Jリーグは開幕から30年以上が経ち、当時と現在では顧客層やニーズに至るまで、ファン・サポーターには大きな変化が見られる。「ファンのニーズに応える」という原則がますます重視される中、ファンと直接つながり、新たな施策に取り組んでいるのが、J1リーグ2連覇中の王者、ヴィッセル神戸だ。
同クラブでファンマーケティング部 部長を務める大嶋麻奈加氏が、先月開催されたスポーツビジネスカンファレンス「HALF TIMEカンファレンス2025 supported by アビームコンサルティング」で語った。
ファンのニーズが変化。直接つながる「Direct to Fan」がカギに
Jリーグは今年で開幕から31年目を迎える。その間、日本は少子高齢化が進み、スタジアムへの来場者をはじめとするファン・サポーターの属性やニーズも大きく変化してきた。
ヴィッセル神戸でファンマーケティングを取り仕切る大嶋麻奈加氏はこう語る。
「Jリーグでは、ファンが高齢化してきているという現状があります。ファンコミュニティが日々変化する中で、クラブはファンとどうつながっていくかを考えなければならない時代が来ました。これまで以上にファンのニーズを正確に捉え、欲しいものをしっかり届けなければなりません」(大嶋氏)
このような時代背景の中で重要になるのが、ファンと直接つながる「Direct to Fan(D2F)」という考え方だと説くのは、アビームコンサルティング株式会社 顧客価値戦略ユニットSports & Entertainmentセクター シニアマネージャーの宮藤真稔氏だ。
「企業が従来のマーケティング手法を続けているだけでは、成果が出にくくなっているという傾向があります。新たなマーケティング施策が求められているなかで、ファンのニーズを的確に捉え、迅速に事業化する『Direct to Fan』の強化が重要です」(宮藤氏)

ライブオークションでユニークな出品。配信に選手も出演
同社はスポーツ&エンタメ領域でコンサルティングに加え、ユニークなD2Fサービスの開発・提供も行っている。その一つが、ライブオークションサービス「Fun Portal」だ。
ライブ配信を活用し、双方向チャットで選手と交流しながらオークションが展開。落札した品物は配送で届けられるほか、後日店頭での受け取りも可能だ。ファン・サポーターの熱が高まっているうちにオークションを開催できるため、モノだけでなく体験などの「コト消費」にも活用できる。一点ものやリユースなど、アイデア次第では用途が広がる。
この点に着目したのがヴィッセル神戸だった。クラブでは昨年11月以降、6回のイベントを実施し、シーズン中に使用したアイテムや非売品、各種体験などをオークションに出品している。
「一点もののアイテムは、価格設定が難しい側面があります。そこで、欲しいと思ってくださるお客様に値付けをしていただけるオークション形式を採用しました。試合やイベントで使った装飾や、トレーニングで使用したボールなど、ファンの方には『欲しい!』と思っていただけるものがクラブにはたくさんあります。そうしたものもお譲りできればと考えました」(大嶋氏)
実際、オークションでは、リーグ初優勝を決めたホームゲームで武藤嘉紀選手がバナーに直筆サインを入れたり、酒井高徳選手が配信に出演し「カメラマン体験」を紹介するなど、選手自身の言葉で価値を伝える工夫も行っている。

こうした取り組みは、シーズン中だけでなくオフシーズンにも行っている。宮藤氏は、「試合後の熱量を持ったままの配信だけでなく、オフシーズンでなかなか選手と接点を持つ機会がない時期にも配信を活用するなど、効果的に活用いただいている」と、分析する。
「オフシーズンにはファンクラブ会員限定で交流イベントも実施しました。キャンプ地から現地の様子を交えながら、ライブ配信をうまく活用できました」(大嶋氏)
アカデミーとも連携。収益の使い道も一工夫

ヴィッセル神戸では、オークションでの収益をチームの強化に活用しているが、その使い方にも一工夫している。
「基本的にはアカデミー生の強化に使うようにしています。U-18、U-15といった選手たちの海外遠征費用などです。アカデミーの選手がファンの方に感謝を伝えられるというのも、ライブオークションの利点のひとつですし、アカデミーそのものを知ってもらうことにもつながっています」(大嶋氏)
実際、オークションをきっかけにアカデミーに興味を持つ人も増えており、その認識はアカデミー生たちの間にも広がっているという。それ故に、アカデミー出身、いわゆるホームグロウン選手(クラブが自前で育成した選手)も、積極的にライブオークションに参加している。
「ライブオークションでは、新たな顧客価値をダイレクトに届けられますし、新しい可能性を見極めるためのテストマーケティングのツールとしても活用できます」(宮藤氏)
「選手本人が、『1年間がんばって結果を出してきた。それを支えてきたのがこのボールです』と語ってくれる。そういった言葉を、ファンに直接届けられるのはとても大きいと思います」(大嶋氏)

プロスポーツクラブは積極的にファンとつながり、よりロイヤリティを高めていく方向に動いている。クラブが潜在的に持っている価値を引き出し、クイックに実施につなげられるのも、ライブオークションの特徴だ。サッカーからバレーボール、卓球にまで採用される「Fun Portal」。今後の展開にも期待したい。
カンファレンス・アーカイブ動画
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