1部・2部入れ替え戦中止から代替開催へ。揺れたVリーグ、統括団体がすべきだったこととは?

バレーボール男子Vリーグでは、チャレンジマッチ(入れ替え戦)の中止が月初に発表された後、代替開催されることが4月19日に決まった。約半月にわたり関係者、ファン・サポーターが振り回された一連の事態について、Vリーグ機構の対応は正しかったのか?事の経緯と、必要だった対応についてチーム当事者とリーグ運営の専門家に聞いた。(取材・文=大塚淳史)

1部・2部入れ替え戦、中止から代替開催へ

新型コロナウイルスの感染者が出て中止になっていた、バレーボール男子Vリーグのチャレンジマッチ(入れ替え戦)大分三好ヴァイセアドラー(V1リーグ10位)対ヴォレアス北海道(V2リーグ2位)の代替開催が、5月4日と5日に三重県営サンアリーナで無観客で行われる。4月19日のVリーグの運営会議で決まった。

当初は、4月3日と4日に千葉県のふなばしアリーナで行われる予定だったが、4月1日に大分三好ヴァイセアドラーの選手や関係者から感染者が出たことにより急遽中止になった。そこから、4月19日に代替開催が正式に発表されるまで、半月以上にわたって、このまま中止にするのか、日を改めて開催するのか不明瞭な状況が続いていた。当該チームやバレーファンがやきもきし続け、一部ファンからはSNS上で関係者や選手に対し揶揄するような投稿まで出てくるなどの事態も見受けられた。

コロナ禍で感染者が出ることは仕方のないこと。ただ、今回の一連の経緯を見ると、リーグを統括する一般社団法人日本バレーボールリーグ機構(以下、Vリーグ機構)の進め方が稚拙に見えた。重大な案件にもかかわらずVリーグ機構からの情報発信自体が少なく、決議プロセスもなかなか表には出てこない。少なくともファンは置いてきぼりだった。

約半月にわたり「公式発表なし」

中止から代替開催決定までの流れは次の通りだ。

4月1日にチャレンジマッチ出場チームである大分三好ヴァイセアドラーの選手や関係者から感染者が出て(最終的に計7人が感染)、急遽チャレンジマッチを中止としたことが、Vリーグの公式ホームページやSNS等でアナウンスされた。

ヴォレアス北海道の関係者にVリーグ機構から電話があったのは、試合会場の千葉県に向かう選手たちが旭川空港でサポーターから壮行されて、まさにチェックインをし始めた頃だった。急きょ千葉行きをキャンセルすることになった。

Vリーグ機構は中止の発表をしたものの、その後、チームへの連絡や公式アナウンスはなかった。4月2日、3日は、プレーオフのファイナル3とファイナル(決勝戦)が行われ、試合会場には嶋岡健治会長がおり、記者たちも集まっていた。しかし、チャレンジマッチに関する説明を聞くことはなかった。

協議が始まったのは4月6日から。その数日間内に毎月定例の運営会議(代表幹事会)や、両チームとVリーグ機構の事務方を交えた話し合いが数度行われた。その段階で基本的には「チャレンジマッチ開催」の方向に固まりつつあったが、要望や条件等で折り合わない点があり協議が続いた。ここでの一連の動きは表向きに発信されることがなく、ファンの不安だけは高まっていった。

(※ 運営会議:Vリーグ機構に加盟しているチームなどからなる会議で、基本的にはリーグ運営について話し合われ、毎月1回行われる)

ファンの疑念を生んだ、ミスコミュニケーション

ファンをさらに不安にする発信もVリーグ機構からあった。4月12日にVリーグがチャレンジマッチのチケットの払い戻しについての案内を発表したのだ。ファンからすれば代替開催の有無がハッキリしない中で、チケットの払い戻しについてアナウンスされたことで、「これはチャレンジマッチを開催せずに中止するということか?」と疑念を生むことになった。

さすがに、程なくしてVリーグのTwitterで「こちらの発表は、4月3日、4日に予定されていた、船橋でのV・チャレンジマッチの払い戻しに関する御案内となります。2021-22入替戦開催に関しましては、現在協議中の為、いましばらくお待ちいただきますようお願い申し上げます」と追記。結果的に、ようやく公に「中止決定ではなく、協議中」ということが明らかとなり、ファンの疑念も拭い去られた。しかしこの時点で、4月1日の中止発表から既に11日が経過していた。

そこからさらに協議が行われ、4月16日にVリーグが「本大会に関しまして、現在、当該チームを含めて調整を行っており、4月19日にその対応を発表させていただく予定です」とホームページ上で公表。19日夕方から行われた臨時の運営会議で決議され、チャレンジマッチの代替開催が正式に決定した。

2年連続の中止。ヴォレアス北海道によぎった悪夢

ヴォレアス北海道がチャレンジマッチ中止の一報を耳にしたのは、旭川空港から移動するまさにその日だった。
写真提供=ヴォレアス北海道

今回の動向がより注目を浴びたのは、2年連続の事態だったからだ。昨シーズン、新型コロナによりチャレンジマッチが中止になり、代替日程も考慮されることなくVリーグ機構は昇格・降格無しを決めた。その当事者チームの一つが、ヴォレアス北海道だった。

目の前にあったV1昇格の初めての挑戦権が突然消え去り、V2残留が決定したのが昨シーズン。ヴォレアス北海道の池田憲士郎社長は、今回、旭川空港で4月1日の中止の一報を聞いた時の心境をこう明かす。

「去年の経験があるから動じてはなかったんですが、頭によぎったのは去年のように(入れ替え戦そのものの)中止になり、残留になるのかなと不安になりました。とにかく話し合いをさせてくれとチームのGMと共にリーグへ要望しました」

一方、大分三好ヴァイセアドラーは、感染者の入院、濃厚接触者の自宅隔離という状況になり、関係者はこう嘆いていた。

「チャレンジマッチに向けて準備していた中でこういうことが起こった。(2週間の)隔離期間を終えた15日から(感染者ではない濃厚接触者だった)選手は練習できるが、個別の練習で、時間を区切ってやってくださいと保健所から言われていて、チーム練習もままならない」

昨年とやや状況が異なったのは、「流石に2年連続中止はどうなのか」という声がVリーグの他チームから当初から出て、また、SNSを通じて他のスポーツ団体関係者からの声も前回以上に大きくなり、Vリーグ機構の判断がより注目されていたことだろう。

協議を慎重に重ねて、最後は4月19日の運営会議で決議を取り、嶋岡会長の一任で代替開催が決定された。

やるべきことは、迅速な決定とアナウンス

代替開催が決まったとはいえ、決定するまでに半月以上も時間を要した点は疑問に感じられる。また、ファンなど外向けの情報発信が10日間(4月2日から11日)も無かったことも然りだ。

リーグを統括する団体であるVリーグ機構がすべきことは何だったのか?バスケットボールBリーグの前チェアマンであり、現在びわこ成蹊スポーツ大学の副学長で、日本オリンピック委員会(JOC)の理事も務める大河正明氏に話を聞くと、次の点を指摘してくれた。

「こういうケースでは早い段階で代替日を決めて宣言、アナウンスをするのが当然だと思います。1部と2部は(収入など)天地ほどの差が生じてしまうこともあるし、しかも2年連続ということもあった。入れ替え戦の取り扱いをどうするのか、どういう議論をしているのか、どういう風にトップとして考えているのかをアナウンスするべきでした」

筆者は普段、JリーグやBリーグも取材しているが、コロナ禍においては定例会見だけでなく臨時の会見もしばしば行っている。特に重要な局面では、Jリーグの村井満チェアマン、Bリーグの島田慎二チェアマンや前任の大河氏も、リーグの代表としてマスコミの前に立って対応し、自らの口で丁寧に説明している。

リーグやチームの会見で、記者との質疑応答を通じて不明瞭な部分がクリアにされ、ファンやサポーターに情報が伝えられていき、安心感を与える。また、スポンサー企業からも信頼感を得られるだろう。

プロアマ混在のVリーグ。揃わない足並み

前Bリーグチェアマンの大河正明氏。見出しの写真にもある通り、Vリーグ機構の嶋岡健治代表理事会長とは2019年のスポーツビジネス産業展でも意見を交えていた。いずれも筆者撮影

ただ、Vリーグが両者と決定的に違うのが、現状はプロアマ混在リーグである点だ。ヴォレアス北海道はプロスポーツチームとして運営されているが、多くのチームでは実業団チームとして企業の福利厚生の一環となっている。チーム運営の向き合い方がどうしても異なる。

数年前から一部実業団チームからは変化の動きが出ているが、リーグとしての実情はプロリーグではない。

「運営法人を持って選手と契約している(プロチームの)場合、会社自体の業績に直結するから(試合開催に)必死になります。ただ、会社の一部だとすると、例えば『遠征費を払わなくなるのでいいよね』という話にもなるので、考えている次元が変わる。コロナの時では足並みを揃えづらくなります」(大河氏)

プロチームであるヴォレアス北海道の場合、プロ契約をしている選手たちは、4月頭、4月下旬、5月上旬で契約終了期間が異なっていた。つまり、チャレンジマッチの日程次第では追加の人件費がかかる可能性が生じる。資金力が潤沢なプロチームならまだしも、5年目を迎えたばかりの地方チーム・ヴォレアス北海道にとっては大きな問題になる。プロチームと実業団チームはそもそもの条件や土俵が異なってくるのだ。

こういった複数チームが関わる案件で、リーグ統括団体がなぜ責任を持って動かないといけないのか。それは、利害関係が働くからだと大河氏はいう。

「チームはそれぞれの事情やスケジュール感があり、コロナ感染からの復帰具合をリーグに報告すればいいと思います。ただ、チーム同士を入れて話し合いをするだけではリーグの体をなしません。(各チームの代表が参加する運営会議は)クラブの権益代表が出てくるから、日程や大会方式など利害がどうしても相反する。意見を聞くのはいいが、決めるのは理事会で決めないといけない。ガバナンスそのものです」

有事は「臨機応変に。朝令暮改でもいい」

大河氏は、その過程を発信していくことも同様に大切だという。

「緊急で理事会を開いて、入れ替え戦をいつまでにやるのか、やらないのか。どういった議論がされたのか。少なくともバレーボール関係者にはホットイシューですから、きちんと会見すべきでした。

コロナのような予期せぬ事は、臨機応変に、ある時は朝令暮改でもいい。ケースバイケースで、理事会の一任を取り付けた決断でも良いと思います。それくらいの機動を持ってやった方が良かったでしょう」

勿論、Vリーグ機構もこれまで迅速な対応を怠っていたわけではない。年明けにはリーグ戦でチームから感染者が出て直前に試合が中止になったが、即座に代替開催の可能性についてアナウンスした。その後、日程調整がつかなかったことで代替開催の中止と、それに伴ってリーグ戦のレギュラーシーズン順位をポイント制から勝率へ変更することもすぐに発表した。

判断内容の賛否は別にして、迅速な対応は評価できるだろう。だからこそ、チャレンジマッチに関する初期段階での情報発信の無さ、そしてその後の対応の遅さは余計に不可解に映った。

紆余曲折がありながらも、代替開催は決定した。ヴォレアス北海道と大分三好ヴァイセアドラー、共にコロナ禍の厳しい状況で、練習や試合に向けて再調整していくのは至難だろう。

しかし、まずは舞台を改めて整えることができたのは大きい。Vリーグ機構の事務方スタッフの尽力と、他チームの協力も得られ、2年連続の中止は避けられた。Vリーグ機構の広報は「リーグやチームを含めて皆の賛同を得て、やっていきましょうとなりました」と話す。

大河氏「Vリーグのプロ化、成立するはず」

大河氏は今年1月から3月に社会人向けスポーツビジネス講座で教えていた。その授業で「Vリーグのプロ化は成立するはずという話をしました」という。

「Vリーグはずっと、JリーグやBリーグより潜在的なファンがいます。(過去のオリンピック)金メダルのことを知っている会社役員の方がまだ多くいますし、応援されやすい。それに、ジェンダー平等の時代において、男女が『Vリーグ』と同じネームでやっていて、こんなに売り込みやすいものがない。バスケではありえなかった」(大河氏)

ただ、そういった過去の栄光を知る人たちも既に50代以上で、10年後、20年後にはますます少なくなる。だからこそ、今、Vリーグ機構の舵取りが重要になるという。

「協会はその競技をやってきた人がトップにつく方がいいと思います。子どもから大人まで、男女を含めた統括する団体ですから。しかし、リーグ統括団体は経営そのもの。経営判断が出来る人、事業拡大など将来のビジョンを語れる人を置くことが大切です。もちろん、それがバレーボール関係者の方が良いに越したことはないでしょう」(大河氏)

Vリーグ機構は4月21日に、4月末での嶋岡健治代表理事会長の退任と、國分裕之現副会長が新代表理事会長に就くことを発表した。

全日本空輸(ANA)で執行役員をつとめ、全日空商事で副社長を現任する國分新会長がどのような経営手腕を発揮するのか、注目が集まる。