値創出を目指すリージョナルマーケティング。北海道札幌市に本社を置くドラッグストアチェーンのサツドラホールディングスを母体に、コミュニティやメディア事業、共通ポイントカード「EZOCA」を展開する同社において、ビジネスを飛躍させるきっかけの一つが「スポーツ」だった。「地域での仲間作り」をコンセプトに、北海道ならではのスポーツ活用を行う富山浩樹代表取締役に話を伺った。
前回インタビュー:【前編】北海道の「地域の価値」創出へ、スポーツの影響力も実感――リージョナルマーケティング代表取締役 富山浩樹氏
スポーツ活用のEZOCA 「北海道コンサドーレ札幌はブレイクスルー」
地域に根付く共通ポイントカード「EZOCA」にとって、地元で愛されるスポーツチームとの関わりは欠かせない。富山氏も「EZO CLUB構想を掲げた時からスポーツと関わりたいという話がありました」と語る。
スポーツとEZOCAのコラボレーションは北海道コンサドーレ札幌から始まった。当時クラブがまだJ2に在籍していた2015年、富山氏が着目したのは、クラブとサポーターのユニークな関係性だった。
「北海道コンサドーレ札幌がJ2で苦しい戦いを強いられる中でも、サポーター達はスポンサー企業への感謝の気持ちを込めた横断幕を掲げていたんです」
その後、単純にサツドラの広告を出すスポンサー契約ではなく、お互いにとってのビジネス上のWIN-WINな関係を模索し始めたことで、パートナーシップの話は大きく前進した。
「コンサドーレの悩みは何ですかとディスカッションをしていた時に、コアなサポーターはいるけれどもJリーグでサポーター平均年齢が最も高いのがコンサドーレであるという話になりました。(現在のサポーターの平均年齢は)20年前のリーグ創設時から応援してきたサポーターが中心で、50代となっていました。もっと広く若い人達にも応援してもらえるチームになりたいという思いを(コンサドーレは)持っていました」
立ち上げから月日が経っていないEZOCAにとっても、一緒に新たなユーザーを作っていく取り組みは魅力的だった。これによって、コンサドーレ札幌と共に、お互いの課題を解決していくことを目指して「EZOCAコンサドーレ サポートプログラム」が誕生した。プログラムに参加する店舗での買い物に際し、EZOCAを利用した支払い額の0.5%がコンサドーレ札幌に還元される仕組みだ。ライトなサポーターが、毎日の生活の中でチームをサポートできるのが狙いだ。
「(コンサドーレには)ファンクラブはありましたが、コアなサポーターがお金を出して入るのではなくて、(サポートプログラムは)日常からライトに参加できる。試合に行かなくてもコンサドーレとつながって、応援しているという感覚を生み出しました。連携している企業とサポーターの間にもコミュニティが形成され、感情が乗ったようなポイントとなっていきます」
富山氏は「北海道札幌コンサドーレとの取り組みはEZOCAにとってはブレイクスルーのポイントでした」と、その価値について語る。EZOCAコンサドーレ サポートプログラムへの加入者は、1年足らずで北海道コンサドーレ札幌のファンクラブ会員数を上回ることとなる。
単なるスポンサーではなく、ビジネス成長のドライバーに
サツドラとEZOCAの主要顧客である20代から40代の女性層や、子どもを持つママを含めたファミリー層は、女性・ファミリー層を取り込みたいコンサドーレ札幌との思惑が一致。サポートプログラムは、お互いにとっての相乗効果を生み、反響も大きい。
「(リージョナルマーケティングのような)企業側にとっても、単なるスポンサーではなく、ビジネスのツールになれたと思います」と富山氏は語る。
今では、北海道コンサドーレ札幌とも一緒にアイディアを出し合う間柄になった。露出だけを目指す単なるスポンサーと違い、コンサドーレの営業や事務の担当者と一緒に作り上げる関係性だ。
「企業とのコミュニティで、顔が見えるもの同士でお客様を増やし、ビジネスにつなげていくことはEZOCAの目指していたこと。今ではどちらの営業マンか分からないぐらい(北海道コンサドーレ札幌と)一緒に、お互いに営業をしています(笑)。北海道コンサドーレ札幌はJ1にも昇格し、ここまで本当に一緒に取り組むことが出来たと思っています」
北海道コンサドーレ札幌との取り組みに手応えも感じ、2、3年が経過した頃、バスケットボールのBリーグのクラブであるレバンガ北海道からも興味を得て、同様にサポートプログラムに取り組むようになった。現在プログラムは商店街などにも広がり、「これをもっと仕組み化していく構想がある」と富山氏は語る。ポイントやトークンのお得感や利便性と、スポーツの感情や熱量は相乗効果を生む。
「エンゲージメントを分かりやすく高めることが出来るのが“スポーツの力”。北海道コンサドーレ札幌との取り組みを通し、スポーツはシンプルに応援するというベクトルが凄くあると感じました」
「EZOCAマガジンでもコンサドーレのページは毎号載せていますが、選手はあまり出なくて、(クラブを)応援している人の応援をしている特集が多いです。選手のことは他のメディアでも取り上げられますが、私たちの役割はコミュニティを応援することですから」
さらには、北海道コンサドーレ札幌のスポンサー同士や、EZOCAコンサドーレサポートプログラムに関わる企業同士の連携が活発になり、コミュニティ化しているという。過去5年、サッポロビールとEZOCAのコラボ商品「サッポロクラシック EZOCA コンサドーレ応援缶」を販売し、SNSでのキャンペーンでも協業する。限定デザインということもあり、チームが試合で勝利する度にこのビールで乾杯することを恒例とするファンも出始めてきた。
企業と地域を巻き込んで取り組む北海道のスポーツ球団
北海道コンサドーレ札幌にも勝てない時期はあり、レバンガ北海道も苦しいシーズンが続く。
北海道コンサドーレ札幌は、元選手の野々村芳和氏が社長に就任以降、地域との共有を重要視してきた。従来のスポーツチームのように「目指すのは優勝」と掲げるのではなく、選手補強の費用と順位の相関性を可視化し、その方程式と実際のチーム順位のギャップがサポーターにもたらされた価値と話すなど、サポーターを上手く巻き込む。富山氏が「単純に強い、弱いではなく色んなことを共有していくことは重要」と言うように、クラブが企業とファンを惹きつける方法が示唆されている。
レバンガ北海道も、2018-19年シーズンは10勝50敗と苦しいシーズンを送った。それでも観客動員数はBリーグ4位。競技成績が芳しくないのは、選手強化よりも債務超過の解消やチームのPRを重視したのが一因だが、観客動員数に示されるサポーターや地域の支持がある限り、スポンサー企業にとっても魅力があると言える。
「(パートナーとして)関わっていく中で、企業を巻き込んで一緒にコミュニティを作っていくのは、スポーツビジネスにおいて重要だと感じます」と富山氏はパートナー企業の視点を提供する。
北海道を本拠地とする他のスポーツチームとも「一緒に作っていく」取り組みも検討しているという。北海道中のスポーツにビジネスが入り込み、お金がないと課題を抱えるスポーツチームや個人を支えていく「ハブのような存在になれたら良い」と構想を語る。
“間”に入るリージョナルマーケティング特有の事業。競合と戦うビジネスではなく、一緒に地域を盛り上げる仕組みを作っていく。スポーツ界に充満する「稼ぐことに対するネガティブさ」を取り除き、地域が稼ぐためにもスポーツを活用していく。
北海道を拠点にしながら、社名に北海道を付けず「リージョナル」とした所以も、将来的にこの地域が稼ぐ仕組みを、日本全国の様々な場所へ展開していく構想があったからだという。実際に、2018年には琉球にも地域プラットフォームを作る。今後他の地域に展開していく場合も「スポーツはフックになる」と富山氏はいう。
コンセプトは「地域をつなぎ、日本を未来へ」
サツドラグループは新たに、「地域をつなぎ、日本を未来へ。」というコンセプトを打ち出した。
テクノロジーの進化やグローバル化の進行で、東京一極集中ではなく、地方や地域が直接海外に対して魅力を発信し、グローバルに稼ぐという新たな仕組み作りが始まっている。日本の各地では人口減少などの地域課題も多いが、スポーツはこれを解決するコンテンツにもなり得る。
人がどのように時間を使い、つながり、楽しむのかという点が重要視される昨今、スポーツを含めたエンターテイメントの価値が改めて評価される中、世界に誇る雪質を持ち、ウィンタースポーツも盛んな北海道は、グローバル市場でも成長する可能性があると富山氏は高く評価する。
「スポーツを通じてグローバルにつながるチャンスがあり、北海道の魅力をPRすることで、今後その効果も出てくるはずです」
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地域の価値創出を目指すリージョナルマーケティングと、地域に活力を与えながら、世界共通言語でもあるスポーツとの相性は抜群だ。サツドラグループが掲げる「地域をつなぎ、日本を未来へ。」を実現するに向け、今後北海道以外の地域へと展開を目指すリージョナルマーケティングが、どのように各地でスポーツを活用し、未来を描いていくのか楽しみだ。
(記載のない限り写真=株式会社リージョナルマーケティング)