ビジネスとして急成長する、欧州女子サッカーの今【スポンサーシップ編】

SKYLIGHT Sportsによるコラム連載の〈前回〉では、欧州サッカー業界で女子サッカービジネスへの注目度が急速に高まっていることを観客動員の観点から見てきたが、今回は、女子サッカーのスポンサーシップについて考察する。

発展途上にある女子サッカーにおけるスポンサー収入は、クラブやリーグといったコンテンツホルダーにとって重要な収益源であり、企業側にとっても女子サッカーへのスポンサーシップは、男子サッカーにはない価値があり、近年大きな注目を集めている。

本記事では、その背景や近年のスポンサーシップの事例について見ていく。(文=スカイライト コンサルティング株式会社プロデューサー、4-Football Director of Asia Pacific 栗原 寛)

女子サッカーへのスポンサーシップが注目される背景

UEFAのレポートによれば、欧州女子サッカーへのスポンサーシップ市場は2033年には2021年の4倍の規模にまで成長すると予測されている。

成長途上にあり、放映権収入がそれほど高額ではない現在の女子サッカービジネスにおいて、スポンサー収入はクラブやリーグなどのコンテンツホルダーにとって重要な収益源である。各クラブは、もともと持っているクラブのブランド価値に加えて、女子サッカーならではの魅力を訴求する形でスポンサーセールスに注力している。

市場環境を見ると、OTTの普及やデジタル活用などにより、スポンサーシップ市場は全体的に成長傾向にあり、今後も成長が続くとみられている。世界のスポンサーシップ市場は、今後10年間で年率6.9%のペースで成長が続くとされている。

その市場の中でも、特に注目されているのが女子スポーツである。〈前回〉の記事でも見てきたように、女子サッカーはここ数年で急速に注目を集め、観客動員の記録も次々に更新されている。観る人が増えれば、当然スポンサーシップの価値も上がる。今後も観客動員数や放送や配信の視聴者数の増加に比例して、スポンサーシップの価値は高まっていくであろう。

そして、これまで主に男女セットで販売されてきたスポンサーシップの権利が、男女別で販売されるケースが増えてきたことも大きく影響している。FIFAは昨年開催されたFIFA 女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド 2023より、女子ワールドカップだけのスポンサーシップを販売するようになった。

後述するが、女子サッカーは男子サッカーとは異なるスポンサーシップの価値を持つ。スポンサーシップの権利を男女別で販売することにより、女子サッカーに特化してスポンサードを行いたい企業が参入しやすい形になった。このことも、女子サッカーへのスポンサーシップが注目される大きな要因となっている。

企業にとって女子サッカーにスポンサードをするメリット

企業にとって女子サッカーにスポンサードをするメリットは多岐にわたる。女子サッカーは、男子サッカーとは異なる独自の価値を持つプロダクトであることを〈前回〉の記事で見てきた。その独自の価値がスポンサー企業にどのようなメリットをもたらすのかを、以下で見ていく。

男子サッカーとは異なるファン層にアプローチできる

女子サッカーは男子サッカーに比べて、女性や若い世代、家族連れが多い傾向にある。イングランドでは観客の4割が女性であり、男子サッカーとはファン層が異なっている。こうした層にアプローチしたい企業は、スポンサーになることでコンテンツホルダーと連携した様々なプロモーションが可能になる。

また、女性は男性よりもスポンサー商品を購入する可能性が25パーセント高いことや、ブランド想起の確率が男性の約2倍であることが研究で明らかになっている。こうした有望なセグメントに効果的にアプローチできることが、女子サッカーにスポンサードする一つの大きなメリットである。

成長が見込まれるマーケットで存在感を出せる

女子サッカーは成長途上にあるスポーツであり、今後も観客動員数・視聴者数・競技者数は増加すると思われる。FIFAは世界各国で女子サッカーの普及に力を入れており、昨年FIFAが行った調査によると世界での競技人口は1,660万人であり、この数字は4年前の2019年よりも24%増と急激に成長している。日本においてもJFAが2030年に競技人口を今の約4倍の20万人になることを目指している。こうした成長マーケットにいち早くスポンサーとして関わり、存在感を出すことで、中長期的に大きなリターンを得られることが期待できる。

ブランドイメージの向上につなげられる

一般的にスポーツコンテンツに対するスポンサーシップは社会的な意義があり、世間に好意的な印象を与えると言われているが、女子サッカーの場合も「女性活躍」や「ジェンダーギャップの解消」といった観点で、企業の姿勢を発信しブランドイメージ向上につなげる効果が期待できる。特に日本の場合はジェンダーギャップ指数が125位と低い状況にあり、社内外の意識を変えるためにも、スポンサーシップを活用することが有効である。

また、現在の女子サッカーには「これまでの常識を打ち破る」、「新たな世界を作り上げる」という革新的なイメージもあり、業界の中で挑戦者のポジションにいる企業や、製品の革新性といったブランドイメージを強化したい企業との相性も良い。

企業におけるスポンサーシップの目的は、財務面への貢献と非財務面への貢献の両方の側面を持つが、女子サッカーへのスポンサーシップは、そのどちらに対しても独自の価値を享受できる。

図=スカイライト コンサルティング

具体的なスポンサーシップ事例

ここからは具体的なスポンサーシップ事例について、コンテンツホルダーのタイプごとに見ていく。スポンサーシップの対象となるコンテンツホルダーは、主に①クラブ、②リーグ、③協会、④選手、の4つのタイプに分類される。それぞれが持つアセットやリーチできる層が少しずつ異なるため、それぞれに対して最新の事例の中から興味深いスポンサーシップの事例を見ていきたい。

図=スカイライト コンサルティング

クラブの事例:FCバルセロナフェミニ×Rilastil(スキンケアブランド

2023年8月に、スキンケアブランドのRilastilがFCバルセロナの女子サッカーチームと女子バスケットボールチームの「公式スキンケア&サンプロテクションパートナー」となることが発表された。これは、競技者が女性であることに加え、ファン層も女性が多いということに着目したスポンサーシップ事例である。

2024年の2月18日にバルセロナのヨハン・クライフ・スタジアムで行われた女子サッカーのFCバルセロナ対アトレティコ・マドリードの試合では、スキンケアを促進する#SkinToWin啓発キャンペーンを開始した。選手を活用したアクティベーションを行うことで、同社のブランドイメージの向上や商品の販売促進につなげている。

リーグの事例:女子ブンデスリーガ(ドイツ)×Google

リーグの事例では、女子ブンデスリーガ(ドイツ)とGoogleの事例が挙げられる。女子ブンデスリーガは、今シーズンからGoogle pixelと4年間のネーミングライツパートナー契約を締結した。この契約には、トップパートナーとしての露出だけでなく、デジタル面でのアクティベーションの権利が含まれている。

Googleはドイツだけでなく、イングランドやアメリカなど、様々な国で女子サッカーのスポンサードを行っており、同社の最新製品を使った作成したコンテンツを同社のメディアを通じて配信するなど、女子サッカーの認知を上げるための取り組みを行っている。世界的に拡大する女子サッカーの成長を認知拡大の部分で支援しつつ、同社のプレゼンスを上げていくスポンサーシップ事例と言える。

協会の事例:The FA(イングランド)×Adobe

イングランドサッカー協会は様々な企業とのパートナーシップを締結し、ユニークなアクティベーションを行っているが、本記事では今年からFAカップのスポンサーとなったAdobeの事例を紹介する。FAカップは歴史ある大会であり、プロとアマチュアの両方が参加し優勝を決めるトーナメントである。日本における男子の天皇杯、女子の皇后杯に相当する。

Adobeは冠スポンサーになり大々的な露出をすると同時に、製品提供を通じて参加する460クラブのクリエイティブ作成をサポートする。この大会は格下チームが格上チームを倒すジャイアントキリングなど様々なドラマが生まれることに着目し、それをクリエイティブで表現するためのツールをクラブに提供するというユニークなアクティベーションを展開している。先に見たGoogleの事例と同じく、製品のプロモーションを通じて、女子サッカーのすそ野拡大にも貢献している。

選手の事例: アレクシア・プテージャス(FCバルセロナフェミニ)×CUPRA(電気自動車スポーツカーブランド)

スペイン代表のアレクシア・プテージャスは世界最優秀選手賞を2度受賞し、インスタグラムのフォロワー数も300万人を超える。まさに女子サッカー界を代表する選手であり、近年急成長を遂げている欧州女子サッカーのパイオニア的存在である。彼女は昨年だけで11社とのスポンサーシップ契約を結んでいる。

スペインのカーブランドであるCUPRAはアレクシア・プテージャスの持つパイオニアのイメージに着目し、電動自動車×スポーツカーという新たな分野でチャレンジを続ける同ブランドのイメージの強化を図っている。このスポンサーシップを通じてオンライン上でアレクシアを起用した様々なアクティベーションを行っている。

今後の展望

これまでの女子サッカーへのスポンサーは社会貢献の側面が多かったが、近年の女子サッカーへの注目度の上昇や、スポンサーシップの男女別売りといった要因により、ビジネス的なリターンが期待できる取り組みに変わってきた。

欧州だけでなく世界各地でプロ化が進み、競技人口や視聴者数の増加が予測されているため、今後も女子サッカーにおけるスポンサーシップの取り組みはますます活発になることが予測される。

国内においても同様に女子サッカー市場の成長が期待できるため、企業にとって今スポンサーシップを行うことは、先行者利益を享受し、市場での顕著な存在感を築く絶好のチャンスと言えるだろう。

連載コラムの〈次回〉では、放映権をテーマに欧州女子サッカー界で起きている動向を紹介していく。