政府によるスポーツへのIT活用推進
政府は2020年の東京オリンピック、パラリンピックへ向け、スポーツにおいてIT分野を活用しようしています。スポーツ庁によると、「スポーツと他分野の融合は市場拡大に繋がる」とのことで、競技団体が持つデータや権利などを開けたものとし、データを活用することで新ビジネスの創出を促す「スポーツオープンイノベーションプラットフォーム」を形作っている段階だといいます。ではこのIT分野とスポーツが結びつくことによって、具体的にどのようなことになるのでしょうか。
スポーツ×ICT
ICTとは「Information and Communication Technology(情報と通信に関する技術)」のことです。
これをスポーツの分野に導入することで、選手の能力や動きをリアルタイムで測定し、アスリートの強化に繋がる練習メニューを組むことや、観客の楽しみを広げることが可能です。
例えばバレーボールの試合中、監督がタブレット端末を見ながら指示を出していることがありますが、これはコートでの選手の動きをもとにスタッフがリアルタイムでコンピューターにデータを入力し、分析と集計が行われた結果を監督が見て、指示を出しているのです。
また「楽しみを広げる」とは、観客が野球選手の打率や守備範囲などを見ることができたり、フィギュアスケートで選手が成功させた技の名前を知ることができたりなど、観戦する側がそこにいるかのように選手の試合を体感できるということです。
他にも誤審をなくすためのビデオ判定などにも、ICTが活かされています。
スポーツデータ活用タスクフォースの開催
政府はスポーツとICTの融合をテーマにしたワーキンググループ、「2020年に向けた社会全体のICT化推進に関する懇談会」を総務省に設置させ、2017年に「スポーツデータ活用タスクフォース」を開催しています。
これは文字通り「スポーツ分野においてICTをどのように活かすか」に重点を置いた会合であり、日本スポーツアナリスト協会(JSAA)の代表理事の渡辺啓太氏もこの構成員に名を連ねています。
つまり官庁主導でスポーツ分野にICTのデータを活用しようという波が作られているわけですが、果たしてどうなのでしょうか。
スポーツ分野におけるデータ活用のねらいは?
スポーツ分野においてデータ活用を図る目的は、一般的に以下の事柄が挙げられています。
アスリートの支援
アスリートの支援とは、先に述べたように試合中のアスリートのデータを収集し、それをコンピューターに入力、分析して選手の強化に繋がる指示を出したり、強化プログラムを組んだりすることです。
しかし競技中は刻一刻と状況が変わるので、データ分析に基づいて試合前に指示を飛ばしたとしてもそれが通用しなくなる場合があります。
そういった時は試合中に指示を飛ばす必要がありますが、その際には選手が瞬時に理解できる言葉で伝えなければならないと前述の渡辺氏は言っており、普段から選手や監督、選手達とのコミュニケーションをとって、選手のニーズを把握する必要があるとも述べています。
スポーツのエンターテイメント化
もう1つはスポーツのエンターテイメント化。
これも先に述べた通り、選手の試合データや動きの情報を使うことで観客に臨場感を抱いてもらおうとするものです。
これを別の分野にも活かすと、例えば顧客のデータからマーケティング戦略を考えるといった方法にも使えます。
つまりは、顧客の好みや買い物傾向から個人の考え方などが分かるといったことにも繋がるということです。
しかし、あまりにもデータだけを前面に出すと「型にはまった選手」だけが出てきてしまい、個人のプレーの良さやチーム全体の良きあり方を毀損してしまう可能性もあるといえるでしょう。
またデータの表示はファンがその選手の戦歴について、比較検討をしやすくなるという側面があります。
それは良い部分もありますが、昨今SNSが広範囲に普及していることもあって、選手自身のデータを比較し、「あの選手はダメだ」というような非難をする人が出る可能性もないとは言い切れません。
そのため「どの程度ICTを導入するのか」について、慎重に検討したほうがよいといえるのではないでしょうか。
IT活用の具体例
では実際のスポーツの現場において、ITはどのように活用されているのでしょうか。
主に以下の例が挙げられます。
リーバイス・スタジアム
リーバイス・スタジアムはアメリカのシリコンバレーにあるスタジアムであり、「スマートスタジアム」としての異名を持っています。
ここには最新のIT技術が使われており、1万2000のネットワークポートや1200基のWi-Fiアクセスポイントを完備。
観客がスマホで試合のリプレイやゲームのデータ、先発選手の情報などを閲覧でき、客席からドリンクの注文が可能となっています。
Jリーグのスマートスタジアム
Jリーグでは試合中に無料でWi-Fiが使え、スマホでリプレイやスタッツを見ながらの試合観戦、ライブストリーミング配信でスタジアム外からの観戦ができる「スマートスタジアム」構想を掲げ、2017年シーズンより開始、ユアテックスタジアム仙台から導入されています。
スポーツ×ITにおける課題
多額の資金が必要
スポーツにIT分野を導入するとなると多額の資金が必要です。先述のリーバイス・スタジアムのような仕組みを観客に提供するとなった場合、莫大な工事費が掛かります。
スポーツビジネス市場を2025年時点で15兆円にする道筋ができていない
また2016年時点で「スポーツ×ITの市場は2025年に15兆円市場になる」と、国家の成長産業にすることを政府は、「日本再興戦略 2016」において宣言しています。
しかしそのための具体的な道筋は見えておらず、現時点では発展途上のままとしかいえません。
まとめ
このようにスポーツビジネスにおいてITを導入しようという動きはありますが、いまだ発展途上なのが現状です。
これから日本でもどんどんスポーツ業界において、ITの導入が進んでいき、スポーツビジネスを盛り上げてくれることを願っています。
《参考記事一覧》
スポーツ×ITが発展するポイント - NRIの担当者が解説(マイナビニュース)
p03-「スポーツ」×「ICT」で何ができる?(富士通研究所)
15兆円を目指す「スポーツビジネス市場」、未来考察への俯瞰図を見る(ビジネス+IT)
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