5年目のアルバルク東京。クラブ経営の「改革」を経て挑む新シーズン【林邦彦社長インタビュー】

不本意ながらシーズン途中での閉幕となった2019-20のBリーグ。この秋に新たなシーズンの開幕を迎えるが、withコロナ時代の中、プロスポーツクラブが果たす役割は大きく変わるだろう。各クラブは改めて何を目指し、どのようにファンとパートナーを巻き込んでいくのか。Bリーグで2度のチャンピオンに輝いた強豪・アルバルク東京の林社長に、クラブのこれまでを振り返ってもらった。

実業団トヨタ自動車からアルバルク東京へ すべてが変わったBリーグ開幕

かつては1948年創部の「トヨタ自動車」として日本バスケ黎明期から存在感を示してきたアルバルク東京だが、Bリーグ誕生を機に運営会社と体制を一新。2016年にトヨタ自動車と三井物産子会社が共同で設立したのが、トヨタアルバルク東京株式会社だ。

初代社長の座に就いたのが、三井物産でビジネス手腕を発揮していた林邦彦氏。バスケットボールとは無縁だった林氏は、いかにして「コート内外で強い」アルバルク東京を構築していったのか?

トヨタアルバルク東京株式会社 代表取締役社長 林邦彦氏

「Bリーグが開幕し、プロリーグとして5年目のシーズンを迎えました。私たちもプロバスケットボールチーム『アルバルク東京』として過ごしてきたわけですが、地道に積み上げてきたことは着実に成果となって表れていると思います」

Bリーグ初年度こそ優勝を逃したが、2017-18、2018-19シーズンを連覇し、「Bの盟主」の座に君臨。2019-20シーズンは、新型コロナの影響でシーズン途中で幕を閉じたが、最高勝率(32勝9敗)にて東地区優勝に輝いた。いよいよ10月からBリーグが5年目となる新シーズンを迎え、日本バスケ界に、再度注目が集まる。

「プロスポーツクラブは、絶対に勝たないといけないんですよ」(林氏)

こう話す林氏は、スポーツの大前提である「勝利の大切さ」を理解する経営者だ。社長就任までバスケットボールとは無縁だったが、自身も大学までサッカーに真剣に取り組んだ経歴がある。

「Bリーグ初年度に優勝できなかったということで、チームに何が足りなかったのか、自分たちが何をすべきなのかというのが、選手だけでなく会社としても明らかになりました。これはとても大きなことだったと思っています」(林氏)

Bリーグ以前もプロ契約の選手がほとんどだったが、チームはトヨタ自動車の「厚生部」としての活動だった。それが完全プロ化されたことで、すべてが変わった。

プロとは何か、興行はどう成立するのかを伝え続けた

三井物産からやってきた林氏は、ここまでの3年間、すべての年に明確な目標を持ってクラブ運営を行ってきた。

「1年目は会社の厚生部からプロクラブへの変化ですよね。一番プロに近い契約をしていた選手でも、プロリーグでプレーしていたわけではありませんでした。勝利を目指して競技に取り組む姿勢は持っていましたが、ファンサービスや自分たちのプレーを見てもらうという意識は薄かったと思います。選手には『プロ意識』を持てと、就任当初から現在まで繰り返し伝えています」(林氏)

契約形態はプロに近かったとはいえ、「トヨタ自動車」という企業の名のもとでプレーしていた選手たちは、「社員の活力になるために勝利する」ことが第一義という面があった。勝利することがチームの目的であるのは当然だが、プロスポーツは興行であり、観客がアリーナに足を運んで初めて成立する。勝つことだけが、プロスポーツの目的ではないのだ。

「我々の給料の源泉は何か?という問いはかなりしつこく投げかけています。みんな頭ではわかっているんです。しかし、常に、自分たちの報酬がどこからきているのか考えていなければいけません。観てくれるファンがいなければ試合は成立しませんし、取材にもきてもらえず世間に知ってもらう機会も得られません。その結果、スポンサーも獲得できなくなってしまいます。このことは、折に触れて、選手、スタッフ全員の前で話をしています」(林氏)

林氏にとって印象的だったのは、プロ化前に出席した決起集会での選手たちの行動だった。トヨタの関係者やクラブを支援してくれている人たちが集まっているにもかかわらず、選手たちはフロアの一角にまとまり、能動的に話しに行こうとはしていなかったのだ。

「誰かに話しかけられたら対応するといった感じで、選手から積極的に話しかけたり御礼をいったりする雰囲気がなかったんです。これではいけないと、Bリーグ開幕年度はテーブルごとに担当を決め、選手たちがなるべく会場に散らばるように席を配置しました」(林氏)

形式的なことだけを変えても、選手の意識が変わらなければ意味がない。林氏はことあるごとに「プロとは何か?」を問いかけ、クラブの運営、経営体制を変えていった。その結果、選手たちの行動にも変化が生まれた。

「2年目以降は選手の方から話しかけて写真を撮ったり、用意したTシャツにサインを書いたりする光景が当たり前になりました」(林氏)

選手たちは、プロ化によって、観客やサポーター、ステークスホルダーと自分たちとの関係性を見つめ直し、自分は何をすべきか、プロ選手としてどうあるべきかにも目を向けるようになった。

「すでに日本代表に選ばれている選手たちもいたわけですが、Bリーグや日本代表が注目されることで、他のスポーツの選手たちと会話する機会も増え、『プロアスリートのあるべき姿』を彼らなりに感じるようになったという側面もあると思います」(林氏)

お金を払って足を運んでもらうことの価値

大きな変化は、アリーナでも起きていた。以前はトヨタ自動車の社員で占められていた観客席だったが、興行として成立させるためには新たな顧客を掴み、クラブを応援してくれるファンを増やしていかなければならない。

「それ(プロ化)までは、トヨタ自動車の社員証で会場に入っているという人も多かったわけです。この方たちが真剣に応援してくださっていたのは間違いないのですが、チームのファンというよりは、愛社精神からというニュアンスが強かったのではないでしょうか。プロチームとして愛していただくためには、やっぱりお金を払って試合を観てもらわなければいけないんです」(林氏)

これは、当時のアルバルク東京の会長も例外でなかったという。

「当時会長だった豊田章男さんにも、チケットを購入して来場してもらいました。トヨタ自動車サイドにお話した際に『当たり前のことです』という反応をいただいたので、そこから社員のみなさんにもお金を払ってきていただけるような魅力あるチームをつくっていこうと目標を定めました」(林氏)

「ガタッと減るかなと思った」(林氏)という観客数は、平均1000人から2400人強に倍増した。トヨタ自動車社員の比率は下がったが、Bリーグ自体への注目や、東京におけるバスケットボールへの可能性が改めて確認できたファーストシーズンだった。

「一番の改革の年」 2年目の挑戦

「2年目はメインアリーナが立川に移らざるを得なくなったので、集客面では苦戦すると予想していました。そこで『絶対優勝』を目標に掲げて、首脳陣、選手を刷新する改革を行いました」(林氏)

東京オリンピックの開催に向けて代々木第2体育館が改修となり、立川にある「アリーナ立川立飛」への移転を余儀なくされた。最大収容人員はともに3,000人前後だが、立地条件は大きく異なる。

「実は、立地だけでいうとそこまで大きな差はないと思っているんです。あるのは『代々木から立川までの心理的距離』だと僕は考えていました。確かに、都心からの物理的距離はありますけど、新宿から立川までは中央線の特別快速で30分程度で着くんです」(林氏)

「都内移動で30分ってそんなに珍しいことではないですよね。物理的距離よりも、「離れている」と考える心理的な距離の方が問題だなと感じていました。そのため、『お客様は減る』という前提のもと、Bリーグで優勝することによって認知を広めるしかないと、選手にもスタッフにもいい続けていました」(林氏)

林氏の宣言通り、2017-18シーズンはアルバルク東京の優勝で幕を閉じる。同氏はこのシーズンを「アルバルクの4シーズンで一番の改革の年」と振り返る。

「やっぱり優勝の効果は絶大で、取材もしてもらえて、メディアへの露出も大幅に増えました。メインアリーナとして使用させていただいた立川にはプロスポーツクラブがなかったこともあって、地元でも大いに応援してもらえました。これは非常に大きかったですね」(林氏)

3年目のシーズンは、2年目の成功をベースに築き上げられたといえる。

「2年目に優勝し、それを知ってもらえたことで、3000人のキャパシティの会場で30試合、ホームでは延べ88,000人のお客様にきていただき、約91%の満員率という数字を残すことができました」(林氏)

2020-21シーズンは「withコロナ」という新たな課題に取り組まなくてはならない。昨シーズンは、やむなく中断という決断がなされたが、来シーズンに向けた意気込みを聞いた。

「リーグとしても、とにかくクラスターを出さないための対策を徹底しようと話し合っています。コロナは感染症なので、知らず識らずのうちに感染してしまうことがあるわけです。しかし、それを広めないようにする手立てを講じることが大切です。後から「あれをやっておけばよかった」という後悔をしないだけのガイドライン作成と、それをきっちり実行していくことが重要です。それを前提でシーズンを進め、試合をし、連覇します。その上で、昨シーズンより応援してくれる人が多くなればいいですね」(林氏)

次回は、引き続き林社長に、この難局に立ち向かうチームを支える「人材戦略」について伺う。


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