2020年、オリンピックが東京で開催されることに伴い、オリンピックレガシーをどうするか、という話題を耳にするようになりました。他国開催のオリンピックではオリンピックレガシーが話題になることはそれほどないため、オリンピックレガシーが一体何を指しているのか、良く分からないという方も中にはいることでしょう。自国東京で開催されることで、人々の関心が向けられているオリンピックレガシー。一体どういうものなのかという概念からオリンピックレガシーの実例、東京オリンピックでの取り組みについて、詳しく見ていきましょう。
レガシーとは?
レガシーとは「遺産、先人の遺物」を意味する言葉です。
時には「時代遅れのもの」を指すこともありますが、本来は「亡くなった人が残した財産」を、そして、派生的に「世代から世代へ受け継ぐモノやコト」を意味します。
日本語では、後者の意味で使われることが多くあります。
オリンピックレガシーとは?
オリンピックレガシーとは、オリンピックを開催するにあたり、作り上げる、またはオリンピックによって生じる有形・無形の次世代へ残すべき遺産を意味します。
オリンピックレガシーは、IOCの憲法であるオリンピック憲章の第1章第2項に、「オリンピック競技大会のよい遺産(レガシー)を、開催都市ならびに開催国に残すことを推進する。」とあるように、IOCが最も力を入れているテーマの一つです。
オリンピックレガシーの概念は「長期にわたるポジティブな影響」ですが、2008年に整理された「オリンピックキューブ」という考え方に基づくと、
①ポジティブかネガティブか
②有形か無形か
③あらかじめ計画したものか、偶発的なものか
で整理されます。
オリンピックレガシーのわかりやすい例としては、目に見える有形の遺産として「新たに作られるオリンピック施設や交通・通信インフラの整備」が、そして、無形の遺産として「スポーツ振興にかける予算やオリンピックを開催することによる経済効果」があります。
これらを整理すると
①スポーツ(施設建設やスポーツ振興)
②社会(世界友好、協力)
③環境(都市の再活性、新エネルギーの創出)
④都市(景観や交通インフラ)
⑤経済(成長)
の5分野への持続的な効果といえるでしょう。
東京オリンピックのレガシーは3本柱
2020東京オリンピックのレガシーは、
- 物理的レガシー
- スポーツのレガシー
- 持続可能なレガシー
の3本柱となっています。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
物理的レガシー
物理的レガシーとしては、オリンピックで建設が進められている施設や選手村をオリンピック終了後にどう活用するかということなどが挙げられますが、東京都では、自動運転車や水素タウンなどによって、新しい社会の創出を掲げています。
また、オリンピックの開催に伴って、外国からの選手や観光客の空の玄関となる羽田空港の国際化や民泊の裁可、ホテルの拡張・総合型リゾートの建設認可なども進行。
地下鉄の無料Wi-fi化など通信インフラの整備や公衆トイレの洋式化など、環境整備も行われています。
スポーツのレガシー
スポーツのレガシーとは、スポーツをすること、そして、観ることへのマインドの向上やスポーツ人口の拡大、健康的なライフスタイルの確立などが挙げられます。
このレガシーへの支援や助成は、将来のオリンピックにおける自国選手の活躍につながっていくでしょう。
また、パラリンピックの開催は、障がい者文化が社会に浸透するきっかけ作りにもなることが期待されます。
持続可能なレガシー
持続可能なレガシーとしては、都市化が進んで緑が少なくなっている街に樹木を植えて緑地を創出したり、植樹による街づくりにつなげて行くというソフトな遺産が挙げられます。
また、オリンピック前後で行われる都市整備によって、都市景観の向上や現知事の選挙公約の一つである電線類の地中化を進めて行きたいとしています。
オリンピックレガシーの実例
オリンピックレガシーの概念や2020東京オリンピックに関わる取り組みについて紹介してきましたが、ここからは、東京と同じように近代化がすでに進んだ都市であるロンドンオリンピックでのレガシーと、1964年に東京で行われたオリンピックでのレガシーについてみていきましょう。
1964年東京オリンピックでのレガシー
1964年に開催された東京オリンピックは、戦争によって焼け野原となった東京の復興と、それに伴う高度経済成長の真っ只中にありました。
オリンピック開催が決まったことをきっかけに、交通インフラが大きく整備され、東海道新幹線や首都高速道路が開通したのです。
オリンピックに伴うスポーツ施設として、丹下健三氏の設計による国立代々木競技場や東京体育館、日本武道館や馬事公苑などが建設されましたが、これらの施設は2020東京オリンピックでも利用されることが決まっています。
当時のオリンピックをきっかけとして、ホテルのユニットバスや選手村での食事提供のための冷凍食品技術、衛星放送の実現やカラーテレビの家庭への普及、ピクトグラムと言われる表示・サインなどが新たな技術・文化的遺産として生まれましたが、これらは今も、進化を続けながら使われています。
2012年ロンドンオリンピックでのレガシー
1964年の東京オリンピックが戦争からの復興を目指した中で行われたオリンピックであったことに対し、すでに近代化され満たされた社会で開催されたオリンピックには、また違ったオリンピックレガシーがあります。
東京と同じような近代都市ロンドンで2012年に開催されたオリンピックは、2020オリンピックのモデルにされるなど、オリンピックレガシーについて示唆するところが多くあります。
ロンドンオリンピックのレガシーとしてまとめられた資料からは、スポーツ・健康生活の分野において、スポーツ選手や学校スポーツへの助成金の増加や運動する一般市民の増加、スポーツでの国際交流の拡大に効果があったとされています。
また、オリンピック会場となった東ロンドン地区は、オリンピック開催前は貧困層が暮らすダウンタウンでしたが、オリンピックパークの建設や施設の整備、交通や住宅の整備と新規雇用の創出によって街の再生がなされました。
経済面では、90万人分の雇用創出によって失業者7万人の雇用創出。
様々な契約の締結と、他国から来た観光客数の増加や観光消費の増加によって、約400億ポンドの経済効果があったとされています。
そして、コミュニティーの分野では、ボランティア参加への意欲が向上し、2013年の新規ボランティア参加者は10万人にのぼりました。
また、パラリンピックの開催では、障がい者スポーツへの参加や助成金の増加、障がい者の利便性向上につながる交通インフラの整備に効果があったとしています。
まとめ
オリンピックレガシーには、「長期にわたる、特にポジティブな影響」として生活の利便性の向上など、人々の暮らしへの良い影響と、次世代に伝える有形無形のプラスの効果も大きいと予想されます。
しかし、その一方で、コンパクトに行うという計画に反して膨れ上がった費用の負担や、作られた施設を次世代で有効活用できるのかどうかという懸念、そして、ホテルの建て替えによる都市環境の破壊や訪日外国人による観光公害、オリンピックでのテロ予防に関する監視社会強化の恐れなど、マイナス面があることも忘れてはなりません。
隠れた負の遺産にも目を向けつつ、大会準備・運営と、大会後のオリンピックレガシーの管理を行なっていくことが今後重要なるでしょう。
(TOP写真提供 = Ron Ellis / Shutterstock.com)
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