ライセンス停止の危機 そのとき何が
期末である6月末までの運転資金である約1億8,000万円の目処が立たなくなった。3月末時点には既に一部未払いなどが発生、クラブの台所事情が危機に瀕していた。
これらの点についてはみなさんがすでに報道などでご存知の通りです。この事態を受け、Bリーグの理事会において当クラブに「停止条件付B2ライセンス」という裁定が下されました。現在は「停止条件」が外れ、B2ライセンスが交付されていますが、条件付きとはいえ、「ライセンス停止」の可能性に言及したジャッジが下されたのはBリーグ初、Jリーグでもこれまでに1回のみ。事の大きさに、クラブ経営を預かる身として反省しかありません。
今後は、経営体質の改善、収益の安定化、チーム強化など複数のタスクを同時進行でこなしていかなければなりませんが、今回は「あのとき」何が起きていたのか、クラブの経営状態はどうだったのか? 当事者として自戒の念も込めつつ、クラブ経営の実態と、経営難に陥ってしまった要因を振り返ります。
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B2で優勝を果たし、1シーズンで昇格を決めた勢いを駆ってB1に挑戦した2018-19シーズン。ライジングゼファーはクラブの経営状態の悪化によって、残留を懸けたプレーオフにも参加できないという窮地に立たされていました。
2018-19シーズンの想定収支は、収入、支出ともに約5億円。しかし、エージェント費用、遠征費用がB2時代に比べて大幅増。また、収入もスポンサー費用が予算に届かない事態が発生。その他未回収のスポンサー料などを含めて、最終的には報道にある通り1憶8,000万円がショートすることになったのです。
期限は17日後 資金調達で感じた福岡の底力
4月9日のBリーグ理事会の決定を受け、Bリーグライセンスの停止を回避するには、4月26日までに不足分の1憶8,000万円を着金させた上で、当クラブのキャッシュフローを明確にし、安定した体制をつくることが必要でした。
まず取り組んだのは、資本売却による資金獲得でした。9日の理事会、それを受けた記者会見が大きく報道されたこともあり、福岡県内外から「福岡のプロバスケットボールクラブの灯を消してはならない」というありがたい声を数多くいただきました。励ましの言葉だけでなく、具体的な支援の交渉に至った企業様、個人の方々は20を超えるほどでした。
記者会見時には頭を下げることしかできませんでしたが、バスケ王国を自認する福岡におけるクラブの存在価値、意義をあらためて実感するような、様々な方からのサポートの申し出でした。
福岡という土地の持つ可能性に希望の光は見えましたが、1カ月の猶予もないという「時間」は大きな制約となりました。とにかくやるしかないという状況でしたが、タイムリミットの1週間前である4月19日の時点でも、正式に契約を結べた企業や個人は一つもないという状況でした。
事態が大きく動いたのは、最後の一週間。やずや様、アカナファミリージャパン様という福岡の地元企業2社と1人の個人による支援が正式に決定。この契約書を締結できたのは着金期限の前日のことでした。
期限までに着金確認ができたことで、4月30日のBリーグ臨時理事会で、ライジングゼファー福岡は、正式にB2ライセンスを賦与されることとなりました。
連続優勝、最短昇格 急成長の落とし穴
Bリーグが開幕した2016-17シーズンからB3に参入し、そのシーズンにB3で優勝。B2昇格を果たした2017-18シーズンも優勝を果たし、B1昇格。ライジングゼファーは最短で国内最高峰リーグに到達し、これ以上ないほど順調に階段を駆け上がってきました。
しかし、この急速な成長にフロントの体制や営業力が追いついていけなかった。自分たちはまだまだB3レベルだったというのが実情です。
さらにその原因を探るなら、ここ数シーズン、オーナーが資金補填をする体制が続き、これが好結果をもたらしていたことが、クラブ全体に「なんとかなる」という空気を生んでしまったことも否めません。オーナー資金によって、予算を選手獲得に割くことができ、リーグカテゴリが上がっても戦えるだけの戦力を有することができました。いま考えれば、B3、B2連続優勝という急成長が、クラブ経営の適正値を見誤らせる要因になりました。
私が社長に就任した2017-18シーズンの収入は、B2で優勝したにも関わらず1億円を切っていました。この年、オーナーが補填した額は3億近くにも上っています。さらなる戦力、興行のレベルを求められるB1参入を前に、このような状態ではいけない。この事実を受け、2018-19シーズンはフロント一丸となって大幅な経営構造改革を目指していたのも事実です。
昨シーズン4,700万円だったチケット収入は1億円に倍増し、スポンサー収入は4,000万円から1億2,500万円に。また、クラブ事業の3本柱である、グッズ販売も1,600万円(前年比約4倍)、スクール事業は1,000万を超え、ファンクラブも800万円超と、収益の柱に組み込める見通しが立ちつつあります。これにリーグ分配金の3,000万円を加えれば、自力収入は3億円に届き、昨シーズン比で3倍増ということになります。
結果として、予算全額をスポンサー費用で賄うという当初の目標を達成できず、オーナー補填体制から脱却できなかったことで、経営危機に陥ったことは申し開きのしようがありません。しかし、オーナー補填を前提としない、自力収入を得る力は、今後のクラブのためにも財産となり得るものです。
来シーズンは、B2から出直しです。カテゴリが変わるため、チケット収入を含めた興行面での収入ダウンは避けられませんが、なんとか危機を乗り越えたライジングゼファーがクラブとしてさらに地域に根付き、また経営面でも安定した事業を展開できるように準備を進めています。
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本稿は、クラブの経営危機とクラブライセンス発行までの経緯が中心になりました。次回からは、これまでの反省に立って、クラブを永続的に存続させる経営方針、ライジングゼファー福岡のクラブ経営の実際についてお話しできればと思います。