【第4回】クラブライセンス、ガバナンス強化 Bリーグの「SDGs」とは?

一時は世界から孤立してしまう可能性もあった日本のバスケットボール界だったが、潮流を変えたのがBリーグの誕生だった。その成長に合わせるように、バスケットボール男子日本代表が13年ぶりのワールドカップ出場、そして44年ぶりとなるオリンピック出場を決め、好循環が続いている。今後、Bリーグや日本のバスケットボールがさらに発展していくために、何が必要なのか?常務理事・事務局長の葦原一正氏がBリーグのSDGs(持続可能な開発目標)について語った。

前回インタビュー:Bリーグ葦原氏が語る「日本のプロスポーツビジネスの第三局」

Bリーグの持続可能な開発目標とは?

Kazumasa Ashihara
Japan Professional Basketball league
葦原 一正:公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ常務理事・事務局長。インタビューは2019年4月15日にBリーグの都内オフィスで行われた。

「ここ数年、『SDGs』という言葉をよく聞くようになりました。Bリーグとしても、リーグ自体のSDGsについて考えていかなければなりません」 

SDGsとは、Sustainable Development Goals(=持続可能な開発目標)のことで、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が定める2016年から2030年までの国際目標で、世界中で取り組みが広がっている。 

JBLとbjリーグの事実上の分裂時代や、2014年のFIBA勧告など、過去の危機的状況からすると、2016年に開幕して以降のBリーグの歩みは、順風満帆と言える。しかし、スタート時の勢いやインパクトは、同じことを続けているだけではやがて薄れる。葦原氏にも危機感は常にあると言う。 

「順調なクラブがある一方で、まだ水面下というか、グッと出てくることができていないクラブがあるのは事実です。クラブライセンス制度を導入して、現在は“フェーズ1”。もう少しすると落ち着くとは思いますが、いまが頑張り時です」 

今年から導入されたクラブライセンス制度では、4月9日の第2回判定でB1のライジングゼファー福岡とB2金沢武士団が財務基準を満たせず、ライセンス格下げとなっている。 

「クラブライセンス制度の先行者であるJリーグも、制度が導入された当初はクラブの経営問題が顕在化しました。ライセンス制度を遵守することで、経営が正常化して、安定したクラブ運営ができるようになるので、もう少し辛抱が続きます」 

クラブライセンス制度の導入は、Bリーグの持続可能性を実現するために欠かせないものであり、このタイミングで導入したことは、リーグ全体が「持続」を前提にガバナンスを発揮していく意思の表れとも言える。このインタビューで葦原氏が語った人材採用戦略、グローバル戦略、テクノロジーを媒介とした価値観の提示、社会的使命と責任などは、すべてBリーグのサステナビリティにつながる。

続けるために必要な「人」 川淵氏が語った「怒り」の正体

Kazumasa Ashihara

では、BリーグのSDGsを実現する要因には何か。葦原氏が挙げたのは、方法論ではなく、持続していく原動力の源泉だった。 

「人間は弱いので、新しいことをやろうと頭では分かっていても、意外とモチベーションが維持できなかったりしますよね。最近、川淵さんにお会いした際に『そのモチベーションの源泉はどこにあるんですか?』と質問したんです」 

Bリーグ誕生に大きく関わった川淵三郎氏は現在82歳。Jリーグの立ち上げ、初代チェアマン、日本サッカー協会キャプテンなどを歴任し、現在も情熱的に実務をこなし、世の中に変化を与えている。川淵氏の原動力は確かに気になる所だ。 

「川淵さんは『怒り』と仰ったんですよ。普通、怒りは一瞬の感情で、強い感情ですが、すぐに収まるものじゃないですか。怒りでモチベーションを維持するのは、普通はできません。探究心や好奇心は分かりますけど、『怒り』は意味が正直分かりませんでした」 

葦原氏はその後、自分なりにこの言葉を腹に落とすことができたという。 

「しばらく経って、田原総一郎さんにもお会いしたんです。田原さんも85歳の今も、エネルギッシュに活動されていますよね。ですから田原さんに『川淵さんが、モチベーションの源泉は、怒りだって言うんです。怒りとは、どういうことですかね?』と聞いたんです。すると、田原さんも『確かに怒りかもしれない』と仰るんです」 

「ですから『でも、怒りって続かないですよね』と更に聞くと、『“使命感”かもしれないな』と田原さんが仰ったんです。川淵さんは、恐らく使命感のことを仰ってるのかもしれない。その時、自分の中で納得したものがあったんです」 

Bリーグが勝ち・負けの世界、エンターテインメント性を内包しつつ、『B.LEAGUE Hope』などの取り組みによって、競技性や娯楽の先にある、社会的使命を果たしていくチャレンジを続けていることは、インタビュー中にも再三登場している。葦原氏の中にも「使命感」というキーワードは常にあった。 

「物事を変革したり、組織を持続的に成長させるには、使命的な気持ちが大切です。自分がどのような問題意識を持って、何を課題だと思っているか。どうあるべきだという考えを持っていないと、持続していくモチベーションは続きません」

「それが社会に対する怒りなのか、別のことに対する怒りなのか、人によって違うと思いますが、川淵さんも田原さんも、“どうしたい”とか“何ができる”ではなくなくて、“こうあるべきだ”という考えをお持ちだと思うんです。お二人とも”あるべき”ということに対して、年齢に関係なくピュアなんですよね」 

SDGsは使命感によって持続する。だからこそ、したいこと(=趣味)、できること(=特技)ではなく、すべきこと(=仕事)をしていく。あるべき姿を目指し続ける使命感を、Bリーグは全うしようとしている。 

「“こうあるべき”というのが先にあり、現状はこういう状態なのであるべき姿とのギャップが当然あって、そのギャップを埋めていくために課題をクリアしていく。そういった、“べき論”で語れる人をどんどん集めることが、Bリーグをはじめとして、日本のバスケットボール界、スポーツビジネス界にとって、一番重要なことなのかもしれません」


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