陸上・桐生祥秀が全国で取り組む「かけっこ教室」。「現役アスリートとふれあって、家族で楽しんでもらえるように」

昨年11月、陸上短距離の桐生祥秀選手による小学生を対象とした「Kiryu Challenge Clinic」が、北海道北広島市のエスコンフィールドHOKKAIDOで開催された。かけっこ教室にトークショーも織り交ぜたイベントとして、2018年にスタートして以降、27都道府県で開催。桐生選手自身が体を動かすことの楽しさや陸上の面白さを伝えている。今回、ボールパーク(野球場)で初めての開催となったイベントの様子や、桐生選手がこの取り組みに込める想いを聞いた。

トップアスリートと日本有数の企業が手を組む意味

「陸上の面白さや、走ることの楽しさを知ってもらいたい。それと、桐生祥秀という名前も広く知ってもらえたらいいなって」

かけっこ教室を始めた経緯を聞くと、こう明快に答える桐生祥秀選手。

現在、日本生命に所属するアスリートで、プロ契約をする際にこうした子ども向けのイベントを行いたいと申し出た。次世代の育成や地域貢献などの取り組みを進めていた日本生命と志が重なり、今日に至るまで共に活動している。

今回、エスコンフィールドHOOKAIDOというボールパーク(野球場)で初めて開催することになったクリニックには、子ども約130名、保護者が同じく130名ほど参加。普段はプロ野球選手が真剣勝負を繰り広げるグラウンドに立つという貴重な機会にもなった。

クリニックで指導する桐生選手(右)。子どもたちは準備運動から大興奮

イベントはまず準備運動から始まる。準備運動といってもラジオ体操ではなく、へその高さまで膝を上げる、片足立ちで体を水平に倒してバランスを取るなど、早く走るための基礎になる動きだ。

「専門用語は使わず、子どもたちの反応を見ながら実際にやって見せてわかりやすく説明しています。長い話だと小学生は聞いてくれませんからね(笑)」(桐生選手)

子どもたちの後ろで保護者が見守っていたが、桐生選手は「お父さんお母さんもぜひ一緒に!」と声をかける。ここにも桐生選手の想いが込められている。

「2時間のイベントを楽しい空間にしたいんですよね。僕にも子どもがいますが、親と一緒に楽しい時間を過ごしてもらうというのも大切ですから」(桐生選手)

「トップアスリートに会った」という記憶はなくならない

いよいよかけっこ教室がスタートすると、グラウンドのファウルゾーンに設けられたコースに並び、座った状態や伏せた状態から起き上がって全力疾走。桐生選手も一緒に走り、子どもたちに積極的に声をかける。

「イベントを通して全員とコミュニケーションをとることを心がけています。僕は小学生の頃にサッカーをやっていたのですが、ラモス瑠偉選手に会ったことを今でも覚えています。どんな話をしたかは忘れてしまいましたが、トップアスリートに会ったという記憶は10年以上経ってもなくならない。だから、どんなことでもいいから子どもたちと触れ合って、記憶の中に留めてもらえればと思っています」(桐生選手)

「子どもたちとの触れ合いを大切にしたい」という桐生選手

桐生選手がこだわっているのが、自身が現役のうちにイベントを行うこと。陸上界では、引退した人がイベントを開くことはあっても、現役選手が教室やクリニックを実施することは多くない。

「現役ならではのスピードを感じてもらいたいんです。小学生の生活のなかで一番足が速いのは、だいたい学校の先生ですよね。このイベントで、“いつもテレビで見ていた足の速い人”と、実際に会ったという経験をしてもらいたいなと」(桐生選手)

かけっこ教室は昨年で丸5年を迎えた。最初に参加してくれた子どもが小学6年生だとすると、いまは高校2年生になっている。桐生選手は高校3年生時から全日本選手権に出場していたので、クリニックに参加した人が桐生選手と大会で一緒になる日も遠くないだろう。

これも現役アスリートがイベントを続けているからこそで、桐生選手も将来、次世代の選手と会えることを楽しみにしている。

かけっこ教室では、エスコンフィールドという野球場ならではのメニュー「ダイヤモンド・チャレンジ」も行われた。1塁、2塁、3塁からホームベースへという、いわゆるベースランニングを親子で一緒に走るというものだ。

子どもたちは全力疾走。それにつられるようにして保護者のペースも上がってくる。プロ野球場を走ることができるのも稀有な体験だが、親子が一緒に全力で走るという経験も貴重に違いない。

「イベントを始めた頃は、子どもに話しかけても無視されたりして、ちょっと落ち込んだりしました(笑)。でも、それは恥ずかしさからくるものだったりするんですよね。いまでは子どもってそういうものだと認識して、変に構えすぎずに臨めるようになりました。教室の内容も、少しずつ改善を加えたり、会場に合わせてアレンジしています」(桐生選手)

野球場ならではのベースランニング。親子で全力疾走!

トップアスリートの素顔にも触れる

休憩、給水の時間をはさんで、イベントの後半はトークショーに。桐生選手がかけっこ教室を振り返った後、子どもたちが待ちに待った「質問タイム」となった。

「好きな食べ物は何ですか?」といった他愛のない質問から、「明日の水泳大会でいい成績を残すための心構えを教えてください」という真剣な相談まで、参加者からさまざまな質問が飛ぶ。その一つひとつに、桐生選手は丁寧に答えていく。

桐生選手に直接聞けるチャンスとばかりに、子どもたちからは多くの質問が寄せられた

時間にしておよそ2時間のイベントだったが、あっという間に過ぎていったように思われる。子どもたちは必死に走り、ときに喜んだり、ちょっと悔しいような表情を見せたりもしていた。保護者と一緒に走ったりというのも、いい思い出になるではないだろうか。

そこには、桐生選手と日本生命が目指した「楽しさ」というものが、しっかり伝わっていた。桐生選手は語る。

「まずは、日本全国47都道府県すべてで開催を目指します。そのなかで、より多くの小学生たちにイベントを楽しんでもらいたいですね。日本生命とは、想いを共有していいパートナーとして取り組んでいます。

同時に、自分のセカンドキャリアも考えられるようになっています。将来的には、本格的な陸上教室などもやってみたいと思いますが、そのノウハウも蓄積できています。現在も『Sprint50』という、誰もが走ったことのある50m走をベースにしたイベントを立ち上げています。子どもも高齢者も、みんな一緒に走るチャレンジですね。

今後も、走ることや運動することの楽しさを伝えていければいいなと思っています」

〈後編〉では、「Kiryu Challenge Clinic」を5年にわたり開催し、桐生選手とともに全国を行脚している日本生命に、企業としての意義や活動の工夫について伺っている。

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