日本企業で初となるスポンサー契約
「(契約を進めている企業は)日本で大きな存在感を持つブランドであり、国内中に拠点を抱えているため、日本の皆さん、ファンの方々へ(ラ・リーガが)露出していく機会が増えていくと思います」
ラ・リーガの日本駐在員を務めるオクタビ・アノロ氏は、先日HALF TIMEが行った単独取材において力強く断言した。
7月16日、東京都内でその全容が明らかになった。ラ・リーガと日本の大手旅行代理店H.I.S.との間で、2019/20シーズンにおけるオフィシャル・トラベルパートナー契約が結ばれたことが発表されたのである。
記者会見ではH.I.S.の取締役上席執行役員の山野邊淳氏と、ラ・リーガの東南アジア、日本、韓国、オーストラリア地区 プロジェクトマネージャーを務めるイバン・コディナ氏が登壇。パートナーシップ契約の目的を説明している。
山野邊氏によれば、今回のスポンサーシップ契約は、①:一般的には入手が難しいVIPシートを販売することによって、日本の人々に新たな観戦機会を提供すること。②:日本のスポーツ業界関係者やチーム運営者、各企業、ビジネスマンなどを対象に、現地視察などを通じて、ラ・リーガのビジネスモデルを吸収する機会を提供すること。そして③:ラ・リーガが世界各地で主催や共催を行っている大会を、日本国内や日本の周辺でも開催できるように協力を仰ぎながら、日本の子供たちや若い世代の選手が、本場のサッカーに触れられる機会を提供すること。スペインと日本の両国で開催される大会にそれぞれの選手が参加することなどを通して、相互交流とサッカーのレベル向上を目的としたものだという。
H.I.S.は2001年にスポーツ観戦を専門的に取り扱う「スポーツイベントセクション」を設立し、現在は年間約2,000名の顧客に欧州5大リーグの観戦チケットを手配している。中でもスペインは最も伸び率の高い国で、渡航者数は前年比20%増となっている。
一方、コディナ氏は日本において、ラ・リーガのイメージを成長させることが最大の目的の一つであり、その優れたパートナーとしてH.I.S.とパートナーシップを組んだと指摘。と同時にスペインという国が持つサッカー以外の魅力、文化や食事、観光地などにも出会って欲しいと力説した。
法人向けの商品も H.I.S.が目指す「ビジネスに寄与するスポンサーシップ」
今回の発表はスポーツビジネスという観点から捉えた場合にも、きわめて興味深いものだった。
まず注目すべきは、山野邊氏が日本のスポーツ関係者や企業などを対象に、ラ・リーガのビジネスモデルを学ぶ機会も提供したいと明言している点だ。
ラ・リーガとのパートナーシップ締結は、「海外サッカーの観戦ツアー=熱心なサッカーファンを対象にしたイベント」という従来の枠組みやイメージを破ろうとする試みであると同時に、欧州サッカーそのものが一つの事業形態として、ビジネス界でいかに注目を集め始めているかを如実に反映している。
これは転じてH.I.S.をはじめとする旅行代理店業界が、自らのビジネスフィールドや顧客ターゲットを、さらに拡大しようとしていることを示唆する。旅行代理店業界は、単なるスポーツ観戦ツアーや観光ツアーだけでは得られなかった、新たな「バリュー」を本格的に生み出そうと試み始めた。
今回のパートナーシップ締結は、H.I.S.のシステムインテグレーションにも大きなシナジーをもたらすのではないかと推測できる。スマートフォンやウェブサイトなどを通じたファン・エクスペリエンスの向上、すなわちチケットやホテル、航空券などの予約や販売はもとより、各種のアクティビティやアミューズメントの提案、カスタマーコミュニティの形成促進、サービスに対するフィードバックの反映を効率化していくといった試みにおいては、欧州のサッカー界は世界をリードしてきたからだ。
たしかにH.I.S.は、日本の旅行代理店業界においてきわめて意欲的なサービスを展開してきたパイオニアの一つであるが、今後は最新のノウハウをさらに導入できるようになる。
ラ・リーガが目論む「サッカー観戦以上」のファン・エクスペリエンス
似たようなシナジーは、ラ・リーガ側に関しても指摘できる。
むろんラ・リーガにとって今回のパートナーシップ契約の直截的な目標は、現地にサッカー観戦に赴く日本人観光客の数を増やすことになる。
だがコディナ氏が強調したのは、サッカーを通じて、サッカー観戦の枠を超えたエクスペリエンスを幅広い人々に提供することだった。事実コディナ氏は、記者会見後に行った個別インタビューにおいて、私に次のように語ってくれた。
「今回のパートナーシップを通じて、私たちは日本の皆さんにさらに素晴らしいファン・エクスペリエンスを提供できます。そこには当然、文化や社会、スペインの人々との交流も含まれてくる。また今回のパートーナーシップは、アジア全域におけるラ・リーガのプレゼンスを高めるための、きっかけづくりとしての役割も担うことになるでしょう」
「ただし私たちは画一的なマーケティング戦略を展開していくつもりはありません。重要なのはグローバルな戦略に則った上で、各国のマーケットのニーズに併せてしっかりとローカライズを行い、ラ・リーガの魅力を伝えていくことになる。私たちは『グローカル』(グローバル+ローカライズ)という方針を掲げています。H.I.S.との提携は、その一つのステップでもあるのです」