海外の映画やドラマなどが先行し、配信・受信の技術やデバイス類の向上により、ここ数年で急速に普及してきた動画配信ビジネス。インターネット経由で配信する動画や音声等のコンテンツやサービス、あるいはそれらを提供する非通信事業者を指して「OTT(Over The Top)」といいますが、通信速度の高速化や決済方法の多様化により、多くのユーザーがOTTサービスを利用できるようになりました。OTTサービスにはどういうものがあるのか、その問題点と将来性をあわせて解説します。
OTTとは
OTTは、もともと、パソコン向けのインターネットサービスを指す言葉として生まれましたが、インターネットが普及し、通信速度の高速化と安定化、ITデバイスの機能向上により、今ではスマートフォンやタブレットなど様々なデバイス向けのサービスも多数開発・提供されています。
OTTのビジネスモデルは、基本的にはOTTサービス事業者が放映権を購入してスポーツコンテンツをインターネット配信し、視聴者が有料対価を払うサブスクリプション(利用制限のない定額制)モデルです。
日本のスポーツ放送は、地上波テレビ局が放映権を購入して放送し、NHKなら受信料、民放であればスポンサーからの広告料で視聴できる、というビジネスモデルです。しかし、このモデルでは、テレビ局側の編成上の都合でライブ放送が途中で打ち切られてしまったり、テレビ局側が放送する試合しか見ることができなかったり、スポーツ競技の放送が野球やゴルフを中心とした一部競技に限られていて、見たい競技が自由に見られない、などの不満がありました。
そこで生まれたのがOTTサービスです。
OTTは、自分が見たい対戦カードを選択し、ライブ放送なら試合開始から終了までの放送を観ることが可能です。
テレビの代替となるスマホの普及により、どこでも気軽に視聴できる環境が整いました。また、デバイスの機能向上によって、自由な場所でライブが見られる、ライブを見られなかった人には見逃し配信で自由な時間に視聴できるようになるなど、視聴の利便性が急速に高まりました。
OTTは、スポーツコンテンツに価値を生み、お金を払って視聴する習慣を視聴者に根付かせる一方で、スポーツ配信側の考え方をスポーツファン・ファーストに転換することになり、視聴者のライフスタイルも大きく変えることになったのです。
スポーツコンテンツを放映するOTTサービスとその利用料
OTTサービスにはさまざまな種類がありますが、今回はその中から主にスポーツ動画を配信する業者のサービスとコンテンツ、利用料について調べました。
ある調査会社の最近の調べで、日本人がよく視聴するスポーツ種目は1位が野球、2位がサッカー、3位以下にはテニス、フィギュアスケート、バレーボールと続きます。
そのうち、サッカーと野球を広くカバーしているのがDAZN、幅広いスポーツ種目をカバーするのがJ SPORTS、テニスの四大大会の全放映権を持つのがWOWOW、そして、プロ野球パ・リーグの試合を2軍の公式試合までほぼ全て網羅し放送するパ・リーグTVと、それぞれのスポーツを得意とするOTTサービスは異なります。
DAZN、J SPORTSオンデマンド、パ・リーグTV、WOWOWメンバーズオンデマンド、Amazonプライムビデオの利用料と主なスポーツコンテンツ、特典は以下の表の通りです。
OTT名 | 利用料(税抜き) 2020年7月現在 | 主なスポーツコンテンツ | 特典など |
DAZN | 1,750円/月 (docomoユーザー980円/月) 19,250円/年* | 国内・海外サッカー 日本プロ野球(広島除く) F1、Bリーグ、トップリーグ、その他 | 初回1ヶ月無料 *2,000円分のクーポン |
J SPORTSオンデマンド | 総合パック:2,400円/月 ジャンルパック:1,800円/月 | サッカー FIFAU-17, U-20女子ワールドカップ、フットサル 日本プロ野球(広島、中日) 実業団都市対抗野球 トップリーグ サイクル・ロードレース、モータースポーツ、WWE、Bリーグ、スケート、バドミントン、卓球、ダンス、クライミング、フィットネス・ボディビル | ジャンルパックのU-25割:980円/月 |
パ・リーグTV | 1,450円/月 球団ファンクラブ会員割:950円/月 1dayチケット:600円 | パ・リーグ6球団全試合(楽天を除く5球団の2軍公式戦も) | |
WOWOWメンバーズオンデマンド | 2,300円/月 | スペインサッカー EURO(欧州選手権) テニス(4大大会他) | 加入月無料 |
Amazonプライムビデオ | 500円/月(税込) 4,900円/年(税込) 学生**:250円/月(税込) 2,400円/年(税込) | スポーツ観戦の場合は、Amazonプライム会員なら、プライムビデオチャンネルにある各スポーツチャンネルの料金を支払うことで鑑賞可能。以下税込。 J SPORTS2,178円/月、ブンデス・ポルトガルLIVE990円/月、GAORA Bros550円/月など | 30日間無料体験 学生**は6ヶ月間無料体験 **学生は大学、大学院、短大、専門学校、高等専門学校に通う生徒。(高校生は入らず。) |
OTTの問題点と将来性
日本のサッカーファンはナショナルチームへの関心は高いものの、Jリーグの試合などへの関心の広がりが足りないという特徴があります。もちろん、Jリーグには「ロイヤルファン」と呼ばれる非常に熱心なファンが存在しチームをサポートしているのですが、さらなるファンの底辺拡大のためには、Jリーグの魅力の底上げ⇒ライトファン(サッカー好きな一般的なファン)の拡大⇒スポンサーなどからの支援⇒選手の知名度アップ・報酬増加の好循環に続けていく必要があります。このことはサッカーに限らず、スポーツ種目全般における課題でしょう。OTT事業者も、ロイヤルファンと並行してスポーツ好きなライトファンの拡大が有料視聴者拡大に重要であることを認識しており、そのための仕掛け作りを考えています。
また、若年層や高年齢層が広がりを持ってスポーツを応援していないという調査結果がありますが、スポーツはライブでの臨場感が観戦の醍醐味です。
若年層は時間に追われ忙しい、そこで若者が手放さないスマホで試合を視聴できるようにすることで、ライブをいつでもどこでも、そして、見逃した際には見逃し配信で視聴できることは、若年視聴者への大きな訴求力になるでしょう。
一方、高年齢層はガラケーからスマホへの移行が十分に進んでいないことから、大きなポテンシャル市場です。高年齢層がガラケーからスマホに移行することで、OTTの動画コンテンツへの関心が高まり、OTTサービスへの加入が増えることが期待されます。
若年層から、高年齢層まで、すべての人に対して訴求でき、ライブ以外の魅力あるコンテンツの充実も、OTT事業者にとって今後の課題となるでしょう。
コロナ感染症により、サッカーや野球の開幕が延期されましたが、それにともない、ライブコンテンツの配信ができない状況になりました。その結果、約3割の視聴者が解約するなど、コロナ感染症によってOTTサービスには多大な影響がありました。再加入意向はその3割を下回っており、解約させない・新規に増やす施策はこれまで以上に必要となりそうです。
OTTの普及による効果として、ある調査会社はここ数年でテレビでの観戦時間が減り、OTT観戦が増えていること、さらにスタジアム観戦が増えているとの調査結果を発表しています。このことは、OTTがライトファンの拡大に寄与していることを示しています。また、視聴者は、OTTに求める観戦における拡張性として、複数カメラによる臨場感のある映像や、選手・監督・審判目線を視聴者が自由に切り換えられる機能、試合のハイライト映像をオンデマンドで見られる機能、選手や試合のデータや情報を確認できる機能などを求めており、すでにIBMなどがテニスなどの種目で始めています。これらが充実すれば観戦に対する興味が高まり、OTTにはさらなる将来性が見込まれるでしょう。
まとめ
OTTについて紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
今後、スポーツとIT技術とを融合させたスポーツテックの進歩に伴い、臨場感ある観戦が可能になることで視聴者の楽しみが増え、スポーツOTTへの関心も高まるものと見込まれます。
OTT事業者のこれからの動きに目が離せません。
(TOP 写真提供 = Tero Vesalainen / Shutterstock.com)
《参考記事一覧》
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