栄光の先に夢見るもの〜トヨタのモータースポーツ戦略#1: 欧州で輝きを増す、トヨタブランド

市販車部門だけでなく、モータースポーツでも世界に君臨するトヨタ。そんな彼らが日本に新たなブームを起こそうとしている。ラリーの現場で人と技術と組織を鍛え、新たなGRブランドを磨き上げていく。「巨人」の戦略とビジョン、そして情熱の源泉を、FIA世界ラリー選手権(WRC)の舞台、フィンランドに探った。

ついに決定、WRC日本ラウンド10年ぶりの復活

「いやあ、今の走りはすごかったんじゃない? あそこをギリギリかすめていったよ!」

2019年8月2日、FIA世界ラリー選手権(WRC)第9戦、ラリー・フィンランド。内陸部の都市、ユバスキュラの公園内に設けられた特設ステージをラリーカーが疾走していくたびに、友山茂樹氏が声をはずませる。顔をほころばせながら周りにいる人々とラリー談義に花を咲かせる姿は、2か月前にル・マン24時間耐久レースで出会った時よりも、はるかにリラックスした印象を与えるものだった。学生時代にラリーにのめり込んだ頃は、こんな笑顔をしょっちゅう浮かべていたに違いない。

とはいえ友山氏は、むろんノスタルジーに浸っていたわけではない。眼前で繰り広げられるレースを楽しみつつも、頭からは自らが手掛ける様々なプロジェクトのことが一時も離れなかったはずだ。氏は日本が世界に誇る最大手の自動車会社、トヨタの副社長にして、TOYOTA GAZOO Racingカンパニー(TGR)を束ねるキーマンでもある。

現に9月27日には、来年、約10年ぶりにWRCの日本ラウンドが開催されることが正式に決定している。 また今月11月7日からは、セントラルラリー愛知・岐阜2019も開幕。TGR はWEC(世界耐久選手権)とWRCの両カテゴリーに参戦。数々のタイトルを獲得してきたが、今後は日本にラリー人気を定着させるという新たな目標に挑んでいくことになる。

これはある意味では、レースで結果を出すことよりも骨の折れる作業かもしれない。レースでは、他のチームとの競争に打ち勝てばトロフィーを手にできる。しかしTGRが掴もうとしているのは、日本の一般大衆の「心」だからだ。

ラリー・フィンランドの特設ステージで、レースを見守る友山 茂樹氏。
氏はトヨタ自動車株式会社の副社長にして、TGRのプレジデントも務めている。

トヨタがモータースポーツの現場で推進する、マネジメント改革

WRCは、ル・マン24時間耐久レースに象徴されるWECとは、かなり様相を異にする。まず指摘できるのは、レースそのもののフォーマットだ。

WECがサーキットで行われるのに対して、WRCは公道で開催される。マシンもWECではレーシングハイブリッドシステムを搭載したプロトタイプのレーシングカー、TS-050が使用されてきたが、WRCの場合は市販車のトヨタ・ヤリス(ヴィッツ)に、高出力のターボエンジンを搭載したラリーカーが使用される。

このような違いは、レースそのものの社会的イメージの相違にもつながる。WRCはファンベースの面でも「大衆のレース」として親しまれてきた。ラリーには独特な雰囲気がありますね?と水を向けると、友山氏は何度も首肯した。

「非常に身近に感じることができますよね。地元の方が普段利用されているクルマで、地元の道をすごいスピードで走ってくるわけですから、草の根的な雰囲気があるんです。ピットも目の前で見られますし。青空の下でメカニックがパーツを交換していく形になる。身近なところで世界最高のレースが行われることは、ラリーの魅力だと思います」

友山氏は、WRCがトヨタに与える影響にも言及している。

「マシンを改善して、テストをして、再びレースに挑戦してというサイクルをどんどん繰り返していく。トヨタが3年間かけてやるような車両開発を、1年間でやっていることになるんです。

それを実現するためには、組織に壁があってはいけない。通常は車体やエンジン、電気系と各部門が分かれていて、さらにはマーケティング部門や品質保証、テストを担当する部門がそれぞれの仕事を担当していくわけですが、WRCの場合はそんな悠長なことを言っている暇はないので、チーム全体が団結してあらゆる作業を一気にやっていくんです。

ただし見方を変えれば、かつてのクルマづくりというものはそういうものだったと思うんですね。(自動車産業は)だんだん組織が大きくなって、今のような分業制になったんですが、もう一回クルマ作りの原点に返るという点では、気付かされる部分も多い。エンジニアやメカニックだけでなく、私たちマネジメントサイドにとってもです」

ラリーは国技、フィンランドで成功を収め続けるブランディング戦略

WRCの活動は、欧州におけるマーケティングにも直截的な影響を及ぼしてきた。フィンランド中部で複数の販売店を経営するトヨタの現地ディーラーは、誇らしげに胸を張る。

「もともとカローラやプリウスなどをはじめとするトヨタ車は、この国の消費者からも高く評価され、トップクラスのシェアを維持してきました。しかしWRCに参戦してからは、さらにトヨタブランドが認知されるようになった。TGRが圧倒的な強さを誇っていることは、ブランディングや市販車のマーケティングにおいて、強力な牽引役になっていますね」

数多くの名ドライバーを輩出してきたフィンランドでは、ラリーは国技とも言えるスポーツとして親しまれてきた。ましてやTGRのラリーチームを束ねているのは、地元が産んだラリー界のレジェンド、トミ・マキネンである。

TGRは、ラリー・フィンランドで2017年から2連勝。昨年はマニュファクチャラー(マシンやエンジンを提供するチーム)として年間優勝を収めた。母国の英雄が率いるチームが国民的なスポーツで絶対的な強さを誇っているとなれば、トヨタブランドに対する思い入れは必然的に強くなる。

象徴的なのは、ラリー・フィンランドのメイン会場にトヨタが掲げた巨大なバナーだ。そこに描かれたのは「WELCOME TO MY HOME ROADS」の文字である。直訳すれば「我々の故郷の道へようこそ」となるが、「ここは自分たちの砦」だという強い決意表明としても解釈できる。

事実、WRCの開催期間中も、各地に設けられたSS(タイムアタックを行うスペシャルステージ)で目についたのは、老若男女を問わずに数多くの人がちぎれんばかりにふるTGRの旗の多さだった。カメラを手にして歩いている時に、「ヤパニ!(日本人)」と親しげに声をかけられることも一度や二度ではなかった。トヨタはラリーという競技そのもののと不可分の存在として、しっかりと根を下ろしている。

(TOP写真提供=TOYOTA GAZOO Racing)


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