栄光の先に夢見るもの〜トヨタのモータースポーツ戦略#4: 第2の「ホームカントリー」と、クルマの未来を創るために

市販車部門だけでなく、モータースポーツでも世界に君臨するトヨタ。そんな彼らが日本に新たなブームを起こそうとしている。ラリーの現場で人と技術と組織を鍛え、新たなGRブランドを磨き上げていく。「巨人」の戦略とビジョン、そして情熱の源泉を、FIA世界ラリー選手権(WRC)の舞台、フィンランドに探った。

前回記事:#3 ラリー文化を、いかに日本で醸成するか

クルマの存在価値と魅力を、現代社会で新たに定義する試み

こちらの目をまっすぐ見据え、一生懸命に答えを探しながら誠実に自らの考えと熱い思いを語ろうとする。勝田貴元選手の姿を見ていると、日本の新しいラリーブームは、こんなところからも萌芽していくということがよくわかる。

ただしラリーファンを醸成するためには、最後のピースも埋めていかなければならない。それは「ソフトウェア」――クルマを愛し、モータースポーツそのものに親しむようなカルチャーの醸成である。

たしかにGRブランド(TOYOTA GAZOO Racing:TGR の名を冠したスポーツカー)自体は、時間の経過と共に熟成していくだろう。TGRを率いる友山茂樹氏はもとより、トヨタ自動車の社長である豊田章男氏、マシンやエンジンの開発に携わる多くのスタッフ、各ドライバーたちを巡る人間くさいドラマ、あるいはモータースポーツの現場で栄冠を手にしていくまでの感動的なストーリーは、ブランドに年輪のごとき魅力を与えていくはずだ。

だが彼らが目指しているのは、GRブランドだけのブランディングではない。日本でラリーが親しまれるようになるためには、大衆がクルマを愛し、モータースポーツそのものに親しむようなカルチャーを醸成することが不可欠になる。それは「自動車というプロダクトをブランディングしていく」という壮大な試みに他ならない。

若者のクルマ離れが囁かれ、自動運転技術やオンデマンド配車などが注目される21世紀において、自動車というプロダクト自体の魅力や存在意義を、いかに定義しようとしているのだろうか。友山氏はフィンランド滞在中、思いの丈をじっくりと語ってくれた。

「我々が担っている使命とは、もちろん単純にモータースポーツで勝つことだけではないし、働き方の改革だけでもない。やはり将来、トヨタ自動車が目指すべきクルマづくりのあり方を、ひとつの形として具現化していく使命も持っているんです。  

その具体的な方法が、自動車作りの変革を目指すこのTGRであり、自動車ビジネスの変革を目指すコネクティッド(デジタル技術を駆使した、総合的なソリューション提供事業)になる。

クルマというものは、その時代時代に合った形に変化していかなければいけない。もちろん事故を起こしていけないし、人を傷つけてもいけない。空気を汚してもいけません。そういった課題には(自動運転やオンデマンド配車などの)技術の進化が追いついてくるはずです。

しかし同時に、我々人間には生まれたときから、より遠くに、より速く、より美しく移動したいという本能的な欲求もある。その欲求を満たしてくれる自動車という道具には、どこか非常にいとおしくて、心ときめくような感情が湧き上がるはずなんです。

私たちは工業製品の中で『愛』という単語がつくのは自動車だけだとよく言うんですが、まさに『愛車』という言葉に象徴されるように、車はいつの時代にも楽しくて、愛着のわく存在でなければならない。その愛すべき部分や心を揺さぶる部分が消えて単なるコモディティー化(日用品化)しまったら、トヨタ自動車の未来はない。おそらく自動車メーカー全体の未来もなくなってしまうことになる。  

実際、(豊田章男)社長は、自動車が白モノ家電のようになっていくのではないかという強烈な危機感を持っていると思います。そういったことを、もう一回クルマ作りの原点に立って考えられるのが、このモータースポーツだと思うんです」

二つ目のホームタウンとクルマの未来を創るために。

8月4日、4日間に及ぶ長いレースが終わった。

TGRではエストニア出身のタナックが1位、地元出身のラトバラが3位に入賞し、ラリー・フィンランドで3連覇を飾っている。

シャンパンファイトが終わった後、友山氏はチームスタッフと共に表彰台で受け取ったシャーレ(優勝盾)を誇らしげに持ちながら、即席の囲み取材に応じてくれた。

――今の率直な気持ちから教えて下さい。

「何度聞いても、君が代がこういう世界の頂点のレースで聞こえるというのは、日本人としても嬉しいし、日本のメーカーとしても嬉しいですよね。

ホンダさんがF1で頑張っているので、うちもWRCやWECで頑張って、日本のメーカーが世界の頂点のモータースポーツで通用する、通用するどころか勝つんだということを、もっともっと日本の皆さんに伝えていきたいですね」

――表彰式にはすごく多くの観客が集まっていました。日本でラリーを開催し、同じように日本人のお客さんが集まってくれたらと、思われたんじゃないですか? 

「思いますよね。TGRとエストニアやフィンランドのフラッグに日本の国旗が混ざってきたら、すごく感動しますよね」

写真提供=TOYOTA GAZOO Racing 中央は優勝を飾ったオィット・タナック

――友山さんの後ろ側には、「ホームタウン・ヒーロー」というバナーが見えます。このフィンランドと同じ状況を日本で作ることが、次の目的になると? 

「ええ、ここはまさにホームタウンであり、TGRラリーチームのホームカントリーであるんですけど、来年、日本でWRCジャパンが開催されるようになると、うちは二つのホームタウンとホームカントリーを持つことになります。これはとても嬉しいことですし、それが欧州と日本の橋をかけることにも通じていけば、ありがたいですよね」

――改めて勝因を、どう分析されていますか。

「やはりチームワークです。いろんな意味でドライバー、メカニック、エンジニアが一体となって活動するところに、僕のような経営の人間も関わっていくことがうちの強さだと思います」

――レースの現場で人を鍛え、組織を鍛え、クルマを鍛える。そして結束力で勝負するというのはル・マンなどのWECと同じだと思いますが、WRCだけが持つ意義とは? 

「WRCはやはり勝ち続ける事が重要になるし、勝たないといけない。これは経営上の重要課題であるということが言えると思いますね。TGRが掲げるモータースポーツの理想を証明し、ファンの皆さんの期待に応える。そしてWRC自体を盛り上げるためにも、我々が勝ち続けるのは、非常に重要になってきたと思います」

――TGRはチャレンジャーとしてではなく、チャンピオンとしてWRCを戦い続けていく。

「そうですね。そこにまたシトロエンやヒュンダイが一緒に加わって競い合っていく。こういう状況がモータースポーツを盛り上げるだけではなくて、クルマづくりやクルマのある社会を盛り上げることに通じていけば、すごく嬉しいですね」

慌ただしい囲み取材が終わり、友山氏が写真撮影に応じる。

北欧の夏の低い太陽がシャーレに反射して、顔を明るく照らし出す。おそらく心の中でさらなる手応えと確信、そして将来への希望が膨らんだのだろう。その笑顔は2日前に特設ステージで再開した時よりもさらに力強く、そしてまばゆく輝いているように見えた。

(TOP写真提供=TOYOTA GAZOO Racing)


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