HALF TIMEの本格サービス開始を記念した、創業者で代表の磯田裕介と日本フェンシング協会会長で、HALF TIMEアンバサダーにも就任した太田雄貴氏の特別対談。第3回は、それぞれの組織が今後目指す方向性から、日本のスポーツ業界、そしてそれを牽引する新たな人材にかける期待まで、スポーツ業界を本気で変えようとする二人が語った。(聞き手は新川諒)
前回対談:【特別対談#2】日本フェンシング協会 太田雄貴×HALF TIME 磯田裕介――スポーツ業界の人材と組織の「新しい関わり方」
今後のビジョンとフォーカス
――フェンシング協会として様々な取り組みや新たな仕掛けを行っている中、今後についてのビジョンはどう描かれていますか。2020年が迫っている中、どこにフォーカスを置いていきますか。
太田:やっぱりマネタイズですね。どこでマネタイズするかというのが課題です。この辺の筋かなというのは2つ3つあるんですけど、これを何年以内に実現出来るかというポイントがあると思います。もう一つの課題はスポンサーシップです。私たちはブランディングについて語っていくレベルではないので、まずは1万社に営業に行くところではないか、と言っています。
結局、お金がないって言っている競技団体は、うちも含めて、営業に年間で1社も2社も行っていないんですよね。来たものだけでやって、継続しているだけです。本当にお金がないのであればやるべきことをやるべきです。100件行ってダメなら101件行くぐらいの気持ちをまずは持たないといけないですよね。会長の私も含め、泥臭いことをやっていかないといけないですね。
磯田:太田さんのような協会、そしてチームやリーグに対してHALF TIMEとして出来ることがあるかなと実は思っています。現在、本格開始となったウェブサービスのHALF TIMEと、人材紹介業であるHALF TIME Agentをサービスとして提供させていただいています。
今後取り組んでいきたいのが、チームやリーグが売上をどう作るかというところに貢献していく部分です。着手しやすいのはクラブ、リーグや協会とスポンサー企業のマッチング支援。そして今後できたら面白いかなと思っているのは、PRやマーケティング、オウンドメディアの支援。そこも近いうちにやっていきたいと思っています。
スポーツ組織が売上をどう作るかは永遠の課題かと思っています。例えば、私たちのような専門プロフェシナルが一定期間コンサルティングをさせて頂きながら、組織の特徴が何かを捉え、メディアを開発し、デジタルを活用して空中戦を提供していきたいと思っています。
太田:空中戦でいうと、私たちでは兼業・副業チームがやってくれています。兼業・副業のポイントって、みんな地上戦は嫌なんですよ(笑)。どちらかというと自分たちが持っている知見やノウハウを外にアウトプットしたいから、無償でも、給料が安くてもいいと言ってくれる人達がいます。それはある種、綺麗な仕事だからです。だけど泥臭いことをやるのは私達のスタッフじゃないといけません。この二つを上手く両立させるには、フルタイムのスタッフ達と兼業・副業の人達を、月に一度でも会わせる機会を作ることです。そうすると、こちらの学びになりますし、兼業・副業スタッフも学ぶことがある。WIN-WINの状況を作ることができます。
磯田:確かにフェンシング業界でも取り入れている、副業・兼業の人に任せる職務領域と正社員や契約社員など直接雇用の人達に任せる職務領域を分けて運用していくのは、色んな業界で生まれてきそうですね。
太田:ここで必ず問題になるのは、空中戦が花形ということなんですよ。明らかにメディアの食いつきも良く、取材を受ける機会も多くなっていきます。なので、地上戦を戦う者も報われないといけません。副業・兼業チームがいなければ私達は影にならなかったのにと思う者も出てくるかと思いますが、兼業・副業チームがいなければ影も何もなかったというのが私の考え方です。地上戦を戦うスタッフのゴール設定を行い、彼らにもフォーカスが当たるようなやり方を考え、上手くマネジメントしていくことで、良く回っていくかと思います。
スポーツ業界に求められる「異業界」出身者
――フェンシング協会の取り組みも参考に、HALF TIME Agentではどのような人材を上手くマッチングさせていけると考えますか
磯田:弊社としては当然ながら正社員の採用支援をします。ですが正社員を雇うコストがなかなか掛けられないという組織には、フェンシング協会が取り組んでいるような副業や業務委託、あるいは顧問契約という形の採用を支援していきたいと思います。
今まで他業種で働かれていた方々にも、スポーツ業界で働く機会を提供したいと思います。私の周りでも、異業界にいるビジネスマンで、昔スポーツをプレーヤーとして経験して、いずれは自分の想いを寄せる業界で働きたいと思っている層は、非常に多くいます。そういった方のファーストステップとして、まずは副業・兼業でスポーツ業界の仕事の機会を提供させていただくという形態も、取り組んでいきたいと思っています。
――太田さんの「異業界」への関心もお伺いします。現役引退後からフェンシング協会で仕事をされていますが、フェンシングに全く関係ないところで経験したかった領域などはありますか?
太田:なんですかね(笑)。難しいですね。勝てる確率の高い領域で勝負すべきだとは思います。必ずしもそれが自分の「好き」と合わない時もあります。だから好きを仕事にしようとは思わずに、まず自分が勝てる領域でしっかり勝負をすることです。私にとって協会業務がまさにそうだったように、やっているうちに好きになっていくんですよ。
会長業務は嫌われることも多いわけです。人事もしないといけないわけで、僕からすると昨日まで教えてくれていた人を切らないといけない場面も出てくるかもしれません。すると、なんでこんな嫌われ役を買って出ないといけないのかって思うわけですよ。だけど自分が何を成し遂げたいのかというのを腹に決めて、やり切るしかないんです。
そうすると色んな仮説を立てて、「大会ってこうすれば良いのかな」と動くと、実際にお客さんが入ってくれたりします。そして選手たちがびっくりするような結果を出すなど、反応や肌触りが出てくると、「組織って面白いな」と思える領域に入ってきます。そうなると「フェンシングでなくても面白いだろうな」と思える自分がいるのも知っています。
そもそも自分が本当に何に興味を持っているかというのを深い部分で知っている人は少なくて、だいたい35歳ぐらいまでは比較的人の評価に左右されやすいと思います。人の賛同なしで自分が本心からたまらないと思える領域で戦えるのはなかなかない中で、自分自身を知る機会になっていると思います。
HALF TIMEの目指す「ブリッジ」
――自分の領域で勝負する。それが楽しみにつながるというのは興味深い視点ですね
磯田:私からも話を挟むと(笑)、自分自身は、グローバルから日本を見た時に、日本が経済として上昇しておらず、停滞気味か下降気味に映っていると感じています。それに対して危機感を持っていて、日本のプレゼンスをスポーツを通して高めていきたいと思っています。例えばサッカー業界でいうと、欧州のサッカークラブで働いている日本人の数って2、3年前に比べて減っているんですよ。
私の知る限り、2、3年前は欧州主要クラブで働いている日本人は8人いましたが、今は5人程度にまで減っています。欧州クラブが日系企業のスポンサー獲得をどれだけ本気で考えているかに比例して、人数が少なくなっている現状があります。
日本に代わって中国にもっと人を置こうという動きが、実際に様々なクラブやリーグで起こっています。その状況を打開したいんです。一番良いのは日本発のグローバル企業をスポーツ業界に作っていくことですね。海外のマーケットを獲得していく日本のスポーツ関連組織が出てくれば、日本のスポーツ産業がより盛り上がり、世界から注目され、プレゼンスを高められると思います。
そのために、日本と海外のブリッジになるような人を増やしたいですし、そのポジションの仕事の機会を提供していきたいと思っています。
太田:頼もしい!最後に僕の方からも聞かせてもらいたいのは、スポーツに従事する人たちにとって、HALF TIMEはどんな役割を担いたいと思っているのかですね。
磯田:HALF TIMEのコンセプトは、自身のキャリアを振り返っていただき、次のキャリアに向けて準備するという意味で、スポーツのハーフタイムになぞられています。向上心の高いビジネスパーソンが適切な情報を得ることの出来る場であり、それと同時に適切な仕事の機会を得ることが出来る、スポーツ業界にとって不可欠な存在になっていくのをまず考えています。
その次のステップとして、スポーツ業界自体を変えていきたいと思っています。今までの過去の常識に囚われず、HALF TIMEとして新しい価値観、新しいビジネスモデルをスポーツ業界に提供していきたいと長期的に考えています。今の事業領域はありますが、そこから完全に出るというところも考えていて、様々な事業をスポーツ業界に提供し、変化を作っていける組織に、HALF TIMEはなっていきたいと思います。
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