HALF TIMEの本格サービス開始を記念した、代表の磯田裕介と日本フェンシング協会会長で、HALF TIMEアンバサダーにも就任した太田雄貴氏の特別対談。第2回はスポーツ業界の課題一つと言われる「人材」について、日本フェンシング協会の取り組みと見えてきた成果を交え、スポーツ業界を本気で変えようとする二人が語った。(聞き手は新川諒)
前回対談:【特別対談#1】日本フェンシング協会 太田雄貴×HALF TIME 磯田裕介――スポーツ×ビジネスのゲームチェンジャーを輩出へ
フェンシング協会が変えた人材と組織の関わり方
――フェンシング協会では英語試験の導入など様々な仕掛けを行ってきています。ここまでの成果はどうお考えですか
太田:スポーツのみならず、もしかしたら日本全体の問題っていっぱいあると思うんですよ。例えば、組織として決め切れないとか。誰がどうモノを決めていくかということを決められないという、意識決定の部分ですよね。思いっきりトップダウンで行くのか、仕組みとしてやっていくのか。フェンシング協会に関していえば、最初の2年間はトップダウンで行くというコンセンサスを取っていましたので、大なり小なり私が意思決定を行っています。良い意思決定が出来るようにと心がけて、この2年間やってきました。
次の2年は引き継ぎに入っていくので、誰がどういう風に意思決定をしていくのか決めていかなくてはいけません。当たり前なんですけど、一人ひとりの役職や仕事に対しての要件を明確にする必要があります。今までここの人事制度も含めて曖昧だったと思います。
スポーツ団体のゴールは金メダルになりがちです。そうすると、3年半ダメだったのに選手のオリンピックでの1勝で万々歳になってしまうのは組織としてどうかと思います。協会としてマーケティングでお金も集めてこられない、集客もできていないけど、(4年に一度の)オリンピックでメダルを取ったら万々歳では、組織として健全ではないですよね。
協会として一番上に当たる最上位概念を、金メダルから「感動体験を提供する」に変えていくべきだと思います。強化は金メダルを目指しますが、協会はそれだけではない。感動体験を提供するためには金メダルが必要と置き換えて考えていく。協会のコア業務と強化を良い意味で分けることが出来るのではないでしょうか。
――会長として組織を見渡した時、強化の人が協会の業務を、またはその逆をしてしまっているなど、人事のミスマッチは見られますか?
太田:そうですね。競技上がりがその競技にとって必ずしも良いわけではないと言っていたんですけど、自分が競技上がりなので全く説得力がないんですよね(笑)。
磯田:でも、太田さんは特殊ですよね。色んな事に興味、関心持たれていますよね。
太田:特殊な人は特殊って分かってくれるんですけど、分からない人は「お前競技者出身じゃないか」って言われてしまいますよね(笑)。人材のミスマッチには、そこにいる人とミッションのミスマッチもあります。一人ひとりの責任を決めてあげないといけない場合もあります。
例えば、マーケティングと言ってしまうと領域が大き過ぎます。経営的な観点も入ってきますし、一方では営業まで落とし込むことも必要です。そうすると相当範囲が広くなるので、細分化しなければなりません。営業の数字をつくるのであれば、「あなたの仕事はこのセールスシートをもとに売ること。セールスです。」と領域を定義しないと分からないですよね。ざっくりした状態でボールを渡すとろくなことにならないです。
スポーツ業界の大きな課題
――人材領域のビジネスを始める前に、そもそもスポーツ業界にはどういった課題を感じていましたか
磯田:日本のスポーツ業界はもっと成長していく余地があると思っています。その理由は、マネタイズするのと社会に貢献していくのを両方達成する組織が増えていけば、産業としても大きくなるからです。日本のクラブ、リーグ、協会の良いところは、地域密着型で地元に貢献し、地元から支持されているところだと思います。一方、例えばヨーロッパのクラブはもっとドライで、マネタイズをどうするか、売上をどう稼ぐか、スポンサーの何億というお金をどう返すかなど、よりビジネスライクです。
日本の社会では温かさや優しさが溢れているのはとても良いところだと思っています。一方でどう経営していくか、マネタイズしていくかという視点を一層持つことができれば、より長い視点で地域に貢献しようという仕組みが生まれると思います。
クラブチームの課題は、色々なクラブと話す機会がありますが、優先度で言えばやはりスポンサーをどれだけ獲得するかが一番、次にどうチケットを売るかが二番目と考える組織が多いと感じます。そこを最大化させる取り組みも、HALF TIMEとしては、長期的にやっていきたいと思いますね。
――フェンシング協会では「人材」という課題にアプロチーするため、副業・兼業人材の活用も行っています。成果はいかがですか?
太田:めちゃめちゃ良いですよ。なんで副業・兼業にしたかというと至ってシンプルで、お金がなかったからなんですね。手伝ってくれる友人がいても、コミットメントが弱いと頼みにくくなってしまいます。働くというと、契約書が必要です。副業・兼業の募集をしたところ、1,127名もの人が手を挙げてくれました。優秀な人を相手に面接をして、逆に面接されている気分になるという不思議な体験でした(笑)。
私も会長としては1円もお金をもらっていないので、自分の中でどう納得させていくか考えていました。優秀な人たちと精神をすり減らしながら面接することを、自分の修行の場と思ってやるか面倒臭いと思ってやるかで変わってきます。私はただでは転ばないと思って取り組んでいました。
副業・兼業の採用は、採用人数が少ないなどで業務が明確な部署ほどうまくいっている傾向があります。例えば経営戦略や強化本部などは、外から来た人にとって課題が見えにくい部門です。普通の会社と違って(スポーツ組織が)売上をどう立てていくか、なかなか分からないですよね。経営戦略が何かというのが見え辛くなり、人数が多ければ多いほど誰かがやるだろうと思ってしまいます。兼業・副業にざっくりとした依頼は向きませんので、(業務を)明確にしやすいところほど上手くいくのでしょうね。
フェンシング協会は英語試験も導入。グローバルで戦える人材とは
――フェンシング協会では英語試験の導入も発表しました。今後日本からグローバルに戦っていく上ではどういった人材が必要となってくるでしょうか。
磯田:一番大事だと思うのが、コミュニケーションの柔軟性です。私は2年間、日本文化から完全に離れた経験があり、それは日本人が全くいないシンガポールにあるイギリス系の会社に勤めたときでした。海外に比べると、日本のカルチャーは特殊です。
日本のコミュニティーでは、下手に出るとか、礼儀正しさを大事にするとか、上下関係を大事に守るなどは当然ながら必要です。しかし一歩海外に出た時には、コミュニケーションや価値観を変えられるかが重要です。柔軟に自分自身を変えながら現地のコミュニケーションや常識に合わせられる日本人は世界で活躍できますが、日本の価値観のまま海外に出てしまうと、海外の人から違和感を覚えられることが残念ながらあります。
太田:例えば、上手くいかなかった時に、人のせいにする人と自分のせいにする人の違いがまさにそうだと思います。今ここのコミュニケーションが上手くいかないのは、相手が外国人だと言ってしまうとそこで終わってしまいます。相手に合わせられない自分に問題があると感じて、変えようと出来たら良いと思います。
これは競技においても同じことが言えます。例えばあるコーチと別のコーチの言うことが違う時に、両者の良いところを自分の中で取捨選択しながら取り入れていける子は強くなると思います。通すべき自分のプライドと、通さなくても良いところの見極めが上手い子はどこでもやっていける気がします。
磯田:コミュニケーションの柔軟性を持ち、自分自身を変えるんだというスタンスを持つのが大事ですね。
太田:磯田さんが2年でも完全に日本人がいない環境でやっていたのは凄いと思いますし、1人でもそういった日本人を出していければ良いに決まっています。英語試験の導入に関しては賛否両論あります。でもこれからの選手たちが日本以外でもコーチをする機会を得る、または海外で勝っていくために、私たちは責任感を持ってやっているということです。スコアの仕組みや採点の基準はこれから柔軟に変えていけば良いと思います。何より大事なのは、競技以外の重要さを学ぶということです。
選手たちは一日中練習をやっているわけではないので、私たちは空き時間にオンラインで英語を学べる環境を無償で提供しています。選手たちに対する投資だと思ってやっています。選手たちの将来に跳ね返ってくる、良いサイクルが生まれると思ってやっています。
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次回の第3回では、日本フェンシング協会会長の太田雄貴氏とHALF TIME代表の磯田裕介の対談を通し、最後はそれぞれの組織において今後目指す方向性を中心に話を伺う。
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