廣瀬俊朗氏、石川直宏氏らがきらぼし銀行と考える、アスリートによる社会課題解決の可能性

企業がアスリートやスポーツの力を活用して、共に社会課題の解決を行う動きが盛んだ。サッカー、マラソン、野球をこれまで支援し、トップアスリートの雇用も行うきらぼし銀行もその一つ。首都圏の地域金融機関として地域社会を重視する同社は、この3月に「アスリートによる社会課題解決の可能性」をテーマにディスカッションイベントを開催。廣瀬俊朗氏、石川直宏氏、東俊介氏、酒井泰滋氏が参加した会の模様をお伝えする。

アスリートと社会課題の解決を

昨年は新型コロナウイルスの影響で、スポーツが軒並み停滞を余儀なくされた。現在は少しずつ再開されつつあるが、元通りになるにはまだ時間が必要だろう。スポーツが思い通りにできない現在、何をしたらよいのか。アスリートをはじめとして悩む関係者は少なくない。

そんな中、スポーツは社会の一部であるという原点に立ち戻り、スポーツの持つ力で社会課題を解決していこうとするのが、きらぼし銀行だ。2018年に東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京が合併して誕生した同社は、首都圏の地域金融機関として地域社会を重視する中、これまで多くのスポーツを支援してきた。

サッカーでいえばJリーグのFC東京から、関東リーグの東京23FCまで。東京・港区のマラソン大会「MINATOシティハーフマラソン」や、東都大学野球連盟、BCリーグの神奈川フューチャードリームスなどもその支援に含まれる。

株式会社きらぼし銀行 頭取 渡邊壽信氏

また、日本オリンピック委員会(JOC)が実施するトップアスリートの就職支援サービス「アスナビ」を通して陸上競技・棒高跳の澤慎吾選手、スケート競技・ショートトラックの岩佐暖選手も採用。東京都による「令和2年度 東京都スポーツ推進企業」、スポーツ庁による「スポーツエールカンパニー2021」にも認定されている。

「先行き不透明なこの情勢の中でも、アスリートが真摯にスポーツに取り組む姿は、いつでも人々に夢と感動を伝える」

株式会社きらぼし銀行 頭取の渡邊壽信氏がこう述べてイベントは開幕した。

コロナ禍の今こそ、新たな形のつながりを

廣瀬俊朗氏:元ラグビー日本代表キャプテンで、現在株式会社HiRAKU代表取締役

今回登壇したのは、元ハンドボール日本代表の東俊介氏、元ラグビー日本代表の廣瀬俊朗氏、FC東京クラブコミュニケーターであり元サッカー日本代表の石川直宏氏、そしてサンロッカーズ渋谷チームアンバサダーであり元バスケットボール日本代表の酒井泰滋氏の4名。いずれも各競技での活躍を経てビジネスや社会活動に活躍の舞台を移し、様々なアクションを起こしてきたアスリートだ。

FC東京とサンロッカーズ渋谷は東京を本拠地としており、きらぼし銀行もパートナーとして支援。また同社は今年に入ってからは、廣瀬氏が専務理事を務める、アスリートへの教育機会を提供する一般社団法人APOLLO PROJECTへの協賛も開始するなど、ゆかりの深いパネリストが並んだ。

まず、ディスカッションに先駆けて、これまでの活動を最初に紹介したのは廣瀬俊朗氏。同氏は元ラグビー日本代表キャプテンとして2016年まで現役を続けると、引退後は株式会社HiRAKUを設立し代表取締役に就任。また、一般社団法人スポーツを止めるな共同代表理事、APOLLO PROJECT専務理事も務めている。

廣瀬氏は2020年、コロナ禍で試合ができなくなってしまい進路に悩む高校生ラグビープレーヤーのために、SNSなどで自らのプレーを投稿する #ラグビーを止めるな を支援。これが各競技に広がり #スポーツを止めるな というムーブメントに発展した。

「スポーツを止めるなで手掛けている『HANDS UP』というアプリは、新型コロナウイルスの影響でスポーツの大会が中止になり、スカウトにアピールする機会を失った学生アスリートが自らのプレー動画などを投稿して、大学チームや組織とのやりとりを可能にするプラットフォームです。

同じく新型コロナの影響で試合ができずに引退した選手のために、彼らの思い出の試合にトップ選手の実況をつける『青春の宝プロジェクト』や、トップアスリートが出張講演し、生徒たちの生きる力を養う教育プログラムも企画してきました。

他にも、女性のパフォーマンスをあげるために生理についてもっと理解を深める『1252プロジェクト』なども始めました。今までにない形で社会問題の解決を実現できればと思っています」

地域ファンの心の拠り所になるクラブに

石川直宏氏:横浜F・マリノス、FC東京でプレーし日本代表にも選出。引退後の2018年、FC東京クラブコミュニケーターに就任

廣瀬氏と同じ年の生まれで、一年遅れで現役を引退したのが石川直宏氏。横浜F・マリノスで2年、FC東京で16年にわたってプレーした後に現役を引退。2018年からはFC東京のクラブコミュニケーターに就任し、地域密着と社会貢献にチームをあげて取り組んでいる。同氏はその目指す先と、活動事例を述べた。

「FC東京は2023年に向けて『LIFE with F.C.TOKYO~FC東京がある日常を~』というビジョンを掲げ、クラブが人々の心の拠り所になることを目指しています。例えば、多摩少年院で院内サッカー教室・院外学習を行っています。サッカーをプレーしたり、チームスタッフの手伝いをすることを通じて、相手へのリスペクトや仕事へのやりがいを感じてもらうためです。

また、小児医療病棟への選手の訪問も行っています。訪問自体が選手のやりがいになりますし、実際に会った選手が活躍している姿を見てもらい、子どもたちが頑張るきっかけになったらいいなと」

トップアスリートの価値は、単にプレーすることや試合の勝ち負けだけではない。プレーを通じてファンやサポーター、そして社会全体に影響を与えていくことにもある。

石川氏は現役時代を振り返って、次のようにも話した。

「ずっと自分のためにプレーしていたんですけど、あるときに自分だけのサッカー人生ではなくなった。このことに気づくことができれば、また違った形でスポーツの喜びを届けられる」

「渋谷に根付いていきたい」

酒井泰滋氏:元バスケットボール日本代表で、現在サンロッカーズ渋谷チームアンバサダー。株式会社日立製作所に勤務しながらバスケットボールの普及に努める

FC東京と同様に東京に本拠地を構え、より都心の渋谷に位置するBリーグのサンロッカーズ渋谷。前身の日立サンロッカーズ東京(当時)時代から9シーズンにわたりチームに所属し、引退後2016年からチームアンバサダーに就任した酒井泰滋氏も、地域の人々との関わりに触れた。

その取り組みは、子どもから親世代、そして障がいを持った方々までを対象とするなど幅広い。

「サンロッカーズでは、渋谷区の中学生が学校の垣根を越えてバスケで交流できる『チームしぶや』という活動をしています。また、選手自身がオリジナルTシャツの売上金を寄付し、自粛で負担の増えた親御さんや飲食店をサポートする『しぶやこどもごはんプロジェクト』に参画しました。

『SHIBUYA COFFEE PROJECT』という渋谷でコーヒーを通じて社会貢献するプロジェクトも行っていて、これは病気や障がいを持った方々の社会参加を促すことにもつながっています。その他どのプロジェクトも、その背景にあるのは『渋谷区に根付きたい』という想いなんです」

地域課題というと地方都市が論じられがちだが、都会には都会の課題がある。SHIBUYA COFFEE PROJECTは渋谷区が100%出資する渋谷サービス公社が主導するが、区政や区民へのサービスと密に連携をとっていくことがチームにも求められる。

スポーツを持続可能にしていく取り組み

東俊介氏:元ハンドボール日本代表。現在株式会社当たるんですマーケティング取締役

スポーツを通した社会活動、地域貢献活動を続けていくためには、スポーツ団体の経営、事業自体が盤石でなければならない。この点について示唆を与えながら、自らの活動を最後に紹介したのが東俊介氏だ。

同氏は2009年に現役引退後、早稲田大学大学院でスポーツマネジメントを学び、日本ハンドボールリーグのマーケティング部新設に尽力。現在、株式会社当たるんですマーケティングで取締役を務める。

公営競技の仕組みを活用したくじを展開する同社を通じて、改めて重要性を感じるのは「ファンの力」だという。

「『当たるんですマーケティング』が扱っているくじの元になっているのは、公営競技のオートレースです。売上は当選者への払戻金のほか、地方の財政や社会福祉に役立てられています。コロナ禍の今は、スポーツに人々が熱中してそこにスポンサーがつくという形態がとれなくなった面があります。クラウドファンディングやギフティングも実施されていますが、長く続くかは分かりません。

このような中、ワクワク感のある『くじ』を提供することで、持続可能な財源を確保できると考えています。チームにおける新たな収益基盤にもなりますし、外れ番号でもグッズが当たるといった仕組みを用意すれば、プロモーションとしても活用できます」

この発想は、どのスポーツにも応用できるというのが同氏の見方だ。ハンドボールを例に、その可能性を説く。

「ハンドボールは企業スポーツなので、強いチームでも(企業の経営次第で)無くなる可能性があります。というのも、スポーツは企業にとってが費用対効果が見えにくい部分があるからです。一方、僕はスポーツの持つ1番の強みは『応援される力』だと思うんです。でも、多くのチームでスタジアムのVIPルームが整備されていないなど、(応援するために)『お金を出したい』と思っている方々のニーズに合った商品を持っていません。ですから、このくじをその商品として機能させたいと思ったんです」

スポーツを通して、社会課題を「自分ゴト」に 

続くディスカッションでは、スポーツが社会課題の解決をどう進められるかに焦点を当てて議論が展開された。各登壇者から闊達な意見が飛び交う。

「企業がSDGsに取り組んでいることを前面に出すようになった反面、社会課題を解決するのは自分ではなく国・企業の役割だと考える人が多くなった気がします。それに対して、スポーツは、その『発信力』で社会課題をより身近に感じさせることができる」

酒井氏はこう切り出すと、その「発信力」を得るのは、何もピッチやコートの上だけではないと強調する。プロスポーツに求められるのは、「勝ち負け」だけではない価値だという。

「やっぱりアスリートって勝つことを強く考えてしまうんですよね。でも、今求められているのはそれだけじゃないという意識を醸成したい」(酒井氏)

これには東氏と廣瀬氏も深く頷く。チームが強い。試合に勝つ。これ以外の軸が必要だと話す。

「実は、あんまり勝つことって重要じゃないんですよね。子どもの運動会じゃないですけど、競技力や勝ち負けは置いておいて、『応援したい』と思ってもらうことが重要です。この『好き』になってもらう要素の1つに『強さ』がある」(東氏)

「アスリートの価値として、強さ以外にもう1つの軸が必要になりつつありますよね。企業も同じで、売上があればいいという時代じゃない。この軸をどう作るのかが、これからの時代で生き残るには重要です」(廣瀬氏)

石川氏はクラブで地域活動に取り組む経験から、その「軸」を形作るためのアプローチを紹介した。

「僕も、社会問題に取り組む中でFC東京という名前を知ってもらって、それがたまたまサッカーチームだったというプロセスでもいいと思っています。もう1つの軸の取り組みが、社会にもサッカー界にも還元するので。

その中で僕は、『足を運ぶ』を大事にしています。間接的に聞くのと、その場の空気を感じるのではわけが違うからです。その場の状況を見て、起きている問題を自分ゴトにする意識を、僕はサッカーを通じて学びました。多くの方々に、そのマインドを持っていただきたいと思いますね」

アスリート自身が、社会課題に向き合っていく

社会課題は、国や企業だけではなく一人ひとりが向き合ってこそ解決できる。これを身近なところから伝えられるのが、スポーツの役割だ。この役割を果たすには、アスリートやそれを取り巻く環境が変わらなければいけないとも、廣瀬氏は指摘した。

「アスリートには『こういうことをやりたい』という想いがあっても、それを言語化、具現化するのが得意でないことがある。そのためにコーチングやサポートができる体制があるといいと思います。そうすれば、アスリートが引退後も価値を保てるんじゃないかと。きらぼし銀行さんみたいに、アスリートを広告塔ではなくパートナーとして捉えて、一緒に何かをやろうという姿勢は面白いですよね」

同氏は、きらぼし銀行も支援するAPOLLO PROJECTで取り組む「A-MAP(アスリート・マインドセット・アポロ・プログラム)」を例に出して続ける。今年2月に開講したA-MAPでは、現役・引退選手問わず現在11名のアスリートが学ぶ。

僕が今取り組んできる『A-MAP』は、アスリートのマインドセットを醸成していこうという思いでやっていて、アスリート自身に何をやりたいのか見出してもらうプログラムになっています」

廣瀬氏がこう話すと、酒井氏と東氏も同調して、アスリートに熱いメッセージを送った。

「アスリートは、現役中はプレーに集中しがちで、引退してか学びの必要性に気づくんです。その気づきを現役のうちにできる取り組みができれば、もっとスポーツ界は発展していく」(酒井氏)

「『アスリートは競技に集中しろ』と指導者は言いますが、競技だけで成功できるのはほんのひと握り。であれば、社会課題解決のためにいろんな世界を見て、挑戦してほしい。アスリートとして養ってきた力を、社会に活かしてほしいですね」(東氏)

アスリートや選手を取り巻くスポーツ界、そして企業が連携し、アスリートの価値を再発見し、社会に役立てていく――。その様子がまさに見られたディスカッションイベントとなった。


イベントの模様を収めた動画はこちらから。

■きらぼし銀行 動画ライブラリ

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