日本のスポーツ界を支えてきた企業スポーツはプロ化の動きや親会社の業績、社会情勢の変化によって存在意義を問われる時代が長く続いている。日本ではスポーツにアマチュアリズムを求める文化が残る一方、プロ化が正義とされた時期もあり現代における企業スポーツのあり方が模索されている。
そんな中、企業においてスポーツを担当する方々が横断的に集まり、情報交換や学び合いを進めようというコミュニティも発足。スポーツ領域のコンサルティングを手掛けているアビームコンサルティング株式会社が主宰するもので、今回、その意義と活動内容に迫った。(取材・文=小林謙一)
企業のスポーツ担当者が抱える「共通の悩み」
「実業団」と呼ばれる企業の部活動は、プロの世界がある野球やサッカーなどメジャースポーツを除けば、社会人になってからもアスリートが競技を続ける大きな選択肢のひとつ。会社員としての立場や待遇を得つつ、アスリートとして競技を続けられるアマチュアスポーツの頂点ともいえる存在だ。
その意義は現在も変わることはないが、一方で企業の経営状況によってチームや部の存続が脅かされるのも事実だ。
アビームコンサルティング株式会社でスポーツ・エンタメ業界のコンサルティングを手掛ける宮原直之氏は、企業スポーツが抱える大きな問題点を指摘する。
「実業団チームやアスリートの雇用、スポンサーシップが、スポーツが好きな創業者や社長の“鶴の一声”で始まったというケースは多い。そうすると代替わりしたトップから、『なぜやっているのか』と存在意義を問われるような状況になってしまう。というケースを多々聞いてきました。
当然、チームの担当者は、企業がスポーツに経営資源を割くことについて社内を説得しなくてはなりません。しかし、スポーツが企業活動に貢献していることをわかりやすく定量的に示すというのは、とても難しいことなんです」

かつては「メセナ(芸術や文化を支援する活動)」や「フィランソロピー(社会貢献活動)」という文脈で語られていたスポーツへの支援についても、現在では他の事業活動と同様に、ステークホルダーに対して社業への貢献度や社会的価値をより分かりやすく明示することが求められている。
企業スポーツの再定義へ。横断的なコミュニティが発足
そんな中、企業におけるスポーツの価値を見直す動きも起こり始めている。
「例えば、自社の、あるいはスポンサードしているチームを応援することで、従業員のロイヤルティを高められるということが多くの方々に理解されてきています。また、ダイバーシティ&インクルージョンが推進され、より多様な方々が働く現在、従業員の『一体感の醸成』という役割が見直されてきています。こうした様々なスポーツの価値に、改めてフォーカスが当てられているというのが現在の状況です」(宮原氏)

今でこそ、チーム運営の専門部署を持つ企業もあるが、実業団やアスリート社員を総務部や人事部が担当してきた企業は多く存在する。つまり、スポーツを専門とするわけではない人々が、企業スポーツを担ってきたのだ。
「ただアスリートの競技活動をサポートするだけでなく、広報や渉外活動にも関わるので担当者の業務は多岐にわたります。それまで携わってきた仕事とは畑違いで、知識も経験も持ち合わせていないこともあります。しかも、それを相談する相手が社内にいないケースも多いです」(宮原氏)
そうした背景の中、立ち上がったのが、「企業スポーツコミュニティ」だ。アビームコンサルティング株式会社が主宰し、定期的なセミナーや視察などを通したコミュニティ活動を行うもので、実業団の運営やチーム・アスリートの協賛などを行う企業のスポーツ担当者が参加し、学び合いの場になっている。
東京サントリーサンゴリアスのクラブハウスを視察
昨年の12月、「企業スポーツコミュニティ」一団の姿は、サントリー府中スポーツセンターにあった。サントリーホールディングス株式会社のラグビーチーム「東京サントリーサンゴリアス」のクラブハウスを視察するためだ。

サンゴリアスは東京都府中市、調布市、三鷹市がホームタウン。一方で、アカデミー事業の「東京サンゴリアスアカデミー」を府中だけでなく青山(東京都港区)でも展開し、またチームは山梨県とも連携協定を結んでセカンダリーホストとして試合を行うなど、積極的にマーケティング活動を進めている。
「サントリー社は飲料を中心としたコンシューマービジネスということで、スポーツを直接的かつ効果的にマーケティング活動に活用されています。サンゴリアスのファンとそうでない人で、サントリー製品に対する購買意向がどう変わるかなど消費行動分析もされている。事業へのスポーツの貢献度合いを証明しようとしている、先進的な企業の一つです」(宮原氏)
クラブハウスでは、施設内のツアーから始まり、グラウンドやトレーニング機器の紹介、食堂での管理栄養士とのQ&Aセッションなどが行われた。練習中に選手が身に付けるGPS機器や、その動きを分析するツールに関する質問や、管理栄養士に食事メニューの工夫や外国人選手への対応について質問があがるなど、企業のスポーツ担当者ならではの専門的な会話が盛り上がりを見せた。


サンゴリアスが取り組む「地域」「パートナー企業」連携
施設見学が終わると、一行はオフィスのミーティングルームに集まり、東京サントリーサンゴリアス ゼネラルマネージャーの田中澄憲氏からチームの取り組みについて説明を受けた。
田中氏は、ここ数年のスタジアム観客数の推移、パートナー企業とその数、企業とのコラボレーション事例などを紹介。現在60近いパートナー社がつくサンゴリアスについて、「パートナー企業様の拠点で地域のお子さんを集めたラグビー体験会を実施するなどして、企業がそのエリアでしっかり認知してもらえるようなイベントを行っています」と、同氏は一例を示した。


そうしたパートナー企業とのコミュニケーションに関して参加者から質問が挙がると、「とにかく、試合を観に来ていただきたいと伝えます」と、田中氏。
「ラグビーの良さをいかに伝えていくかが大事。以前は薄く広く、日本全国にファンを作るようなイメージでしたが、リーグワンになってホストエリアが定まってからは、とにかく地域を深堀りしています」とも述べた。
地域という点では、ホームタウンのひとつであり、自社工場(サントリー〈天然水のビール工場〉 東京・武蔵野)のある府中市との縁は深い。また、府中市を走る京王電鉄との連携も強化している。
「試合日には京王線で臨時便を出していただいており、スタジアムのある駅まで選手と一緒に電車に乗って応援に行こうというイベントも実施しました」(田中氏)


このほかにも様々な活動・施策が紹介され、また活発に質疑応答がなされて視察は終了。サントリー府中工場へ場所を移して事業への理解を深める工場見学、そしてその後の懇親会へとプログラムは移っていった。
「企業スポーツコミュニティ」という名の通り、参加者全員が企業のスポーツ担当者ということで、具体的な意見交換がなされていたのが特に印象的だった。企業におけるスポーツの役割が模索されるなか、こうした活動からやがて各社での取り組みが発展していくことが願われる。
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次回の「企業スポーツコミュニティ」の活動は2月に大阪で開催される予定。開催内容をご覧の上、参加に興味のある方はぜひ事務局までご連絡を。
<概要>
日時:2026年2月27日(金) 15:00〜19:30
場所:大阪府大阪市 咲洲エリア
内容:ミズノ株式会社のイノベーションセンター「MIZUNO ENGINE」視察、ならびに西尾レントオール株式会社のR&D国際交流センター視察やN-LOUNGEでの懇親会等
対象:チームやリーグ・協会・大会等へ協賛を行う企業、アスリート支援を行う企業、スポーツチームを運営する企業のご担当者
参加費:無料(施設の性質上、申込内容の審査あり)
<申し込み/問い合わせ先>
アビームコンサルティング株式会社 顧客価値 戦略ユニット Sports & Entertainment
◇ 問い合わせフォームは〈こちら〉
※「問い合わせ内容」に企業スポーツコミュニティに関するお問い合わせ/参加希望等を記入ください。担当者よりご連絡差し上げます。
