楽天イーグルスでアクティベーションを担当。細田真萌氏が考える「スポンサーシップの可能性」とは

スポーツビジネスの現場リーダーに、これまでのキャリアと現職について伺う連載企画。今回は楽天グループ株式会社で東北楽天ゴールデンイーグルスのアクティベーションを手がける細田 真萌(ほそだ・まほ)さんに伺いました。(聞き手はHALF TIME編集部の横井良昭)

オーナーでありスポンサーでもある楽天

――楽天は野球、サッカーをはじめとして多くのスポーツクラブの経営やスポンサードを行っています。細田さんはどのようなお仕事をされているのでしょうか。

楽天グループ全体のマーケティング部の中で、スポーツへのスポンサーシップを通じたマーケティング・ブランディング戦略の立案をしています。楽天は国内外で多くのスポンサードを行っていますが、私が所属するチームは楽天イーグルス、ヴィッセル神戸、テニスの楽天オープンなど国内のアセットの担当です。エンタメの分野では、東京フィルハーモニーもありますね。

私はその中でも楽天イーグルスを担当しており、楽天のその時々の状況に合わせたアクティベーションを企画したり、そのために必要な交渉を球団と行っています。スポンサー権利を活用して、楽天のビジネスの様々な側面を促進する。つまり、「スポンサーシップの価値を最大化する」ということがミッションになります。

――楽天はチームのオーナー企業でありながら、スポンサーとしてもうまく権利を活用している。

はい。楽天はオーナーでもありスポンサーでもあるので、例えば楽天イーグルスでは冠協賛のホームゲームを年に2回行ったり、年間でボックスシートを活用できる権利などを持っています。その権利を活用して楽天としてのメッセージを楽天イーグルスを通じて社会に発信したり、ボックスシートを毎試合どこかの事業部でホスピタリティ(※)に使ったり、ファン向けのキャンペーンに活用したりしています。

(※ 高付加価値の観戦体験プログラム。顧客向けに特別な体験を用意するなど歓談・商談に利用される)

これらは普通のスポンサー企業と変わりません。一方チームを保有する企業としては、いかに楽天グループ全体の課題をスポーツチームを通して解決できるかが重要。こういった話し合いもチームと行なったりしています。

スポーツを通して人生の選択肢を広げていく

東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地、楽天生命パーク宮城。画像提供=楽天

――細田さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

私は学生時代に約10年、陸上競技をしていました。陸上は個人競技なので、とにかく自分と向き合って課題を見つけてクリアしていく日々だったのですが、その経験を通じて、自分と向き合うことの大切さや目標に挑戦して成し遂げる素晴らしさを肌で感じることができました。

また、自分なりに決めたゴールに向かって努力することで自己肯定感が生まれ、それが自信になって、全く違う分野で新しい挑戦をするときにも自分を助けてくれることを学びました。この経験は社会人として働く今も、自分の原点になってます。

大学は筑波大学に進んで、体育専門学群でスポーツマネジメントを専攻しました。研修でアメリカのスポーツビジネスを目の当たりにしたり、様々な角度からスポーツを学んだことで、スポーツが持続可能に社会に根付くためには国からの補助金でやりくりするのではなく、自立したひとつの事業体としてやっていくことが必要だと思いました。そこで、ビジネス面からスポーツに関わりたいと思うようになったんです。

就職活動では最初はスポーツに関わる仕事を探していましたが、自分自身がスポーツを通して実現していきたいことを考えた結果、「選択肢を広げたり、挑戦を後押しして人の人生を豊かにしていくこと」という答えに行き着きました。であればスポーツではなくても人に選択肢を与えられるような企業が良いなと考えて、一次情報を発信する新聞社である朝日新聞社に入社しました。

新聞社にはスポーツの部署もありますし、入社して10年後ぐらいにスポーツに関わることができたらとイメージしていました。ですがその前にまずは若い人にニュースを届けて、様々な事柄に思いを馳せて自分自身と向き合うきっかけにしてほしいと考えていたので、デジタルの部署を志望し、運よく配属となって、ウェブメディアである朝日新聞デジタルのマーケティング・プロモーションの仕事が最初のキャリアになりました。

――その後も、スポーツへの想いは消えなかった。

いざ仕事を始めてみるとやっぱり自分のモチベーションが上がるのはスポーツだと(笑)。なので入社2年目に「スポーツの仕事がしたい」と当時所属の部署に相談をして、高校野球のインターネット中継サービスの「バーチャル高校野球」のマーケティング・プロモーションを兼務できることになりました。

「バーチャル高校野球」は高校野球が好きな方や球児の親御さん、そして同級生がいつでもどこでも地方大会や全国大会を含めて高校野球が観られるサービスです。

この仕事を通して朝日新聞やグループ会社の強みを生かして高校野球を多くの方に楽しんでいただける環境をつくっていく楽しさを感じました。一方で、それを自社のビジネスのために活用していく難しさ、さらに主催社として高校野球の未来をどう描くべきなのかという問いを持つようになり、いまの自分の実力ではその問いを解けないなと感じたんです。そこで、スポーツとビジネスを別の角度から取り扱うところで修行した方が良いと思い始めました。

その時に縁あって楽天がWebに知見があり、しかもスポンサーシップに興味がある若手を探しているという話を聞いて転職を決めました。朝日新聞での経験からもスポーツの持つ力や価値を広げていくにはいろんな業種とコラボレーションしていくことが大事だと思ってたので、70を超えるサービスを抱える楽天でのスポンサーシップ活用に大きなポテンシャルを感じたんです。

未来を作る、スポーツの無限の可能性

楽天でスポンサーシップのアクティベーションを担当する細田真萌さん。画像提供=楽天

――2社目でスポーツ業界のど真ん中ということになりますね。これまでのスキルや経験で、現職に活きているものは何でしょうか。

前職でWebに関する仕事をしていたので、アクティベーションの中でもWebキャンペーンの作り方などはスキルとして活きています。また高校野球からプロ野球の仕事ということで、野球に関するベースの知識は蓄積できていると思います。とはいえスポンサー企業でアクティベーションをするには多くの部署を巻き込んでプロジェクト全体を統括し、ステークホルダーと交渉していかないといけないので、いわゆるプロジェクトマネジメント力や交渉力はまだまだ伸ばしていかないと…。

一方で、これまでの経験やスポーツ業界の慣習から一歩離れて、スポーツを客観的に見ることもすごく大事だと思っています。学生時代にスポーツを様々な角度から見たことが今のキャリアにつながっているのですが、スポーツが社会の中で持続可能に機能を果たしていく世界観を実現するには、ビジネススキルもそうですし、自分自身の考え方そのものをアップデートしていく必要があります。

そんな課題感から2019年にはSports X Leaders Programに参加し、システムデザインの考え方からスポーツ界の課題解決にアプローチする考え方を学びました。いまは筑波大学の社会人大学院に通っていて、スポーツの価値や力について改めて考えています。システムとしてものごとを捉える考え方と、スポーツが社会のために何ができるか、スポーツがどのように社会からみられているかを探索する社会学的な学びを、仕事にも活かしていきたいと思っています。

――スポーツ業界に入ってみて、課題に感じたことはありますか。

課題はいっぱいあると思うんですが、最近すごく思うのは、スポーツ業界で働く若い世代がもっと勇気を持っていろいろ発信していかなきゃいけないということ。私たちの世代ならではのスポーツに対する想いがあると思いますし、それを伝えようとしないと伝わらない。ものごとを進めるには多様な視点を持ち寄って話をしないといけませんが、現状では対話の場所があまりないと思っています。

今回のオリンピックもひとつの例だと思います。私自身、仕事ではあまり関わりがなかったので一般人として見ていましたが、私の周りではスポーツだけが優遇されるように見える状況に対して違和感を持っていたひともいました。大会を開催するにあたって批判から目を背けていないか、スポーツがいいものだとスポーツ界の中だけで思っていないか。スポーツ業界に限った話ではないと思いますが、閉鎖的な部分を感じていないわけではないので、変えていかなければいけません。

――細田さんが常々強調される「スポーツの価値」。それは実際、何だと考えられますか?

一番は、人や社会の未来を創る可能性を持っていることだと思います。スポーツは人の心を動かす力があるので、人に影響を与えたり、巻き込んだり、背中を押すことができますよね。例えば、スポーツが媒介となって、今まで全然興味がなかった社会問題に対して興味を持ってくれる人が出てくるかもしれません。

スポーツを活用する仕事には、新しいユーザーを獲得するなどのビジネス上の成果をあげるだけでなく、社会を変えられるポテンシャルを与えられていると感じます。それには責任が伴うのでより慎重に関わらないといけませんが、そういった「大きな力」を借りることができるのが一番の魅力だと思います。

今後は、スポーツとそれ以外の分野のコラボレーションをもっとつくっていきたいです。企業とも、行政とも、いろんなものとコラボレーションできるのがスポーツの特性ですから。それが誰かの課題を解決する、新しい未来をつくっていく助けにもなると思います。

スポーツというフィルターを通して一人ひとりが生き生きと、豊かに暮らせる社会をつくっていけたら最高だと思いますね。