Jリーグ百年構想の発表から30余年。国内スポーツは、単に試合を開催してファンを集める「興行」の枠を超え、自治体や地元の企業・住民と一体となって地域の課題を解決し、新しい産業やコミュニティを創出する「まちづくりのプラットフォーム」へと進化を遂げている。
今月開催された「Global Sports Business Summit 2026 presented by SCO Group」では、鹿島、生駒、シンガポール、岡山といった国内外の各地域で挑戦を続けるクラブの事例から、地域とスポーツクラブが描く未来像が語られた。
Jクラブが地域に果たす役割。鹿島アントラーズの取り組み
サミットの当該セッションでモデレーターを務めた共同通信社 運動部副部長の田村崇仁氏は、セッションのイントロダクションとして次のように切り出した。
「全国40以上の都道府県に60のJクラブが広がり、スポーツを核とした地域活性化は新たなフェーズに入った。人口減少や地方衰退が深刻な社会問題となる現代において、単にスポーツが地域に貢献するだけでなく、スポーツを触媒にして地域にどんな新しい価値や投資、産業を生み出せるのか。国内外のユニークなフロントランナーとともに考えていきたい」(田村氏)
これに対して答えたのが、クラブ創設35年でJリーグ・ACL含めて21と最多タイトルを手にしている鹿島アントラーズ 代表取締役の小泉文明氏だ。ホームタウン5市を併せて人口約24万人規模でありながら、売上高100億円に迫るクラブは、1試合の平均観客数が約2万8000人。そのうち3分の2は県外からの観客だという。この特性を鑑みて、スタジアムフードは地元企業のみが出店するなど、県外から来る観客に対して地元の魅力を徹底的に発信する。
街と連携してクラブを大きくしてきた中で、2033年の新スタジアム構想を見据えた戦略も口にした。
「私たちは行政や地元の事業者が抱えるエネルギーや医療、防災の課題をクラブがヒアリングし、解決できるソリューション企業とマッチングする『ウィッシュリスト型』のビジネスを展開している。スタジアムは試合のためだけの場所ではなく、365日開かれた地域課題解決の拠点。街の未来をデザインし、ローカル起業家が育つエコシステムを作ることこそが、人口減少時代におけるクラブの生存戦略だ」(小泉氏)

「11.5万人全員と向き合う」生駒で加速する官民連携
サッカークラブと地域の結びつきとして、今、新たに注目を集めているのがIKOMA FC 奈良の奈良県生駒市での取り組みだ。 2026年1月に、元サッカー日本代表の播戸竜二氏がIKOMA FC 奈良の代表取締役社長に就任。以降、関西サッカーリーグ1部に所属するクラブは、サッカーチームとしての興行以外にも、地域イベントとして1500機のドローンショーを行うなどの施策を打ち出している。
播戸氏は「生駒市人口11.5万人全員と相撲を取りたい。それぐらい向き合う覚悟で市民の声に耳を傾けてきた。モルック大会を主催して114チームを集めるなど、サッカーの枠を超えて地域に入り込んでいる」と説明。
また、「『IKOMA元気部隊』と名付けたチームでボランティア活動も行ってきて、クラブの理念である“すべては元気のために”を合言葉に活動を続けてきている。元選手だからこそ、所属選手のセカンドキャリアの場としても地域に根差して、スポーツの力を通じて街を明るくしていきたい」(播戸氏)と理念を語った。
生駒市長の小紫雅史氏もこう補足する。
「IKOMA FC 奈良が生駒にできてまだ9カ月だが、クラブは街にたくさんのものをもたらしてくれた。その働きはまるで『第二市役所』。6月の豪雨災害の時も、困っているお家がたくさんある中で、ボランティア活動をしてもらった。
行政は予算が1年制で継続的な施策の難しさがあり、議会を通さなければならないため承認に時間がかかるが、(IKOMAは)スピード感を持って施策を推進してくれている。その存在はすでに、『街づくり会社』。市政を自分ごと化させる触媒として大きな希望を持っている」(小紫氏)とチームへの期待感を表した。

シンガポールと岡山でも「地道な活動」が重要
議論はここで、国外のケースからも学びを得た。2007年からアルビレックス新潟シンガポールのチェアマンを務め、今年からFCジュロンへとチーム名を変えて本田圭佑選手を獲得するなど敏腕ぶりを発揮する是永大輔氏は、海外での過酷な挑戦から学んだ知見を共有した。
「国土が狭く地域性が薄いシンガポールで、私たちは最初『日本人だけの外来クラブ』として見られていた。一方で以前、アルビレックス新潟で社長をしていた際にサポーターから『クラブのために何ができますか』と問われた時があった。この関係性を目指してハードワークとチームワークを掲げ、『電気、ガス、水道、FCジュロン』と言われるまでに生活に不可欠なインフラとなること。これが日本発のスポーツビジネスを海外へ輸出する際の本質だ」(是永氏)

地道な活動で言えば、ファジアーノ岡山のオーナーを務める木村正明氏もまた、地域リーグ時代に観客7人だった時代から、J1昇格後にチケット全試合連続完売を達成するまでの道のりを振り返った。
「サッカーに興味のない人に振り向いてもらうため、首長、議会、町内会、行政、経済界、メディア、学会のキーマン全員と直接つながる地道な『ドブ板リレーション』を愚直に続けてきた。強いクラブである前に愛されるクラブになることが全ての基盤。民意を醸成し、スタジアムという公共インフラの価値を社会全体で共有することが重要」(木村氏)

各サッカークラブはそれぞれの手法で地域と向き合い、ユニークな方法で地域に根差している。それでも、根幹にある理念は一緒だ。モデレーターの田村氏は「各クラブが地域の触媒・プラットフォームとなり、人・モノ・投資をつなぐことで、スポーツは地域の未来を切り拓く最強のインフラになる」とまとめ、セッションを締めくくった。
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