元トップ選手の体験談や目標設定も。メジャースポーツからパラ競技まで、アスリート向け講座で語られた「キャリア論」

セカンドキャリアだけでなく現役時代から様々な取り組みを行うデュアルキャリアの考え方も広がり、アスリートのキャリア形成は多様化している。キャリアのつくり方を学ぶ需要が高まる中、キャリア教育講座も盛況。メジャー・マイナースポーツからパラ競技まで、15競技・34名の選手が参加した講座では何が教えられたのか?内容を詳報する。

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多様化するアスリートのキャリア

「アスリートは競技に集中すべき」という風潮はスポーツの現場だけでなく社会にも根強く存在する。その外部環境が、アスリートが自身のキャリアを考える機会を奪っているケースも多く、アスリートの「キャリア自律」は長く課題だった。

こうした社会課題を解決しようと今年から始まったのが、アスリート向けのキャリア教育講座『アスリート キャリアオーナーシップ アカデミー』だ。総合人材サービスのパーソルホールディングスとHALF TIMEの共催で、バリュエンスホールディングスがパートナーとしてサポートする。

2月から4月には第1期が開講。サッカーや野球といったメジャースポーツからマイナースポーツ、そしてパラ競技まで15競技から34名のアスリートが参加した。プログラムの前半はキャリア論や現在の支援制度を学ぶ講義が中心となったが、後半には元トップアスリートが登壇し自身の経験談を明かした。

五輪メダリストのリアルな体験談

野村忠宏氏の回は運営のみオフラインで実施。画面越しに受講アスリートに語りかける野村氏

元選手で、現在もビジネスや社会活動を積極的に行っている講師として登壇したのは、野村忠宏氏(柔道家・オリンピック金メダリスト)、有森裕子氏(元マラソン選手・オリンピックメダリスト)、鈴木啓太氏、そして嵜本晋輔氏(以上どちらも元Jリーガー)。

野村氏はアスリートマネジメントを行う株式会社Nextendで代表取締役を務める傍ら、東京2020聖火リレー公式アンバサダーとしても活動。有森氏は公益財団法人スペシャルオリンピックス日本の理事長を務め、共にスポーツやアスリートが持つ力を社会に発信している。

講義の中で野村氏は、「現役中でも、必ず人生のプラスになる、糧になることは積極的に行いました。ただし、アスリートは(機会や環境を)与えてもらうことが多かったのも事実。社会に出れば、変わらなくてはいけない」と力説。オリンピック3大会連続金メダルという競技歴を持ってしても、ビジネスの世界は別物だとした。

一方で、競技でもビジネスでも「準備」が重要であることは変わらないとも指摘。「アスリートが今までやってきたことは、決して無駄じゃない」と言う。考え方を転換することで、未来に活かせることは多いと話した。

有森氏も、自身の経験談から、「今のアスリートには『走ることしか考えてなかった』とか、『サッカーしかやってこなかった』と思わないでほしい。アスリートとしてだけでなくひとりの人間として、自分がやってきたことに誇りと自信を持ってほしい」と、アスリートにメッセージを送った。

「アスリートが活躍できないはずがない」

起業経験を話す鈴木啓太氏(Aub株式会社代表取締役)

鈴木氏と嵜本氏は、元Jリーガーでありながら、引退後はどちらも起業家として活躍。鈴木氏は選手時代の経験から、試合前のコンディショニングの重要性に着目し、現在は腸内細菌の研究開発とコンディショニング商品の展開を手がけるAuB株式会社で代表取締役を務める。

講義では、起業までの道のりやビジネス界に飛び込んだ時のビジョンを話した。

「6万人収容の埼玉スタジアムが毎試合埋まる。アスリートのデータが人々の健康・コンディションに活かされていて、子供から大人までが元気に(スタジアムに)通って、チームを応援する。このビジョンだけはずっと変わらないんです」と鈴木氏。

嵜本氏は引退後、父親の経営するリサイクルショップを継いだ後、SOU(現バリュエンスホールディングス)を起業。接遇を重視したブランド品買取やオークションなど幅広く展開し、売上380億円の上場企業にまで成長させた。

とはいえ、現役時代には苦い思い出もある。ガンバ大阪に入団するもわずか3年で戦力外通告。その後は、「誰よりも早く、たくさん失敗しよう」と割り切って行動することで、ビジネスキャリアの遅れを取り戻してきたという。

その経験を踏まえ、同氏はアスリートが競技に取り組む姿勢は、ビジネスにも活きると断言。「アスリートは理想と現実のギャップを埋めるため、PDCAサイクルを回す力がある。ビジネスパーソンとしてアスリートが活躍できないはずがない」と述べた。

目標設定のワークショップも

目標設定ワークショップ「タニモク」の一幕

アスリートの経験談に続いて、プログラムの終盤では、今後の目標設定を行うワークも行われた。「タニモク」という、他人視点によるユニークな目標設定方法で、グループワークの中で自分以外のアスリートの話や将来像を聞き、「自分だったらこうする」という視点で他人の目標を考えるというものだ。

「大胆かつ理論的に自分の目標を設定してもらいました。説得力があってすごく心強かったです」と話すのは、受講生の空手家・月井隼南選手。互いの目標設定を通じて、抜け落ちていた視点や気づいていなかった可能性を見出していた。

プログラムの最終では、これらをもとに受講生一人ひとりが今後の目標を発表。講義から得た新たな視点や知識を盛り込むなど、受講アスリートにとってはキャリアについて改めて考える機会となった。柔道でリオ五輪銅メダリストの羽賀龍之介選手は、「引退してからやることと、現役中にやることを分けられるようになった」と振り返る。

第2期がいよいよ開講、申込受付中

第2期のアカデミーにも、引き続き元トップアスリートやビジネスパーソンが講師として登場する。自己分析や目標設定のワークショップも含め、アスリート自分がキャリアについて再考する機会になる。

次回初登場の講師は、リンクトイン日本代表の村上臣氏。ビジネスフィールドはこれまでになく転職が活発になっているが、自著『転職2.0』をベースに講義を行う。リンクトインは世界最大のビジネスSNSの運営会社で、村上氏自身もヤフーで執行役員CMOを務めた後、40代で外資系企業に飛び込んだ「転職実践者」でもある。

講義は6月28日から毎週月曜日の20:00から、全12回にわたってオンラインで行われる(8月9日は祝日のため休講)。当日視聴ができない受講アスリート向けに、アーカイブ動画の後日配信も行う。オンライン環境があれば、場所を選ばずに参加できるのも、多忙なアスリートにとっては嬉しいところだ。詳細は以下の公式Webサイトから。

▶︎『アスリート キャリアオーナーシップ アカデミー』第2期 公式Webサイト