「思いやり」の先にある「絆」こそが、フレスコボールの本当の楽しさ。「ビオレUVアスリズム フレスコボールジャパンオープン2020」レポート

2020年9月19日、稲毛海浜公園内のいなげの浜を舞台にして、さまざまなビーチスポーツを観戦・体験できる「ジャパンビーチフェスティバル千葉2020」の1つとして開催された「ビオレUVアスリズム フレスコボールジャパンオープン2020」。フレスコボール日本一ペアを目指して全国から集った選手たちが見せてくれた、フレスコボールの真の面白さをレポートする。

他にはない、相手を「思いやる」スポーツ

フレスコボールとは、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで誕生したビーチスポーツだ。ラケットでゴム製のボールを打ち合い、そのラリーの回数などを競う。今回のジャパンオープンは、フレスコボールの日本一を決める国内最高峰の大会だ。

会場のいなげの浜は、都市型ビーチとしてのポテンシャルを最大限に活かすため、2019年に市の政策で美しい白砂のビーチに生まれ変わった。会場には千葉市の熊谷俊人市長も訪れ、各会場を視察して回っていた。

今大会は、本来は19日(土)と20日(日)の2日間で行われる予定だったが、天気が崩れる予報があったため、男子ペア、女子ペア、ミックスの各競技を19日に凝縮して行い、20日はエキジビションとなった。

フレスコボールの会場では、今大会のメインスポンサーである「ビオレUVアスリズム」のサンプリングも行われていた。ビーチフェスティバルとしてさまざまな競技がある中、スポンサーがついて行っているのはフレスコボールだけで、その点でも大会にかける意気込みが伝わってくる。

フレスコボールは「思いやり」のスポーツだといわれる。ラケットとボールを使うスポーツのほとんどが「敵」と打ち合うのに対して、フレスコボールは「味方」とラリーをする。そのラリーが続けば続くほど、得点が高くなる。

テニスにしても卓球にしても、相手が取れないようにボールを打つのに対して、フレスコボールは相手が取れるように打つというところが大きな違いだ。お互いに相手のことを思ってボールを打つ、それこそが「思いやり」のスポーツといわれるゆえんでもある。

今回、初めて公式戦でペアを組むという関西のフレスコボールクラブ「Grêmio VENTO」所属の當麻早希、山下みずきペアに話を聞いた。

當麻早希・山下みずきペア(Grêmio VENTO所属)

――それぞれ、フレスコボールを始めたきっかけを教えてもらえますか?

當麻:フレスコボールを始めたきっかけは、自分の母校で練習していたからなんです。本当はバスケットボールのクラブを探していたんですけどね…(笑)。体験でやってみて、最初はラリーも続かなくて『難しいな』とも思いましたが、上達してくると面白さがわかってきました。

山下:実は、私はフレスコボールが日本に紹介された4年前に触れているんです。でも、その後ブランクがあって、半年前に再び始めました。以前は、まだまだ日本ではフレスコボールを教えられる人もいなかったんですが、今やクラブでも教える文化がしっかりできて、とてもいいですね。

――フレスコボールのどんなところが楽しいと感じますか?

當麻:ラリーが続くようになると、一気に楽しくなりますよね。ペアの人と『一緒にやってる!』という一体感みたいなものが、フレスコボールならではの魅力じゃないでしょうか。

山下:やっぱり、一緒にやってる感はいいですよね。それでいて、今までの自分を越えたいというか、自分のベストを目指して練習していくのが楽しいですね。

――今大会の試合を振り返ってみていかがでしたか?

當麻:結果はベストではなかったのですが、内容的には以前よりもいい部分もありました。今後の課題も見つかったので、これからがんばって練習したいと思います。

山下:そうですね。これからもがんばりたいと思うんですけど、大人になってこんなに応援してもらえることって、他にないと思うんです!それだけでも、フレスコボールをやっててよかったなって。

「Grêmio VENTO」は、ジャパンオープンのために大阪から訪れている。他にも出場選手がいて、お互いにアドバイスし合ったり、応援し合ったりという一体感が際立っていた。

DJとMCで盛り上がってこそのフレスコボール

お互いに応援し合うという雰囲気は、Grêmio VENTO に限ったことではない。今大会のために沖縄や福岡からきたチームもあり、それぞれのクラブで仲間をサポートしていた。さらには、他のクラブのプレーヤーでも、ナイスプレーには大きなエールが送られ、惜しいショットにはみんなで残念がるという光景が何度も繰り広げられた。

日本一を目指す選手たちがしのぎを削る大会なわけだが、試合会場に漂っているのは明るい、あくまでラテン系のノリだ。

そうした雰囲気作りを先導しているのが、MCとDJの存在だ。プレー中にDJが音楽を流し、テレビの実況のようなMCのしゃべりが会場に響いているというのは、なかなかレアな体験だ。こんなことが許されているスポーツは、かなり珍しいといえるだろう。しかし、これこそがフレスコボールを、真剣ながらも楽しいスポーツに変えているのだ。

DJ SASAがセレクトする音楽で会場が一気に盛り上がることもあるし、トップ選手のヒリヒリしたラリーの一球一球に、会場中の緊張感を高める役割を果たすこともある。

実は、大会中に機材トラブルで電源が落ち、音楽が止まってしまったことがあった。そんなときでも、みんなが盛り上げて、プレー中の選手たちのモチベーションを維持させようという雰囲気ができあがっていた。そんな一体感は、MCのトークに依るところが大きかっただろう。

今大会のMCは南隼人さん。プレーに合わせ、一生懸命拾ったボールに対しては「このボール絶対取ってあげて!」、プレー終盤には「ここからはノーミスでいきたいね!」と、フレスコボールを楽しむためのツボを押さえてのトークが光る。時には馴染みの選手をいじって笑いを誘うこともあり、会場の雰囲気をコントロールしてもいる。

相手が打ちやすいようにボールを返してあげることで、ラリーは続きやすくなる。では、ゆっくりとしたボールを打ち合っていればいいかというと、そうではない。競技時間は5分間と決められていて、その間により多くの得点をしたペアが勝利する。

つまり、時間内に多くのラリーを成立させることが、勝利へとつながっていくのだ。当然、トップ選手たちは高速ラリーを展開する。さらに、相手のボールよりも速いスピードで打ち返す「アタック」をすると加点されることから、片方の選手がバンバンとボールを打ち、ペアはそれをブロックするように返し続けるというプレーも展開される。

一見すると、まるで「思いやり」がないように見えてしまう。しかし、これはペアで練習を重ねたすえの、高得点を狙うプレー。相手を思いやる気持ちの先にある、練習や試合を重ねた上で築かれた「絆」こそが、昨日の自分を超えるために必要なのだ。それがわかっているからこそ、観客はそのラリーを固唾を呑んで見守る。

プレー中には、ミスをしてしまうこともある。そんなボールを懸命になって拾う姿に、会場は大いに盛り上がる。今回の大会では、大きな声援は控えるように求められていたので、みんな一生懸命に拍手でエールを送っていた。

これからのフレスコボールにとって大事なもの

上野彩高・二宮快樹の男子高校生ペア

“大人”な選手が多い今大会において、ひと際目立っていたのが上野彩高、二宮快樹の男子高校生ペアだ。2人にも話を聞いてみた。

――フレスコボールにはどんなきっかけで出会ったのですか?

上野:もともとビーチテニスをしていたんですけど、隣でやってたフレスコボールを体験してみてハマりました。

二宮:上野くんに誘われて始めました。もとは帰宅部でスポーツなんてしてなかったんですけど、2人でトレーニングして今日に臨みました。

―今後はどんな風にフレスコボールに取り組んでいきたいですか?

上野:鵠沼海岸でやってるんですけど、いろんな人に教えてもらって上を目指しています。

二宮:学校の部活みたいに強制されないので、フレスコボールはとても楽しいです。楽しいからこそ、逆にキツいトレーニングもできるかなって。

かつてのように学校の部活を通してだけでなく、新しいスポーツに出会う機会があることが、若い人たちにとってはとても重要なことなのではないかと思われる。

また、競技の空き時間に、これぞフレスコボール!という光景を目にした。それは、選手たちが思い思いにペアを作って、ボールを打ち合う姿だ。ジャパンオープンということで、全国から選手が集まってきている。普段は一緒にプレーできない人と、ラリーをする絶好の機会なのだ。

それを逃すまいと、みんな積極的に相手を見つけてボールを打ち合っている。そんな中で、先輩からのアドバイスがあったりして、競技歴の浅い選手にとって貴重な経験となっただろう。

日本フレスコボール協会会長 窪島剣璽氏

最後に、大会を通しての総評を、日本フレスコボール協会会長の窪島剣璽氏に聞いた。

「今年も、本当にレベルの高いプレーの連続でした。男子カテゴリで優勝した倉茂赤塚ペアは、プレー途中に電源トラブルでMCと音響が止まるアクシデントがありました。そんな逆境にも関わらず、落球わずか5球で、集中力を保ちながら迫力ある美しいラリーを見せてくれました。観客からの声援も、彼らのパフォーマンスを後押ししたと思います。ブラジルでの大会出場経験のある日本代表ペアとして、その名に恥じない、本当にかっこいい5分間でした」

ジャパンオープンは、2015年の第1回から数えて、今年で5回目となる記念すべき大会だった。

「競技のレベルだけでなく、地方クラブの躍進も感じられました。 女子カテゴリチャンピオンで、『フレスコボール関西 Grêmio VENTO』に所属している宮山風味ペアは 男子顔負けの強いアタックと正確なラリーで会場を沸かせくれましたが、クラブのメンバーが一丸となって応援している姿が印象的でした。各地域にフレスコボールが『コミュニティ』として根付いていることを実感できました」

フレスコボールは今年から、「コミュニケーションデザインスポーツ」という新しいキャッチコピーがつけられている。

競技として上を志す選手もいれば、健康のためにと取り組む人もいる。その関わり方は、人それぞれだ。目指すところが違っていても、一緒にボールを打ち合えば途端に仲間になってしまう。それこそが、フレスコボールの持っている魅力ではないだろうか。ジャパンオープンという日本で最高峰の大会を通して、フレスコボールの今と未来が見えた気がした。

◼️「ビオレUVアスリズム フレスコボールジャパンオープン2020」 各カテゴリーの優勝〜3位結果

【男子ペア】
優勝=赤塚康太・倉持孝明ペア
2位=芝卓史・岸田直也ペア
3位=五十嵐恭雄・斉藤亮太ペア

【女子ペア】
優勝=宮山有紀・風味千賀子ペア
2位=小澤彩香・青木沙耶香ペア
3位=芝有沙・山田昌子ペア

【ミックス】
優勝=斉藤亮太・大和地未沙子ペア
2位=赤塚康太・青木沙耶香ペア
3位=諏訪純也・小澤彩香ペア

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