ドジャース、Jリーグ、F1、プロ野球…なぜサンリオはスポーツ事業を強化するのか? 狙うは「新領域への挑戦」

「ハローキティ」をはじめ世界中で愛されるIP(知的財産)を保有する株式会社サンリオ(以下、サンリオ)が、近年スポーツ界との関わりを強めている。米大リーグ ロサンゼルス・ドジャースの山本由伸投手が同チームのユニフォームを着たサンリオのキャラクターとコラボした動画は大きな話題を呼んだ。

一見、遠い存在のようにみえる両者だが、なぜサンリオはスポーツ事業に積極的に取り組んでいるのか。同社執行役員 デジタルメディア&スポーツライセンス本部 兼 グローバル戦略室の山本太郎氏が、都内で開催されたスポーツビジネスカンファレンス「HALF TIMEカンファレンス2025 Vol.2 supported by アビームコンサルティング」で、その狙いを語った。

サンリオが大切にする企業理念「みんななかよく」

「企業理念に『みんななかよく』を掲げる企業は、ほかにあまり例がありません。ビジョンに『One World, Connecting Smiles.』という言葉があるように、一人でも多くの人を笑顔にして世界中に幸せの輪を広げていきたい。そういう思いで事業を展開しています」

サンリオで映像、ゲーム、スポーツ分野のライセンス事業、ならびに海外子会社の経営サポートに携わる山本太郎氏は、サンリオが大切にしている不変の信条をそう語る。

ハローキティ、マイメロディ、シナモロール、ポムポムプリン……サンリオには実に450を超えるキャラクターが存在し、「それぞれが優しさや思いやりを体現しながら、人々に寄り添うキャラクターとして、3世代、4世代に愛されています」(山本氏)。

同社では現在、商品化や広告・販売促進にサンリオキャラクターの活用を許諾するライセンス事業と、自社開発キャラクター商品・ライセンス商品を販売する物販事業の2事業があり、全体の収益の約9割を占めている。

特にライセンス事業が北米を中心に急成長し、物販事業もインバウンド需要を取り込んで好調を継続。2025年3月期の決算では過去最高収益を更新し、今年度もさらなる増収増益を見込んでいる。

ハローキティはいわずもがなサンリオを代表するキャラクター

サンリオがスポーツ事業を強化する2つの背景

足元の業績が好調な中、なぜスポーツ事業の取り組みを強化するのか?それには大きく2つの背景がある。

1つが、今年5月発表の『10年間の長期ビジョン』で掲げられた「グローバルIPプラットフォーマーへの挑戦」だ。

これまでのようなライセンス・物販といった“グッズ中心”の事業だけではなく、サンリオのIPとの接点をさまざまに作り出すことで、生活の中でサンリオと接する時間を増やしていくことを目指す。人々の「サンリオ時間」が増えればロイヤルティが高まり、結果としてライセンスの価値のさらなる増大に還元される。その接点づくりに、映像、ゲーム、デジタル、教育、そしてスポーツを活用しようとしているわけだ。

もう1つの背景が、人々のエンタメ消費時間の動向だ。米国労働統計局の調査によれば、アメリカ人のエンタメ消費時間は1日平均5.2時間あり、そのうち映像視聴(テレビ・動画)が約半分の2.7時間を占め、スポーツ(観戦+参加)が2番目に多い0.7時間という結果が出ているという。スポーツとの接点を作ることは、より人々がサンリオに触れる機会を創出することにつながり、これは「おそらく世界中でほとんど変わらない」と、山本氏は見ている。

株式会社サンリオ 執行役員 デジタルメディア&スポーツライセンス本部 兼 グローバル戦略室(グローバル顧客対応・地域間調整担当) 山本太郎氏

これまでも各部署が個別にスポーツと関わるケースはあったものの、今後はより体系的にスポーツ事業に取り組むことで、サンリオファンのエンゲージメントを深めると同時に、新たにスポーツファンを取り込むことを狙いとしている。

具体的には、①実体験によるエンゲージメントの深化②パートナーシップによるビジネス創造③新規領域への挑戦という3つの軸で展開を始めている。

ドジャース、F1、Jリーグ、プロ野球と次々コラボ

①エンゲージメント深化の取り組みの1つが、ロサンゼルス・ドジャースとのコラボイベント「Hello Kitty and Friends Night」だ。上述の山本投手の動画のほか、デーブ・ロバーツ監督が厳粛な表情で国歌斉唱に臨む背後で、ハローキティ、マイメロディ、クロミの3キャラクターもまた胸に手を当て整列している姿が、ドジャース、サンリオ双方のファンから反響を呼んだ。また、来場者プレゼントのバッグやコラボフード・ドリンクも大きな話題となり、ファミリー層の来場が大幅に増加した。

F1アカデミー(女性ドライバー限定の育成レースシリーズ)とはラスベガスでのシーズン最終戦でコラボした。コラボレーショングッズの展開だけでなく、ラスベガスで運営する「ハローキティ・カフェ」ではアクティベーションイベントを行ったり、サーキットのパドック内ではハローキティがドライバーと一緒にサイン会やミート&グリートに参加するなどし、特に多くの女性ファン来場につながった。

②パートナーシップによるビジネス創造については、Jリーグと協働した「フェアプレーリボンプロジェクト」がある。サンリオの企業理念「みんななかよく」とJリーグが大切にする「フェアプレー精神」に親和性があることから立ち上げられ、試合会場でキックオフ前にハローキティが登場するフェアプレー映像が流れたり、コラボグッズが販売されたりした。フェアプレー精神を啓蒙するといった新たなビジネス機会を創出した事例といえる。

③新規領域への挑戦では、NPBエンタープライズ、ソニー、サンリオの3社協業プロジェクト「Let’s Play Baseball ~サンリオキャラクターズとふしぎな試合~」が注目だ。

ソニーのトラッキング技術「ホークアイ」で取得したデータを基に、実際にプロ野球で行われた試合をサンリオのキャラクターによるアニメで再現。従来の野球ファン以外にも野球の面白さを伝えると同時に、「新しい形の家族時間を提供することにもつながっている」と山本氏は話す。

さらには、「アニメの中にデジタルのフィールドができあがっているので、新しい広告を生むことも、このコンテンツ自体を映像プラットフォーマーに販売することも考えられる」と山本氏は語る。野球以外の競技への応用も考えられ、可能性は無限大だといえるだろう。

※本動画は2026年3月末までの期間限定公開

IP×スポーツは協賛の魅力を高め、企業に大きなメリットをもたらす

本セッションでモデレーターを務めた、アビームコンサルティング株式会社 顧客価値戦略ユニット Sports & Entertainment 執行役員 プリンシパルの久保田圭一氏は、IP×スポーツの可能性をこう語る。

「少子高齢化と内需縮小が進み、グローバルも含めた市場開拓、新たな市場創出が欠かせません。そうした中で、IPとスポーツの掛け合わせには大きなメリットがあります。日本のIPには独自の世界観で人を引き付ける力が強く、グローバルにファンベースを持っている。一方、スポーツ団体は興行でリアルな体験を提供し、地域密着といった独自の強みを持っています。

 つまり、IP側もスポーツ側も双方のファンを取り込むことができ、顧客開拓やプロモーションに課題を持つ企業にとってはIP とスポーツの両方のコンテンツを活用したアクティベーションが可能になる。つまり協賛の魅力が高まるわけです。

 政府がコンテンツ産業への投資拡大を表明していますが、スポーツ界においても日本の強みであるIPの活用は、新たなパートナーシップモデルを生み出す可能性があると感じています」

アビームコンサルティング株式会社 顧客価値戦略ユニット Sports & Entertainment 執行役員 プリンシパル 久保田圭一氏

カンファレンス・アーカイブ動画

セッション「ポーツ × IPの可能性」のアーカイブ動画をご覧いただけます。以下のフォームからアクセスください(無料)。