V・ファーレン長崎の「長崎スタジアムシティプロジェクト」も――プロスポーツで進む「スタジアムを中心とした街づくり」

ジャパネットホールディングスが昨年発表した地域創生プロジェクトについて、V・ファーレン長崎の新たな本拠地となるスタジアムのデザイン案が発表。スタジアムを核としたまちづくりが進められている。

V・ファーレン長崎の新スタジアムと周辺施設 2023年開業目指す

V. Fahren Nagasaki
Nagasaki
Isahaya
V・ファーレン長崎は長崎市、諫早市を中心とする長崎県全県をホームタウンとする。画像=Yevgen Belich / Shutterstock.com

サッカーJ2リーグに所属するV・ファーレン長崎の親会社である株式会社ジャパネットホールディングスが、新たな本拠地となるスタジアムを中心に、オフィス、商業施設、ホテル、マンションなど、複合的な機能を持った民間主導のまちづくり構想「長崎スタジアムシティプロジェクト」を発表したのが昨年。

そして、この6月には、プロジェクトの戦略・企画から現場運用までを担う新たな事業会社「株式会社リージョナルクリエーション長崎」の設立を発表した。この狙いについて同社は、「今あるジャパネットグループ各社の中に役割を持たせず新たに会社を設立することで、通信販売事業とスポーツ・地域創生事業のやるべきことを明確にし、それぞれが専門性を持つことによって、品質・スピードを高めます」としている。

長崎スタジアムシティは、「スタジアムを核とした新しいまちから新しい長崎の風景を作り出す」ことを目標に、2023年4月の開業を目指す。現在は、スタジアムのデザイン案が公開され、一方は解放感溢れるサッカーのスタジアムらしいデザイン、もう一方は平和の象徴であるリング型の商業スペースが特徴的なデザインの2案をベースに検討が進められている。

日本のサッカー界では、2015年にガンバ大阪の吹田スタジアムが竣工して以降、「スタジアムの複合化」に一層注目が集まり、現在では岡田武史氏がオーナーのFC今治(愛媛県)や、株式会社ドーム傘下のいわきFC(福島県)でも、新たなホームスタジアム構想が描かれている。

他方、日本と同様にサッカーが「新興スポーツ」から脱却して定着し、スタジアムとホームタウンの関係性が進化しているのが米国だ。米スポーツ界全体でも、毎年のように新アリーナ、球場、スタジアムが次々と建設されているが、サッカーリーグのMLSでは、街と一体化した構想で作られているスタジアムがある。

米MLSで続々と建設される新スタジアム

Orlando City SC
米オーランド・シティSCのホームスタジアム。画像=Matthew Kaiser 7 / Shutterstock.com

2015年にMLS参入を果たしたフロリダ州のオーランド・シティSCは、参入から2年後にエクスプロリア・スタジアムを新たな本拠地としている。今年7月31日にはスペインのサッカークラブであるアトレティコ・マドリードとMLSオールスターとの一戦が開催された場所だ。

このスタジアムは街からの財政支援を受けずに、個人による資金調達で建設が行われた。収容人数は2万5,500人で、約165億円で建設。財政難に苦しむParramore (パラモーレ)市にとっては固定資産税の税収が大きな救いにもなっている。2017年3月のこけら落とし以降、米国男女の代表試合を開催しており、今年12月にはNCAAアメリカンフットボールの試合開催も予定されている。多くのアウェーファンの来場、さらにはビッグスポーツイベントの招致により、地元での消費増による経済的なインパクトも期待される。

近年のもう一例は、2019年シーズンからMLSに参入したオハイオ州に本拠地を置くFCシンシナティだ。2021年には新スタジアム「ウェスト・エンドスタジアム」への移転が決定している。約2万6,000人の収容人数となる同スタジアムの建設費用は約200億円以上と予想されているが、サッカー専用スタジアムとなることで、CONCACAFゴールドカップやFIFA主催大会を開催する規定もクリアしており、2026年ワールドカップの開催地の候補としても挙がる。

主流になりつつある「地域をスタジアムで活性化」という考え方

MLSはFCシンシナティの参入を決定する際に求めたビジョンがある。それは、インナーシティと呼ばれる貧困層が多い地域を、スタジアムやチームの存在により一変させるということだ。 

これに従って、スタジアムの建設場所はシンシナティの公立高校の土地と交換することで合意することとなった。元々タフト高校のキャンパス内にあった場所に新スタジアム「ウェスト・エンドスタジアム」が建設されることとなり、近くに高校の新スタジアムも合わせて建設される。この地域では多くの住民が地域外の仕事のため長時間の通勤を強いられていたが、スタジアムが完成することで地域に多くの雇用を生むことが期待されている。

このようにMLSでは、新規参入チームによるスタジアム設置を、「貧困からの脱却プロジェクト」として捉える動きも増えてきている。

V・ファーレン長崎の新スタジアムと、それを核とするまちづくり構想は、新しいエンターテイメントを作り出すことで街の魅力を高めて人を呼び込む、地方創生プロジェクトに他ならない。日米で新スタジアム構想の意図はその数だけあるが、まちづくりの一環として位置付けるのは、一つの主流になりつつある考え方とも言える。

◇参照

ジャパネットホールディングス

Cincinnati.com